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連載

#8 元2世信者が脱会後に困った「性の悩み」

暴力や支配は愛情ですか?元信者が思う「大人に性教育が必要な理由」

正しい知識が守る、わが子の未来

子どもの意志を尊重し、自己肯定感を高めるには、大人への性教育が欠かせない――。元「宗教2世」の漫画家・たもさんが、そう考える理由とは?
子どもの意志を尊重し、自己肯定感を高めるには、大人への性教育が欠かせない――。元「宗教2世」の漫画家・たもさんが、そう考える理由とは? 出典: たもさん提供

目次

誰かに愛されるため、従順でいなければいけない……。身近な大人から無条件に受け入れられないまま成長し、そんな思いを膨らませている人々がいます。恋人や配偶者から、支配や暴力などによって傷つけられても、それを愛情表現と思い込んでしまう。宗教団体元信者で漫画家のたもさんは、そんなアンバランスな関係性を乗り越えるため、「性教育が不可欠だ」と考えているそうです。性にまつわる知識を得るだけではなく、自分も他人も尊重する心を養うことができる。そんな意義について、実体験を交え描いてもらいました。

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#元2世信者が脱会後に困った「性の悩み」

従順であることの「副作用」

「親から自由になれたのに、彼氏にDVされた」
「夫からひどい扱いを受け、ようやく離婚できそう」
「性衝動を抑えられず、不特定多数と性関係を持った」

宗教信者の親のもとに生まれた、「宗教2世」の人々が集まる「オフ会」などに参加し、たもさんが耳にしてきた身の上話です。

幼少期から宗教団体に属し、親を始めとした周囲の人々から、理不尽な目に遭わされてしまう。その結果、成長しても恋人や配偶者から同じように扱われ、あまつさえ自分より弱い立場の人につらく当たる人が少なくない――。たもさんはオフ会に参加する中で、そう気づきます。

その理由を考えたとき、たもさん自身が体験した、あることを思い出しました。「私も『従順でいれば愛される』と教えられていたなぁ」

過去に身を置いていた教団では、「羊のように従順であれば、神から滅ぼされない」と説かれていました。集団の中で仲間外れにされるのも、反対意見を述べて、相手の気分を害するのも怖い。だから、言うことに従おう……。そう思っていました。

一方、そんな生き方は強い「副作用」も伴います。他人の意見に逆らえず、暴力や搾取の標的になりやすくなってしまうかもしれないからです。

出典: たもさん提供

「守れるかな、これからの子どもたちを」

無条件で愛された経験がないまま、支配や依存といった不均衡な関係性を避け、健全に誰かとつながることは簡単ではないかもしれません。どれだけひどいことをされたとしても、暴力・支配を愛情と混同してしまう可能性は否めないのです。

たもさんは、息子のちはるを見つめ、こんなことを伝えたいと考えました。

「あなたは今のままで十分、大切な存在だ」
「嫌だと言うのは、相手を全否定することにならない」
「誰かに相談したり、助けを求めるのは恥ずかしくない」

「守れるかな、これからの子どもたちを」「加害者にも被害者にも、ならないようにできるかな」。思いを巡らせながら、ちはるを抱きしめ、キスしようとします。

しかし、悪いお手本になってはいけないと、はたと動きを止め、こう尋ねるのです。「だ……抱きしめてチュ―してもいい?」

「チュ―はダメ!」と言われつつ、これからも続くであろう性教育の道を歩もうと、ひそかに決意を新たにするのでした。

出典: たもさん提供

大人の愛情表現こそ正されるべき

10歳で教団の一員となった、たもさん。自らと似た境遇にある宗教2世たちとの語らいを通じ、その多くが、信徒である親からゆがんだ愛情を注がれていると知ったといいます。

「彼ら・彼女らの中には、親に逆らうとゴムホースや布団たたきなどの『ムチ』でたたかれた経験がある人もいます。たたかれた後は『どれだけあなたを愛しているかわかる?』と抱きしめられるのだそうです。明らかな児童虐待にもかかわらず、当人たちは、傷つけられることこそが愛情表現だと思い込まされてしまうのです」

「『私は存在しているだけで貴重』『自分の意見は立場を問わず尊重されるべき』。そんな感覚を持つことは、必然的に難しくなる。学校でいじめられたり、無視され続けた子どもも同じではないでしょうか」

そして、対人関係において嫌われることを恐れ、「NO」が言えなくなった優しい人ほど、性被害に遭いやすくなってしまう。だからこそ、子どもを追い詰めてしまう、大人の不適切な振る舞いは正されるべきなのではないか――。たもさんは、そう感じているといいます。

出典: たもさん提供

人間性を尊重し合うため、性教育は不可欠

自らも小学生の息子を育てる立場から、「わが子を性犯罪の被害者にも加害者にもさせたくない」との思いを深めてきた、たもさん。虐待を受けるなどして居場所がない子どもたちに、どう性教育の機会をつくれるのか。考えた末、今回の漫画を手がけたと語ります。

同時に、本来子どもたちを守るべき立場にある大人こそ、性にまつわる正しい知識を学ばなければならない。誰しもが人間性を尊重される社会を目指す上で、性教育は不可欠である。そんな気持ちも、作品に込めたそうです。

「日本は性教育の普及が遅れているとも言われますが、最近になってようやく、メディアで大きく取り上げられるようになりました。また緊急避妊薬を薬局で買いやすくするよう、国の動きが活発化するなど、少しずつ状況は改善されています」

「性の悩みにアクセスできる機関が、もっと身近になってほしい。歯が痛くなったら歯医者に行くように、性にまつわる相談事を抱えた際、信頼できる大人と適切につながれる環境が、早く整備されると良いなと思います」

・たもさん:10歳の時に母親に連れられてキリスト教系の宗教団体に入信。進学や夢、友人関係など、多くのものを宗教による制限のために諦めてきたが、息子の病をきっかけに宗教への違和感を強め35歳の時に脱退。その後アメーバブログ「たもさんのカルトざんまい」やTwitter(@tamosan17)などで細々と活動中。著書に、『カルト宗教信じてました』『カルト宗教やめました』(ともに彩図社刊)がある。

・NPO法人ピルコン(記事監修):正しい性の知識と判断力を育む支援により、これからの世代が自分らしく生き、豊かな人間関係を築ける社会の実現を目指す非営利団体(公式サイトはこちら)。
【連載・元2世信者が脱会後に困った「性の悩み」(#なや性)】
宗教団体の元「2世信者」で漫画家の「たもさん」は、幼い頃から性的な話題を禁じられてきました。最近、思春期に差し掛かった息子の言動と向き合っています。下ネタブーム、好きな人との交わり方…どう正しい情報を伝えればいいの? 親なら誰もが抱えるであろう悩みについて、一緒に考えてみませんか?(連載は今回で完結・記事一覧はこちら

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