連載
#88 #父親のモヤモヤ
「風穴開けたい」と育休取った男性……担当替えでドクターストップに
男性は、共働きの妻と保育園児の子どもの3人暮らしです。子どもが生まれた当時、従業員100人未満の企業に勤めていました。
2週間の育児休業を取得しました。「産後を助けてくれた義理の母親が帰るタイミングでした。会社の男性で育休を取った人はいないと聞いていて、風穴を開けたい気持ちもありました」
復帰後、しばらくは定時で退社する生活を続けられました。仕事と家庭のバランスが保てていたそうです。
ところが、子どもが1歳になる頃、業務の担当が変わりました。
「負荷の大きな担当だったので、残業も増えました」。男性は、次第に帰宅時間が遅くなりました。共働きの妻の家事や育児負担は大きくなり、「なるべく残業せずに帰ってきてほしい」と求められました。そこで妻と話し合い「残業は1時間まで」と約束。上司にもそう宣言しました。早く出勤することで、業務が滞らないようにしたそうです。
それでも、元々業務量の多い担当です。次第に工期に遅れが見え始めました。
上司のプレッシャーが強まります。「これで間に合うのか?」「仕事に力を入れてくれ」。毎日、進み具合を確認してきたそうです。人の手当ても十分ではありませんでした。
「残業は1時間まで」という約束を守れなくなりました。残業時間はさらに延び、深夜や明け方に帰宅するように。朝食を用意して、家族が寝ている間に出勤という生活になってしまいました。「徹夜をしたり、自腹で会社近くのビジネスホテルに泊まったりすることもありました」
一方で、妻の不満は高まっていったと言います。男性は平日夜に子どものお風呂を担当していましたが、まったく担えなくなりました。休日出勤も増え、子どもと遊ぶこともままならなかったそうです。妻は「ワンオペ」の状態でした。
妻からのLINEには、ののしるような文言が目立ち始めました。妻は、こうしたことも口にします。「これ以上約束を破るなら、離婚する」
「自分では体調の変化に気がつきませんでした」。会社と家庭との板挟みが苦しかったのは覚えているそうです。「駅のホームに立つと、電車に……」。そんな頃、妻が心療内科の受診を勧めました。結果は「ドクターストップ」。医師に従い、すぐに休職したそうです。
会社規定の休職期間を過ぎても体調はすぐれませんでした。育休取得時、賞与査定は8分の1になった――。そんな会社への不信感もあって、退職を決めました。
男性は自宅療養を続け、現在は体調が戻ったそうです。
資格を生かして立ち上げた個人事業所と設計会社の契約社員と二足のわらじです。家計を安定させるためです。
「気持ちはラクになりました。残業もありません。ただ収入は3分の1ほどに減りました。物足りなさも感じています」
そう話す男性に、「育休」についての思いを聞いてみました。男性の「産休」制度創設が議論されるなど、育休に関心が高まる一方、中小企業の7割が「義務化」に反対という調査もあります。
「経営者側の意識改革が必要です。中小企業は、限られた人材で回しています。このままでは人材が潤沢な大企業により、よい人材が集中します。会社の継続性からも早急な改善が必要です」
「育休を義務化しても、仕事の量や、やり方を見直さないと結局、復帰後は元通りになってしまう。私のように、板挟みになる人も出てきてしまいます」
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