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#14 Busy Brain

「複雑な書類社会でADHDをやるのはつらいよ」小島慶子さんの嘆き

どうして一生懸命確認しても、ミスがあるんだろう?

小島慶子さん=本人提供
小島慶子さん=本人提供

目次

BusyBrain
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40歳を過ぎてから軽度のADHD(注意欠如・多動症)と診断された小島慶子さん。自らを「不快なものに対する耐性が極めて低い」「物音に敏感で人一倍気が散りやすい」「なんて我の強い脳みそ!」ととらえる小島さんが語る、半生の脳内実況です! 今回は、転出届の書類やパソコンの登録など、小島さんがいつも苦戦するという複雑な手続きについてお話します。

何度も確認しても書き間違いや書き漏らしがある

 ADHDというのは、人間を形作る複雑な仕組みの一部に名前がついたものです。でも診断が下ったことによって、それまで心がけや性格の問題だと思っていたことが発達障害の特徴の表れだと知り、自己理解が進んだ面もあります。

 例えば、書類の記入。一度で済むことはありません。必ず書き漏らしや間違いをやらかします。手書きでもキーボード入力でも同じこと。ケアレスミスが多いのはADHDの特徴の一つである不注意さの表れかも知れないと知って、なるほどね!と合点がいきました。これまでは魔法にかかったような心持ちだったのです。どうして一生懸命確認しても、ミスがあるんだろう?と。

 日本では銀行で住所変更などをする場合、紙の書類を送る必要がありますが、私はこれが非常に苦手です。何度も確認してもなお書き間違いや書き漏らしがあるので、必ず2回くらいは書類が戻ってきます。

 また、先日は税理士さんから書類が数部送られてきて「ここにハンコを押してください」という付箋(ふせん)が貼ってあったのですが、ただ決められた場所にハンコを押すだけなのに、まずは付箋にかぶって押してしまって一部が欠けてしまい、上から押し直したらずれてしまい、バツをして横に押し直したら曲がってしまい、ようやく押し終わったとホッとしたら、返送直前にまだあと2枚残っていたことが判明し、急いで押したらハンコの蓋をしたままだったのでただの赤い丸になってしまいました。コントのようですが、毎度毎度こういうことが続くとつくづく自分が嫌になります。

写真はイメージです
写真はイメージです 出典: PIXTA

この社会でADHDをやるのはつらいよ

 インターネットでの様々な登録や再ログインでも、何かをミスしたり忘れたりするので、何度も何度もログインをはじかれて再登録して……を徹夜で繰り返すなんてザラです。スマホやパソコンの便利な機能を駆使しているのに、それすら途中でこんがらがってどのパスワードを登録したのか、何が更新されたのかがわからなくなってしまう。

 特に日本のメガバンクや鉄道会社などのサイトはつぎはぎだらけでデザインも古臭く、あちこちに飛ばされて迷宮の中を彷徨(さまよ)い歩くことになります。非常に使い勝手が悪いので、毎度「高齢者が多い国でこんな設計では、この先どうするつもりなのだろう」と心配になります。

 ICT(情報通信技術)の利用が日本よりも進んでいると思われるオーストラリアでは、日常的な諸手続きに日本ほどは手間取ることがなく、むしろネットなどではあっけないほど簡単なので、毎度「ADHD天国か!」と感激しています。移民の国では、誰にでもわかりやすく使いやすいデザインにする必要があるからかも知れません。

 日本の複雑な手続きや分かりにくいデザインは、顧客が皆、それに耐えるだけの忍耐強さと高い読解力と緻密さ、そして従順さを持っていることを前提に成り立っています。毎度つくづく教育水準の高い国なのだなあと思うと同時に、この社会でADHDをやるのはつらいよ、と泣けてきます。冗談ではなく、全ての道具やシステムをADHDの人にも使いやすいデザインにすれば、子どもやお年寄り、言葉が不自由な人にも使いやすいものになるのではないかと思います。

写真はイメージです
写真はイメージです 出典: PIXTA

自分なら記入ミスで大学受験に失敗するだろう

 こうした特徴のせいで、子どもの頃は計算ミスや英語のスペルミスが多く、難儀しました。エスカレーター式の学校で育ったので大学受験をしないで済みましたが、マークシートというものの存在を知ったときには、自分だったらきっと記入ミスで大学受験に失敗するだろうなと思いました。

 他にもスケジュール管理や事務作業など、魔法にかけられたかのようにどうしてもうまくできないことがたくさんあるのですが、それらもADHDの特徴の表れかも知れないと知ってからは、少し諦めがつくようになりました。かつてはただ「どうしてうまくできないのだろう」と自分を責めていたけれど、今は「これは自分の脳みその特徴だから仕方ないな。やれるだけの工夫をしてもできないことはあるさ。その割には頑張っているじゃないか」と自分を労(いたわ)ることができるようになったのです。

 それでも、仕事が山積してマルチタスクを抱えている最中に事務作業が発生してミスを連発したりすると、どうしてこんな脳みそに生まれてしまったのだろうなあとつくづくつらくなることがあります。今では周囲に助けを求めることができるようになりましたが、それというのも、若い頃のようにものすごい量のエネルギーを費やして極力ミスのないように作業を進めることができなくなってきたからです。気合では乗り切れない年齢になって、ようやく自分の不完全さを受け入れることができるようになりました。

 30代まではむしろ自分はマルチタスクが得意なのだと思っていたけれど、相当無理をして社会に適応していたのだと今はわかります。だから毎日あんなにヘトヘトだったのだなと。今もだけど。

 私の動きを俯瞰で見ると、きっとお掃除ロボット「ルンバ」にそっくりでしょう。あっちゃこっちゃ一貫性なく走り回っているうちに、最終的には全体がきれいになっている、というアレです。ルンバの動きは合理的な理由があってのことなのでしょうが、私の場合は何かをしている途中で違うことを思いつき、それに夢中になってさらにまた違うことに手をつけ、通りすがりに最初にやっていたことを思い出して取り掛かり……と連想ゲームと偶然の積み重ねで、なんとか事を成し遂げるのです。

 すぐに何かを思いついたり気が散ってしまうくせに、ひとたび集中すると他のことが一切目に入らなくなり、その落差に自身も対応できずに目が回っている、という感じです。うんと集中したときに出力するものがたまたま仕事になっているのでなんとか生きていけていますが、規則正しさと正確さの求められる職場では絶対に通用しないだろうと思います。

写真はイメージです
写真はイメージです 出典: PIXTA

小島慶子(こじま・けいこ)

エッセイスト。1972年、オーストラリア・パース生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『曼荼羅家族 「もしかしてVERY失格! ?」完結編』(光文社)。共著『足をどかしてくれませんか。』(亜紀書房)が発売中。

 
  withnewsでは、小島慶子さんのエッセイ「Busy Brain~私の脳の混沌とADHDと~」を毎週月曜日に配信します。

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