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連載

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#12 アニメで変わる地域のミライ

もんじゃ屋に相次いだ「謎予約」 いつの間にか「ラブライブ!」聖地

店のおかみは、「何が起こっているのかわけがわからなかった」と振り返ります。

7月以降、キャラクターのグッズ置き場も設置された=写真はいずれも筆者撮影
7月以降、キャラクターのグッズ置き場も設置された=写真はいずれも筆者撮影

目次

アニメやマンガの舞台を旅する「聖地巡礼」は、アニメが放送され、舞台が取り上げられてから盛り上がることがほとんどです。しかし、中にはアニメ放送前で、直接舞台に登場していないにもかかわらず、ファンが押し寄せている場所があります。「ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」の「聖地」と言える、東京都江東区・門前仲町にあるもんじゃ焼き屋「門前仲町 三久(さんきゅう)」の例を紹介します。

急増する予約名「宮下」

「今年5月の連休明けぐらいのことです。『宮下』さんという予約名の方が急に増え始めたんです」

こう打ち明けるのは、東京都江東区・門前仲町で40年近く続く老舗もんじゃ焼き屋「門前仲町 三久」のおかみ、飯島ゆりさんです。

「宮下」という名前で店を訪れる男性客の中には、金色の髪をした白目のキャラクターが寝そべっているぬいぐるみをテーブルの上に置いて撮影する人がいたり、「ここしかないだろうな」という会話が聞こえてきたりしたといいます。

「何が起こっているのかわけがわからなかった」と振り返る飯島さんは、「宮下」を名乗る男性客たちにどういう目的で訪れているのかを聞き出します。すると「ここがあるゲームのキャラクターの実家なんじゃないかと言われている」などの答えが返ってきます。飯島さんがさらに話をしていくと、スマートフォンゲーム「ラブライブ!スクールアイドルフェスティバルALL STARS」に登場する女子高生のキャラクター・宮下愛の実家として、「門前仲町にある一戸建てのもんじゃ焼き屋」という設定があることがわかりました。

ちなみにこうした予約名をキャラクター名で入れる現象は、飲食店がモデルになっている他の作品でも見られます。特にアニメファン同士で店を訪れる場合、お互いネット上のハンドルネームしか知らないという状況が往々にしてあります。そのため、誰か一人の実名で予約するより、共通符号となるような名前で予約したほうが勝手がいいというのも背景にあります。

東京都江東区・門前仲町にあるもんじゃ焼き屋「門前仲町 三久」
東京都江東区・門前仲町にあるもんじゃ焼き屋「門前仲町 三久」

ファン主導で「聖地」となった経緯

実はこのゲーム、筆者も2019年9月26日のリリース初日からプレイしていますが、この宮下愛(以下、愛さん)の実家が明らかになるのは、12月1日に追加されたキャラクター別エピソードの7話でした。そこでは、門前仲町にある神社「富岡八幡宮」前の永代通りにある商店街の背景が登場し、愛さんの実家がもんじゃ焼き屋であることが語られます。そして、家が一軒家であるという設定も背景などから明かされます。

当初は「もんじゃ焼き屋」という設定から、ファンの間では月島ではないかとも言われていましたが、舞台モデルが門前仲町であることが特定されると、門前仲町にあるもんじゃ焼き屋はどこか、という議論がなされました。すると、門前仲町にある目立ったもんじゃ焼き屋が2軒あり、どちらも「三久」という屋号であることがわかります。

この屋号名も、愛さんと関連性が高いものと見なされました。というのは、愛さんの趣味の一つに、「1人でダジャレしりとりをするほどダジャレが好き」というものがあります。「三久」という屋号名が「サンキュー」とかけたものであり、ゲーム中に登場する、もんじゃ焼き屋の店員の格好をした愛さんのカードの一つが「来てくれたんだね!サンキュー♪」と名付けられていることなどからも、お店のモデルとして関係があるのではないかと受け止められたからです。

となると、二つある「三久」のうちのどれかということになります。一方はビルの中にある店舗で、もう一方は一戸建ての「門前仲町 三久」となり、これらの情報からファンが「聖地」と認定して訪れるようになりました。

「三久」のもんじゃ焼き
「三久」のもんじゃ焼き

志村けんさんも愛した名店

今でこそ、愛さんをはじめとする「ラブライブ!」グッズが店内に置かれている「門前仲町 三久」ですが、店内の多くを占めているのは、巨人の菅野智之選手や元日本ハムの大谷翔平選手をはじめとするプロ野球選手のサイン入りユニフォームや、芦田愛菜さんや松平健さんをはじめとする芸能人のサイン色紙です。

中でも特に目に付くのが、志村けんさんの写真の数々です。2000年代初めごろ、テレビ朝日が現在の本社がある六本木に移転する前の工事期間中に、江東区東陽町に放送センターが置かれていた時期があります。この頃に、仕事を終えた志村けんさんが「三久」をよく訪れていたといいます。

常連だった志村けんさんが、当時「三久」のために考案したメニューがあります。「酒のつまみに最適になるように」と、お店のオリジナルもんじゃに辛みそを加えた「しむけんもんじゃ」です。酒豪として知られる志村さんは、焼酎ロックにビールをチェイサーとして飲むほどだったといいます。20年近くが経った今でも、「しむけんもんじゃ」はお店の看板メニューです。

志村けんさんとの思い出の品々も展示されている
志村けんさんとの思い出の品々も展示されている

ラブライバーが愛する店に

飯島さんは、志村さんの訃報を知った時のことをこう振り返ります。

「言葉も出ないほどショックでした。コロナで亡くなったこともあり、式の参列など何もできていませんが、お店では2日間貸し切って追悼イベントを行いました。店としても大事な何かを失った心地でしたが、その隙間を埋めるようにラブライバー(「ラブライブ!」ファンのこと)の方々が訪れて下さるようになりました。こうした出会いや因果に不思議な縁を感じます」

ラブライバーの方々は7月頃から特に増え続けたといいます。

「とにかくリピーターの数がすごく、毎週のように訪れて下さる人も珍しくありません。首都圏だけでなく、大阪や仙台、熊本、山口、岡山など、全国から毎月のように訪れる人もいます」(飯島さん)

そして、10月からはテレビアニメ「ラブライブ! 虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」の放送も始まりました。24日に放送された4話では愛さんの実家が登場し、アニメでも店の場所が門前仲町であることが描かれました。家の位置関係こそやや違っていたものの、店の外観は他に実在していたお店に、「三久」の外観もかけあわせたような架空のものとなっています。

「三久」がそのままアニメに登場することはありませんでしたが、それでもお店にはファンが毎週のように訪れています。飯島さんをはじめ、お店の方々がファンをおもてなし続ける限り、今後も「三久」がファンに愛される「聖地」であり続けることは間違いないでしょう。

店内に飾られているプロ野球選手のサイン入りユニフォーム
店内に飾られているプロ野球選手のサイン入りユニフォーム

河嶌 太郎

「聖地巡礼」と呼ばれるアニメなどのコンテンツを用いた地域振興事例の研究に学生時代から携わり、10以上の媒体で記事を執筆する。「聖地巡礼」に関する情報は「Yahoo!ニュース個人」でも発信中。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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