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ファーストサマーウイカ、元アイドルがつかんだ「笑いの境地」

コテコテの関西弁が生む心地よい「乖離」

ファーストサマーウイカ=2019年7月5日、東京都渋谷区、伊ケ崎忍撮影
ファーストサマーウイカ=2019年7月5日、東京都渋谷区、伊ケ崎忍撮影

目次

昨年、突如としてバラエティーの世界に現れたファーストサマーウイカは、「アイドル」と「コテコテの関西弁」のギャップを強みに、一躍、注目を浴びるようになった。「2019年下半期・急上昇テレビ番組出演ランキング<フレッシュ平成世代>」(参考:株式会社エム・データ)では首位を獲得。その勢いは今年に入っても健在だ。自由奔放に見えて、的確に笑いのツボをおさえた立ち居振る舞いは、筒井康隆氏の短編『乖離』の主人公のよう。バンド、役者、アイドルなどの経験をいかしながら、時代の流れを的確につかんだウイカの魅力に迫る。(ライター・鈴木旭)

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まるで筒井作品のようなキャラ

最初にファーストサマーウイカを見た時、私は作家・筒井康隆氏の約20年前の短編小説『乖離』(文春文庫『エンガッツィオ司令塔』に収録)を思い浮かべた。

「乖離」は、普段は無口で容姿端麗の美女だが、一度口を開くと「亭主のどアホさっきぐでんぐでんに酔っ払いくさって家戻ってきさらして、屁ぇ二、三発こいて寝てこましよったさかいに……」などと下品な関西弁をまくしたてるがためにタレントのスカウトマン兼マネジャーから目をつけられ、ワイドショー番組で「主婦層のご意見番」として賛否を巻き起こした後、芸能界で痛快な活躍を見せていくという話だ。

まさにウイカは、「アイドル」と「コテコテの関西弁」というギャップによってブレークのきっかけをつかんだ。さらに言えば、注目を浴びる前に結婚もしている。この短編を読んでいたかどうかは不明だが、筒井作品さながらのインパクトをもって登場した稀有(けう)なタレントであることは間違いない。


「乖離」が収録された筒井康隆の短編集『エンガッツィオ司令塔』(文春文庫)

「ライブで前に出られない」で役者に

これまでの発言を追っていくと、ウイカの自由奔放さが垣間見える。

幼少期から人見知りもなく学芸会にも積極的に参加するようなタイプだった。中学で吹奏楽部に入部し、打楽器を担当する中でドラムをたたくようになる。その流れで高校時代はロックバンドのドラマーとして活動するも、「ライブで前に出られない」というフラストレーションがたまっていき、卒業後は自由に動き回れる役者を志すようになった。(2019年8月5日に掲載された「日刊サイゾー」のインタビューより)

アルバイトや派遣社員として働きつつ、関西の小劇場を中心に活動する「劇団レトルト内閣」に所属し、女優として5年間活動。その中で東京に遠征する機会もあり、上京したいという思いが湧き上がった(2020年2月21日放送の『鈴木おさむと小森隼の相談フライデー』(TOKYO FM)より)。


「劇団レトルト内閣」の 第29回本公演「モダン・ガールはネコを探して」のプロモーション動画

「神のお告げ」とアイドルに転身

2013年の春、ウイカが22歳の時に上京。女優志望ではあったが、まったくのノープランだった。そんな折、Twitterでアイドルグループ「BiS」のメンバーオーディションの情報が目に入った。ウイカはこれに迷いなく飛びつくことになる。

というのも、先述の劇団の公演を通して知り合った□□□(クチロロ…三浦康嗣と村田シゲ、いとうせいこう氏をメインとする音楽ユニット)の村田シゲのUstream番組にBiSが出演しているのを見たことがあり、グループの特性を知っていたからだ。BiSは下ネタや過激な発言を売りとする特異なアイドルで、ウイカ自身、「なんだこれは」と興味津々だった。

女優志望で上京したものの、「あぁ、これだ」と直感したウイカは、“神のお告げ”とばかりにオーディション会場へと足を運ぶ。当日は「日本昔ばなし」の歌を披露し、晴れてアイドルグループの一員となった。(2013年6月12に掲載された音楽配信・情報サイト「OTOTOY」のインタビューより)


ウイカがオーディションで歌ったのが「日本昔ばなし」の歌だった

自己プロデュースでポジションつかむ

BiSでの活動は、2014年7月に解散という形で終止符が打たれてしまう。再び女優業へとシフトしようとした矢先、ファッションブランド「A BATHING APE®」の創業者であり、音楽プロデューサーとしても活動するNIGOから「もう一回グループでやってみないか」と声が掛かった。

ウイカはこれを引き受け、2015年からアイドルグループ「BILLIE IDLE®」(2019年12月28日に解散)のメンバーとして活動することに。翌2016年10月に放送の『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系)には、まだバラエティータレントとして活躍する前のウイカが出演している。今のようなヤンキー風の茶髪ではなく、当時は黒髪のロングヘア。一緒に出演していた友人の苦労話に泣いてしまう姿が印象的だった。

ウイカが現在のイメージになったのは、2019年1月に放送の『女が女に怒る夜』(日本テレビ系)に出演してからだ。初めて受けたバラエティーのオーディションを勝ち抜くため、「宝塚ヘア」「コテコテ関西弁」「毒舌」というキャラクターで自身をプロデュース。この時、「3つのキーワードでウイカをイメージさせたら勝ち」という戦略があった(2020年2月26日に放送された『関ジャニ∞のジャニ勉』(関西テレビ)より)。

そのもくろみ通り、この番組からウイカは一気にブレークした。あくまでも無理のない程度に自らを演出し、唯一無二のポジションをつかんだのである。

一気にバラエティークイーンへ

2019年はバラエティーだけでなく、ドラマやテレビCMへの出演、アメリカ映画の日本語吹き替えに声優として挑戦するなど大活躍。今年3月にラジオ番組『ファーストサマーウイカのオールナイトニッポン0(ZERO)』がレギュラー化し、9月に『お願い!ランキング』(テレビ朝日系)内の企画「太田伯山ウイカのはなつまみ」がスタートするなど、その勢いはとどまることを知らない。

なぜウイカはここまで支持されるのか。その大きな理由が、10月24日に放送された『まっちゃんねる』(フジテレビ系)内のコーナー「女子メンタル」で垣間見えた気がする。

「女子メンタル」とは、Amazonプライム・ビデオで配信されているお笑いドキュメンタリー番組『HITOSHI MATSUMOTO presents ドキュメンタル』の地上波版で、密室に集められたバラエティークイーン7人で笑わせ合い、最後まで笑わなかった者が勝利するという企画だ。この中で、“裏回し”とも言える動きを見せたのがウイカだった。

「女子メンタル」で見せた“裏回し”のスキル

参加者はウイカのほか、AKB48の峯岸みなみ、朝日奈央、ゆきぽよ、松野明美、浜口京子、金田朋子。峯岸、朝日、ゆきぽよは番組を盛り上げる“バランサー”を担うタイプで、残りの3人はお笑い芸人とは異なる特有の“ボケ資質”を持っている。

それを把握してのことだろう。ウイカは、主に笑いにつながる前振りとツッコミ役を買って出ていた。最初の笑いどころである「笑い袋」を手に取ったのもウイカで、これをきっかけに金田のワンマンショーが始まっている。また、見ている側が理解しにくい話を聞き返し、補足することで笑いにつなげていたのもウイカだ。つまり、参加者でありながら、どうすれば「盛り上がるか」「伝わるか」という俯瞰(ふかん)した視点がそこにあった。

さらにウイカ自身が仕掛けたボケは、芸人さながらの玄人笑いだった。「おススメの本、紹介してもいいですか?」とバッグの中からダウンタウン・松本人志のベストセラー本『遺書』と『松本』(ともに朝日新聞社)を取り出す。2冊ともにビッチリと付箋(ふせん)が貼られている。続いて何げなく机に置いたのが相方・浜田雅功の『読め!』(光文社)だ。こちらにはまったく付箋がなく、読み応えのなさがうかがえる。

言葉ではなく画として気づくことで笑いがこみ上げてくるボケだけに、少々難易度が高く参加者は誰も笑わなかった。しかし、これはウイカの中で想定内だったのではないだろうか。ライバルを笑わせるというより、モニタールームで監視している松本ら男性芸人たちの笑いをとりにいった行動に見えた。

そのほか、モニターを使って自身の写真を見せる過程で、ロックバンド「シャ乱Q」のギタリスト・はたけのカットを差し込むなどいちいち芸が細かい。大阪という土壌で育ったからか、笑いの仕組みを理解しているからこそ、「自分をどう見せるべきか」「なにが求められているか」を的確に把握できるのだと思う。

人気を後押ししたバラエティーの潮流

バラエティーの潮流もウイカの人気を後押しした。2010年のローラ、2015年の滝沢カレンのブレークを見ても、お笑いを軸としない女性タレントが注目される傾向にあったのは間違いないだろう。

「女子メンタル」が好評だった裏には、参加者が女性芸人ではなかったという点も大きい。“お笑い芸人”となるとハードルも上がってしまうが、バラエティータレントならば本職ではないため身構えることもない。さらには、多少の滑稽さでもギャップによって笑いを生みやすい利点もある。番組としては非常に都合がいいのだ。

ジェンダーや格差といった問題が取り沙汰されて、ネタにしにくい話題が増えるなど制限の多くなったテレビ番組の状況下で、女性のバラエティータレントが活躍しているのはある意味で必然と言える。この流れに、ウイカはうまくハマったと言えるだろう。

「事実は小説より奇なり」

冒頭で紹介した筒井作品の「乖離」という短編では、下品な関西弁で注目を浴びた美女がタレントとして引っ張りだことなり、マネジャーの手に負えない存在となって事務所を去っていく。そのマネジャーの視点から、作者の筒井康隆氏はこう結論づけている。

「彼女のことばは自分の美貌と悪声を利用したサーヴィスではなかったのか。(中略)身を護ると同時に人に好かれなければならないという、危険に満ちた社会の中の美人としては危険・危険・危険の極めて困難な状況の中で生きていくための必然から、彼女はあの独特のことばを、それは無論なかばは無意識的にであろうが、やはりなかばは高い水準にある筈の知能によって編み出したのだ」

バンドマン、役者、アイドル、バラエティータレントと、あらゆることに触手を伸ばして見識を広げたウイカ。その経験値から自身の特性を把握し、たどり着いたのがバラエティーの世界だったのだろう。

事後報告とはいえ、アイドルとして活動中の2015年に結婚していたと発表してバッシングを浴びないというのも珍しい。「人前に立つことがやりたい」という欲求とサーヴィス精神が呼応し合い、視聴者を不快にさせないパフォーマンスを見せている結果なのだと思う。

筒井作品の美女は非常に豪胆だが、ウイカは繊細な一面ものぞかせながら支持され続けている。まさに「事実は小説より奇なり」だ。いずれにしろ、完全なセルフブランディングによって成功した女性タレントの第一人者として語り継がれるのは間違いない。

ウイカのような存在が生まれた背景には、従来の方法論では通用しない揺れ動くエンタメ業界の実態がある。今後、ウイカの持つ「ブランディング」および「サステイナビリティー(持続可能性)」の素質は、ますますタレントに求められていくだろう。ウイカの活躍は、そんな時代の変化も感じさせてくれる。

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