連載
#55 ○○の世論
「脱ハンコ」60代以上が示した〝温度差〟 肝いり政策への評価は?
「携帯料金の値下げ」への受け止め
「携帯電話の料金引き下げ」と「脱ハンコ」。菅義偉首相の肝いり政策について、10月に行った朝日新聞の全国電話世論調査で聞いてみると、おおむね好意的な評価が下される一方、年代や職業によっては「温度差」がみられました。(朝日新聞記者・磯部佳孝)
「携帯電話料金の引き下げなど、これまでにお約束した改革については、できるものからすぐに着手し、結果を出して、成果を実感いただきたいと思います」。臨時国会が召集された10月26日、菅首相は国会での所信表明演説で、こう強調しました。
10月の調査では、「携帯電話の料金引き下げ」について、以下のように聞きました。
「大いに」「ある程度」を合わせた「評価する」は82%に達し、「あまり」「まったく」を合わせた「評価しない」16%を大きく上回りました。
携帯電話の料金をめぐっては、菅首相が官房長官時代の2018年8月に「4割程度下げる余地がある」と発言したことをきっかけに、制度改正に向けた議論が加速しました。
総務省は、2019年10月に携帯料金のルールを変更し、2年契約の途中で解約した場合の違約金を9500円から上限1千円に引き下げました。こうした議論のなかでは、有識者から「料金に政府が手を突っ込むのは抑制的であるべきだ」などと批判的な意見も出ました。
本来、携帯電話の料金は民間企業の競争を通じて決まるものだとされています。菅政権のように、「市場原理」だけに任せるのではなく、政府が民間企業に引き下げを促すことは「官製値下げ」とも指摘されてきました。
それでも、「値下げ」という恩恵を受ける消費者にとっては、菅首相の推し進める「携帯電話の料金引き下げ」は好評価のようです。
「携帯電話の料金引き下げ」について、年代別の評価は以下の通りです。
60代以下の世代で「大いに評価する」がそれぞれ40%以上でしたが、70歳以上だけが31%と低い結果でした。さらに、「あまり評価しない」は60代以下で8%~14%だったのに対し、70歳以上では19%でした。
「携帯電話の料金引き下げ」に対して、日常生活で携帯電話を使う機会が他の世代と比べれば少ないと思われる70歳以上では、「絶賛」とばかりは言えない複雑な思いを持っているようです。
次に、「脱ハンコ」です。菅政権は「あしき前例主義の打破」を掲げて、行政の手続きや文書からハンコをなくそうとしています。菅首相は所信表明演説で「行政への申請などにおける押印は、テレワークの妨げともなることから、原則全て廃止します」と述べました。
同じ調査で「脱ハンコ」について、以下のように尋ねました。
賛成55%が反対34%を大きく上回りました。「携帯電話の料金引き下げ」と同じく、「脱ハンコ」も支持を集めているようです。
ただ、「脱ハンコ」をめぐる賛否では、年代別や職業別で分析すると、「温度差」がみえてきます。
年代別に「賛成」をみると、50代以下では58%~71%と高かったのに対し、60代は46%、70歳以上は41%と過半数を割りました。70歳以上では「賛成」41%、「反対」43%と分かれました。
職業別で「賛成」を比べると、いわゆるホワイトカラーにあたる事務・技術職層がもっとも高い67%だったのに対し、60代以上が大半を占める主婦層がもっとも低い39%でした。主婦層は「反対」48%が「賛成」39%を大きく上回りました。
ハンコをめぐっては、コロナ禍で大企業を中心に在宅勤務(テレワーク)が広がるが、ハンコを押すために「やむなく出社」する人もおり、企業側からは「押印がなくならないのは官庁も必要としているからだ」という声も出ています。特に、事務・技術職層が「脱ハンコ」を歓迎しているのは、こうした事情がありそうです。
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