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オフィスない!職もない!でもコロナ禍の新スタート、案外追い風かも
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beforeコロナの私、自分の事業を本格化するならオフィスは絶対だと思っていました。まずは通う場所を確保、人間はそのあと。
結果的に素敵なご縁に恵まれ、あるオフィスの一角を間借りできることに。ものすごくおしゃれなインテリアに囲まれた、都心の一等地。なのにあまり外には知られていない秘密基地のようなアドレスで、「こんなとこで働けたら映画の主人公みたいだなあ」と夢見ていました。
ですが、リモート推奨の流れによって間借りする予定だった先方が、オフィスの移転を決定。私の夢は本当に夢で終わってしまいました、笑。
オフィスの話がなくなった。職も失った。
ダブルパンチ!と思いきや、オフィスに関しては全く問題なかったというのが救いでした。
雑談したい。
みんなでランチ何食べるかじゃんけんしたい。
コーヒー買いがてら後輩とサボりたい。
そんなストレスは、今年私だけのものではなかったからです。
憧れのオフィスで新しい仲間と雑談する夢は叶わなかったけれど、全員がひとりぼっちだった今年、最初っからひとりぼっちだった会社にとっては寂しさが紛れて少しだけ気が休まった気がします。
「働く=通う」という働き方の前提が大きく覆った今年、急速に普及したのが言わずもがな、オンラインミーティングだと思います。
私も書店のオープンにあたり、資金集め・システム開発・物流・選書を依頼する書店員さん・PRやSNS運用などなど、ありとあらゆるミーティングはすべて、オンラインの「初めまして」からスタートしました。
オンライン会議は、読むはずの「空気」がその場になく、淡々と打ち合わせが進むのが面白い。
例えば、会社を訪問してミーティングをするとします。
ロビーで待つ時の緊張感、仕事がデキそうなビジネスパーソンと同じエレベーターになったときの気恥ずかしさ、自分の攻めすぎたファッションへの後悔、出されたお茶を飲みきるか否か...
そういった会議に付随する諸々の副次的要素からオンラインは私を解放し、本題への道筋をかなり合理化したと感じます。邪念に惑わされることなく本題に突き進める感覚は気持ちがいいな、とも。
さらに、オンライン会議を導入して同じくらい気持ちよく感じたことが、退出ボタン一つでお別れできる気軽さです。
初対面でなんとなく合わなかった人、直接会っていないからこの先街ですれ違ってもお互い認識できないんだろうなあ……。
会ったようで会っていない気がするオンラインの弊害は感じていたけれど、逆に「会わなかったことにできる」のはオンライン強さでもありました。おまけに打ち合わせの際の交通費もかからなくて、朝もゆったり眠れて、オンライン会議最高です。
読むべき空気がないから楽なオンライン。言い換えると、共有できる温度感が存在しない寂しさがあります。それに気が付いたのが、サービス開発をお願いしたエンジニアチームとの定例会議。これだけは極力いつも対面でした。
仕事も、古くからの友人と同じように、会うだけで互いにいいエネルギーを出し合えているような気持ちになることがあります。仕事の良し悪しは別に、これは多分人間性の相性の話。私にとって開発チームはまさにそれに当たる方で、定例会は仕事を進める、以外に「会う」という目的がありました。
「明日の打ち合わせ、対面でもオンラインでもいいですが、どっちにしますか?」
「体調が抜群にいいので、伺います!」
こんなやりとりが何度かあって、先方にはきっと、この人オンラインで済むものをめちゃくちゃ会いにくるなって思われていると思います、笑。
「会う」が加わることで仕事へのアウトプットにどれだけ影響が出たか、定量では言い表せませんが、会うことで育まれたアイディアの解像度や信頼関係は確実にあったように感じます。
こんなこともありました。
いつもとても親身に、そして前向きな議論でオンライン会議をして下さる社外の方がいらっしゃって、いざお顔合わせのタイミングで私が名刺を差し出すとびっくり。先方はオフラインでお会いしていないことを忘れていたようで笑っていました。改めて名刺交換をさせてください、なんていう儀式も、日本特有のハンコ文化と合わせてもしかしたら減っていくのかもしれません。
この時代の一番ストレスのない人間関係の始め方は、オンライン上でまずは「初めまして」をしてお互いの人柄や雰囲気を確認する。
その先にオフラインでの「初めまして」があるとうまくいきやすいというのが、このコロナを経て私が感じたことです。
この発見は、この先オープンする書店での本の感想をシェアする部分のサービス開発に、大いに役に立ちました。
我が家の60代の両親、今年は苦戦しながらもオンライン会議の設定を頑張っていました。
世代によるデジタルリテラシーの格差は埋めきれない部分も多少ありますが、オンライン会議に関しては足並み揃えてみんな一緒に歩み始めた感覚があり、なんだか楽しい気持ちになりました。
今年、景気は悪いし職もないし、悪いことは数えるとキリがないです。一方で、オフィスはいらずどんな会社もみんな家から会議、交通費もかからず、みんな自分のことで精いっぱい。
この状況はどさくさに紛れて色々始めやすいというのもまた、一理あると思います。
景気のいい時の出発は、トントン拍子に話が進むあまりついアクセルがかかってブレーキの準備が十分にできていない。一方で不景気の出発は、小さく歩みを進めなくてはいけない分、長く生きていく忍耐力や処世術は身につきやすいはずです。
なんて、これはあくまで仮説です。今私が自分の人生をもって証明中ですので、うまく行かなかった場合は猛省して撤回させてください。
2020年、もう生きているだけで偉いね偉いねって世界中みんなで褒め称え合いたい気分です。
森本萌乃 1990年東京生まれ。株式会社MISSION ROMANTIC代表。
2013年に新卒で広告代理店に入社後、外資とスタートアップへの二度の転職を経験、スタートアップ企業在籍中に自身の会社である株式会社MISSION ROMANTICを2019年創業。パラレルキャリアで起業と会社員を並行し、2020年より自分の事業へ一本化。2020年中に自身の新サービスであるオンライン書店のオープンを目指す。
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