MENU CLOSE

お金と仕事

「友達も救えなかった」監督の後悔 作品で伝える「地獄すぎる職場」

労組に相談 「洗脳」がとけた

映画「アリ地獄天国」=映像グループ ローポジション提供
映画「アリ地獄天国」=映像グループ ローポジション提供

目次

「アリ地獄」と社員が自嘲する過酷な職場。労働環境の改善を求める30代社員の闘いに密着した映画「アリ地獄天国」が東京都内で公開中だ。土屋トカチ監督(49)が作品に込めたのは、「職場は地獄すぎる」と言って8年前に自死した親友への強い思いだ。(編集委員・清川卓史)

【PR】手話ってすごい!小学生のころの原体験から大学生で手話通訳士に合格

労働問題の映画を撮ってきたのに

過労死・過労自死など仕事を理由に命を失う人は後を絶たない。「その一人が僕の友人『山ちゃん』」という監督の語りで映画は幕をあける。派遣社員として工場で働き、職場のいじめに苦悩していた。信頼する労働組合を紹介した。「僕の争議を撮ってほしい」と頼まれたが、自信がなくて断った。

「2012年10月28日が『山ちゃん』の命日です。新聞奨学生として大学に通っていたとき、同じ新聞販売店で住み込みで働いていたときの後輩で、一緒に銭湯にいったり、飲みにいったりしてました。いま振り返れば、映画を撮ってほしいというよりも、古い友人にそばにいてほしかったんだな、と」

労働問題の映画を撮ってきたのに、友達も救えなかった……。何年かは自己嫌悪が続いた。彼でない人の争議を撮ることで、彼の思いを表現できればとの思いが、今回の作品を生んだ。

山ちゃんを思いながら撮影

映画の主人公は「西村さん」(仮名)。ある日、会社の車で事故を起こしてしまい、48万円の支払いを迫られる。それまで当たり前と思っていた会社のルールに疑問を抱き、労働組合に相談する。

会社の労働条件に異議を申し立てると、人事権をふりかざす会社からシュレッダー係への配転、ついには懲戒解雇処分を言い渡される。3年に及んだ闘いをカメラで追った。山ちゃんを語るシーンも織り込まれ、観客は監督の思いを知る。

「カメラを手に西村さんのそばにいることができた。山ちゃんにできなかったことを、西村さんにしていた。どこか山ちゃんを思いながら撮影をしていました」

土屋監督自身、工場での偽装請負、日雇い派遣などの不安定な雇用を経験。山ちゃんと同じ工場で働いていたこともある。その後入社した映像制作会社を解雇され、個人加盟のユニオンに入って争った。解決金でビデオカメラを買ったのが、映画監督を志すきっかけだった。山ちゃんや西村さんの境遇は他人事ではない。

「時間に追われて工場のラインで働くしんどさは忘れない。解雇された映像制作会社では『この業界は残業代がでない』と社長に言われ、そんなものかと真に受けていた。労組で洗脳がとけました」

映画「アリ地獄天国」=映像グループ ローポジション提供
映画「アリ地獄天国」=映像グループ ローポジション提供

「なんで職場は地獄すぎるんやろね」

葬儀を終えて間もない山ちゃんの自宅、幼い娘が描いた山ちゃんの似顔絵が映し出される。「職場が地獄すぎて、ウチが天国みたいですわ」。夜中にかかってくる電話で、山ちゃんは何度も言っていたという。

なんで職場は地獄すぎるんやろね……。そう亡き山ちゃんに語りかけた後の、静かな叫びのような監督のメッセージで映画は幕を閉じる。

学生時代の土屋トカチ監督(写真右)と山ちゃん(同左)=映像グループ ローポジション提供
学生時代の土屋トカチ監督(写真右)と山ちゃん(同左)=映像グループ ローポジション提供

おかしいと思ったら相談を

新型コロナウイルスの感染拡大で労働者を取り巻く環境は厳しさを増す。

土屋監督は言う。「コロナ禍で働く人が簡単にクビを切られる今だからこそ、映画をみてほしい。おかしいと思ったら、労働組合や法律家に相談してほしい」。

映画の主人公・西村さんが個人加入して一緒に闘った労働組合は「プレカリアートユニオン」(https://www.precariat-union.or.jp/)。

日本労働弁護団では相談料無料のホットラインを実施している。実施する曜日や時間帯はウェブサイト(http://roudou-bengodan.org/)に掲載されている。


     ◇

「アリ地獄天国」舞台はとある引っ越し会社。営業職の30代社員は、過労死レベルの長時間労働や残業代の未払い、車両の修理費などを自己負担で弁済させられる労働条件に疑問を持ち、個人加盟のユニオンに加入。すると男性はシュレッダー係に配転させられ、給与は半減。ついには懲戒解雇処分を告げられる。男性はときに涙しながらも、裁判や抗議行動など、あらゆる手段で闘い続ける。土屋監督にとっては、月550時間働くトラック運転手の闘いを描いた「フツーの仕事がしたい」(08年)に続く長編ドキュメンタリー作品。東京都渋谷区のユーロスペース(上映終了日は未定)、東京都北区のシネマ・チュプキ・タバタ(11月30日まで)で上映。

関連記事

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます