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#1 金曜日の永田町

いま、菅さんに聞いてみたいこと 10年前、自民議員が鳴らした警鐘

衆院本会議で、立憲民主党の枝野幸男代表の質問に答弁する菅義偉首相=2020年10月28日午後2時3分、上田幸一撮影
衆院本会議で、立憲民主党の枝野幸男代表の質問に答弁する菅義偉首相=2020年10月28日午後2時3分、上田幸一撮影 出典: 朝日新聞

目次

【金曜日の永田町(No.1) 2020.10.30】
ああ、この人もいったん退いてしまうのか……。菅義偉首相の国会での就任演説(所信表明演説)を4日後に控えた10月22日。そんなニュースが飛び込んで来ました。9月の自民党総裁選で菅さんに惨敗した石破茂・元自民党幹事長が「責任を取る」といって派閥の会長を辞めると表明したのです――。朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。

#金曜日の永田町
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物を言い続けることが大変に

石破さんはこの数年間、自らが立ち上げた派閥を足場に、身内への厳しい苦言を交えながら首相への意欲を示し、時の政権に緊張感を与えてきました。

TBSラジオで、今後を問われた石破さんはこう語りました。

「今みんなで菅政権を支えていかなければいけない時に、『来年は私だ』なんてことは、言うべきではないと思っている」

その後に出演した報道番組で石破さんは、これまでの現政権に批判的な言動について繰り返し問われました。

物言えば唇寒し秋の風――。この9月、2年ぶりに国会のある東京・永田町の取材現場に戻ってきて、日本政治の中心地で、物を言い続けることが大変になってきているなと感じます。

7年8カ月続いた安倍晋三首相の後継を選ぶ自民党総裁選では、「石破潰し」という言葉があちこちで飛び交うなか、議員たちが雪崩を打って、菅さんの支持に回りました。政治主導を掲げる菅さんは、自らの政策に反対する官僚について「異動してもらう」と話し、これまで自治が尊重されていた日本学術会議の会員をめぐっても「任命権者である私の判断」といって6人の学者の任命を拒否しました。

霞が関の官僚たちも敏感です。菅さんの発言した数字の真偽を確認するため、ある役所に取材をしてもなかなか回答が返ってこないことがあります。「なんでこんなに口が重たいんだろう」と思うばかりです。

派閥会長の辞任を表明した自民党の石破茂元幹事長=2020年10月22日午後1時12分、東京・永田町、西畑志朗撮影
派閥会長の辞任を表明した自民党の石破茂元幹事長=2020年10月22日午後1時12分、東京・永田町、西畑志朗撮影 出典: 朝日新聞

「異論・批判がない」鳩山さんに迫った自民党議員

いまから10年前。ある自民党の国会議員が国会でこんな警鐘を鳴らしていました。

2010年2月5日の衆院予算委員会。当時の鳩山由紀夫首相とのやりとりです。

「非常に残念なことですけれども、民主党の皆さんから異論や批判の声がほとんど出ていない。民主党に自浄作用・能力がないのではないか、こう言わざるを得ないのであります。小沢幹事長も全くと言っていいほど説明責任を果たしていない、総理の対応も適切でない、これが国民世論の大半であります」

この自民党議員は、民主党の小沢一郎幹事長(当時)の秘書らが政治資金規正法違反で起訴されたことを追及。鳩山さんたちの答弁の不十分さに納得せず、「総理、それは全くおかしいと思いますよ。これだけ重要な事案を確認していないということは、私は信じられません」などと迫っていました。

「検察が厳正に公平な捜査をできる環境をつくるのも、総理大臣の役割だ」と権力者としてのたしなみも説いています。

この議員は質問の最後に、「総理は非常に洞察力のある政治家だ」と持ち上げながら、10年ほど前に鳩山さんが夕刊紙のコラムに書いていた一節を読み上げました。

「『小沢氏の発想は、明文化された法律でも内閣次第でどのようにでも運用可能というもの。独裁者の思考なのです。小沢首相が誕生することになれば、『オレは法律だ』『オレに従え』と振る舞われるつもりなのか?とても、法治国家の政治家の発言とは思えません。戦時中の統制国家が復活する危機感を感じます』――これは総理が署名入りで書いています。いかがですか」

こうした質疑が積み重なった4カ月後の2010年6月。「政治主導」を掲げ、政権発足時には71%の内閣支持率があった鳩山内閣は退陣し、鳩山さんも小沢さんも首相、幹事長の役職から退くことになりました。

辞意表明の会見で首相官邸で記者の質問をさえぎり立ち去ろうとする鳩山由紀夫首相=2010年6月2日、飯塚悟撮影
辞意表明の会見で首相官邸で記者の質問をさえぎり立ち去ろうとする鳩山由紀夫首相=2010年6月2日、飯塚悟撮影 出典: 朝日新聞

菅さんは素っ気なく「知りません」

ところで、今月、菅さんの著書『政治家の覚悟』の復刻版が発売され、話題になりました。

私は2012年発売のオリジナル版の方を愛読していました(いまや、ネット上で数万円の値段がついて、入手も困難ですが…)。たとえば、東日本大震災発生時の政府の会議で議事録を残されていなかった問題に触れた下りがあります。

「千年に一度という大災害に対して政府がどう考え、いかに対応したかを検証し、教訓を得るために、政府があらゆる記録を克明に残すのは当然で、議事録は最も基本的な資料です。その作成を怠ったことは国民への背信行為であり、歴史的な危機に対処していることへの民主党政権の意識の薄さ、国家を運営しているという責任感のなさが如実に現れています」

安倍政権が森友・加計学園を巡る疑惑で、「記録にない」「記憶にない」という苦しい弁明を重ねていたころ、私は官房長官だった菅さんにこの一節を思い出して欲しいと思い、尋ねたことがあります。2017年8月8日の記者会見でのことです。

「歴代の政治家は歴史の検証に耐えられるように、公文書の管理に力を入れてきた。ある政治家は『政府があらゆる記録を克明に残すのは当然で、議事録はもっとも基本的な資料。その作成を怠ったことは国民への背信行為』と記している。そのことを本に記していた政治家は誰かわかりますか」

ところが、菅さんは素っ気なく「知りません」と回答。私は「官房長官の著作に書かれている。2012年に記したその見解と、いま政府で現状起きていることを照らしあわせて、忸怩たる思いはないのですか」と指摘しました。

菅首相の著書「政治家の覚悟」(右は2012年発売のオリジナル版、左は復刻版)
菅首相の著書「政治家の覚悟」(右は2012年発売のオリジナル版、左は復刻版)

いま、菅さんに聞いてみたいこと

そんな菅さんに、いま、聞いてみたいことがあります。

「『党内から異論や批判の声がほとんど出ていない、説明責任を果たしていない』。こう警鐘を鳴らしていた政治家はどなたかご存じでしょうか」

今度は知らないと言われないでしょう。

それは菅さんです。

衆参両院の本会議場での代表質問が終わり、週明けの月曜日(11月2日)からは、いよいよ菅さんが首相として初めてとなる予算委員会が始まります。一問一答形式で丁々発止のやりとりになるので、答弁者も質問者も、その真価が問われます。

いま、学術会議の任命拒否問題をめぐって、かつての国会答弁との政府の説明が食い違う事態が起きています。国民の代表が集まる国会でのやりとりが刻まれた議事録は、先人たちの議論を今に生かし、将来世代へその確認事項を引き渡していくための大切な記録です。

国会に面した記者会館で作業しながら、その議事録の重みに値する誠実な議論を期待しています。

     ◇

《来週の永田町》
11月2日(月)・4日(水)衆院予算委員会。菅首相が出席し、与野党の代表と質疑
5日(木)・6日(金)参院予算委員会。菅首相が出席。

     ◇

南彰(みなみ・あきら)1979年生まれ。2002年、朝日新聞社に入社。仙台、千葉総局などを経て、08年から東京政治部・大阪社会部で政治取材を担当している。18年9月から20年9月まで全国の新聞・通信社の労働組合でつくる新聞労連に出向し、委員長を務めた。現在、政治部に復帰し、国会担当キャップを務める。著書に『報道事変 なぜこの国では自由に質問できなくなったのか』『政治部不信 権力とメディアの関係を問い直す』(朝日新書)、共著に『安倍政治100のファクトチェック』『ルポ橋下徹』『権力の「背信」「森友・加計学園問題」スクープの現場』など。

 

朝日新聞政治部の南彰記者が金曜日の国会周辺で感じたことをつづります。
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