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#15 WEB編集者の教科書

「明朝体からやめた」文春オンライン急成長の秘密 3年で月間4億PV

「文春オンライン」の竹田直弘編集長〔右)とWEBディレクターの浪越あらたさん(栃久保誠撮影)
「文春オンライン」の竹田直弘編集長〔右)とWEBディレクターの浪越あらたさん(栃久保誠撮影)

目次

WEB編集者の教科書
情報発信の場が紙からデジタルに移り、「編集者」という仕事も多種多様になっています。新聞社や出版社、時にテレビもウェブでテキストによる情報発信をしており、ウェブ発の人気媒体も多数あります。また、プラットフォームやEC企業がオリジナルコンテンツを制作するのも一般的になりました。

情報が読者に届くまでの流れの中、どこに編集者がいて、どんな仕事をしているのでしょうか。今年5月からスタートしたwithnews、Yahoo!ニュース、ノオトとの合同企画『WEB編集者の教科書』作成プロジェクトも後半戦がスタート。第15回は「文春オンライン」編集長の竹田直弘さんとWEBディレクターの浪越あらたさんです。ネットへの本格進出は後発組ながら、ローンチからわずか3年で月間4億ページビュー(自社サイトのみ)を突破する急成長。成功の鍵はどこにあったのか、ネットという新しい文化にレガシー出版社がどう向き合っていったのか伺いました。(withnews編集部・山内浩司)

文春オンラインが目指すもの
・”世の中の「ほんとう」がわかる”メディアに
・あえてPVにこだわる
・スクープの最適化戦略

宣伝サイトから脱却、稼げるメディアへ 快進撃が止まらない

芸能スキャンダルから政界疑惑まで「週刊文春」のスクープが止まりません。今年に入っても、人気俳優・タレントの不倫、森友問題で自死した財務省職員の遺書全文公開、検察庁幹部の賭け麻雀問題……と世間をざわつかせてきました。

そんなスクープを雑誌発売より一足早くネットで報じているのが「文春オンライン」。2017年1月のサイト開設以来、わずか3年で月間4億PV(ページビュー)超を達成する人気サイトに成長しました。急成長の理由を竹田直弘編集長に直撃すると、「自分たちの力だけでは何もできない。『週刊文春』はじめ会社に強いコンテンツがあるからこそ」と語る一方、「その強みをきちんと展開できれば数字はついてくるだろう、という確信もあった」と言います。
 
2016年夏。社内にあった「週刊文春WEB」「文藝春秋WEB」「本の話WEB」という3サイトを統合し、新たに「文春オンライン」をたちあげることになりました。創刊編集長として女性誌「CREA」から竹田さんが任命されました。与えられたミッションは、これまでのような雑誌や書籍の宣伝サイトではなく、「事業として成立するメディア」を作ること。
 
ウェブの経験が全くなかった竹田さんはまず、先行するあらゆる競合サイトの編集長に会いにいったそうです。「”どうしたら数字ってとれるんですか?”というレベルから話を聞きましたが、意外と皆さんいろいろ教えてくれる。特に出版社で担当になった方は、同じような悩みを抱えていたことが多く、”ウェブの世界へようこそ”みたいな感じで受け入れてくれました」

そこで見出しのつけ方からサイトの構成など、ウェブの作法を学ばせてもらったと振り返ります。その上で、竹田さんがまず考えたのは新しいターゲット層でした。
竹田直弘さん1973年生まれ。99年に文藝春秋入社。『週刊文春』『Number』『CREA』編集部を経て、2016年、『文春オンライン』の初代編集長に就任=栃久保誠撮影
竹田直弘さん
1973年生まれ。99年に文藝春秋入社。『週刊文春』『Number』『CREA』編集部を経て、2016年、『文春オンライン』の初代編集長に就任=栃久保誠撮影

ターゲットは20~30代。「ゴシック体」でイメージチェンジ

「『週刊文春』の読者層は40〜50代が中心、『文藝春秋』は60代前後。スポーツ誌の『ナンバー』も今は40〜50代前後と若い世代の読者が少ない。まず20〜30代に読まれるサイトにしたいと考えました」

こだわったひとつがロゴのデザインでした。細めのスマートなゴシック体を採用していますが、これを社内で認めてもらうのに苦労したといいます。竹田さんによれば、文藝春秋は、主要雑誌の題字が示すように伝統的に「明朝体」の文化なのだとか。

「偉い人に呼び出され、”いいか文春は、明朝なんだぞ”と言われ、なかなかOKがもらえませんでした」と竹田さんは笑います。でも、これまでの”文春らしさ”とは違った新しいメディアだというメッセージを発するためにも、ロゴの書体にはこだわったそうです。
 
もうひとつ意識したのは「おじさん目線」を排除すること。
 
例えば流行カルチャーの話題を取り上げるとき、「おじさんにはよくわからないが……」といったスタンスはやめようと呼びかけたそうです。

若者の流行なら若者の目線で向き合っていく。「ウェブではツイッターからたまたま流れてきて読みにくる、といったケースも多いので、若い人に”これは自分たちのメディアじゃない”と思われるのはマイナス。なのでサイトのキャラも決めすぎないように、できるだけ年齢不詳でユニセックスなイメージにしようとは当初から心がけていました」
 
サイトの柱となる記事=コンテンツについてはあまり心配していなかったそうです。「2016年当時も『週刊文春』は絶好調。スクープを連発していましたが、まだ本格的にはウェブ展開ができていなかった。こうした強い記事をきちんと使えば、うまくいくだろうという妙な確信はありました」
 
さらに2016年末に明らかになった、キュレーション(まとめ)サイトの不正問題も追い風になりました。

「本当か嘘かわからない情報が掲載されているサイトが淘汰され、ファクトの価値がより高まったタイミング。そこでスタートできるのはチャンスだと思いました」
 
”世の中の「ほんとう」がわかります”というキャッチフレーズが時代にぴたりとはまったともいえそうです。

IT業界から人材を投入、開発と編集の両輪で回す

浪越あらたさんライブドア、LINEなどを経て、2017年に文藝春秋入社。同年より『文春オンライン』WEBディレクターを務める。デジタル・デザイン部所属=栃久保誠撮影
浪越あらたさん
ライブドア、LINEなどを経て、2017年に文藝春秋入社。同年より『文春オンライン』WEBディレクターを務める。デジタル・デザイン部所属=栃久保誠撮影
2017年1月にローンチした文春オンラインの最初の転機は、半年後にWEBディレクターとして浪越あらたさんが専属メンバーとして加わったことでした。SE(システムエンジニア)としてキャリアをスタート、ライブドアやLINE、ミクシィでWEBサービスの開発にかかわり、開発ディレクター募集の求人に応じ転職してきた人材です。「新卒入社でずっとIT業界で働いてきたのでとても新鮮でした。第一印象は『紙が多い職場だな』…」
 
出版社の人間はどうしても、面白いコンテンツさえあれば、ビジネスはうまくいくという「コンテンツ至上主義」に陥りがちだと竹田さんは言います。「でもウェブの世界は、サイトの見せ方やユーザーをどうやって回遊させるかといった別の視点で考える人が絶対に必要。記者と編集者だけで成長させるのは無理だと感じていました」
 
サイトの機能開発や仕様の検討、データ分析などを担当する浪越さんの提案で始まったのが「PV会議」でした。週に一度、編集、開発、広告など文春オンラインに関わる全メンバーが集まり、よく読まれたPVの高かった記事について、その理由を考える場です。

「それまで月ごとに読まれた記事ランキングは出していたけれど、どこから流入してきたのか、どこまで読まれたのかといった細かい分析はしていませんでした。僕が事業としてPVをあげたいといっても、記者はどうしても、いい記事をつくりたい、PVを狙うなんて下品という感覚もあって、なかなかひとつになれないジレンマがありました。なので週に一度、30分だけ、みんなでPVのことだけ考えてみようというのはとても重要な時間になっています」と竹田さん。
 
なぜその記事は読まれたのか、理由がすべて分かるわけではないけれど、それぞれの立場から自由に意見を述べあうことで、編集を聖域化しないフラットな関係やチームの一体感が生まれます。これは新聞社や出版社など伝統的なメディア企業にありがちな組織の硬直化への対策にもなりそうです。
 
浪越さんも「開発側はポジションが下で、提案しても受け入れてもらえないといった悩みを抱える現場もあると聞きますが、文春オンラインの場合は対等。編集と開発という両輪の足並みが揃っているところも成長の要因だと感じています」と語ります。
栃久保誠撮影
栃久保誠撮影

読まれる「週刊文春」と一体化、スクープ最適化を進める

文春オンラインが初めて月間1億PVを超えたのは昨年4月のこと。飛躍のきっかけになったのは「組織変更」でした。

文春オンラインの所属は、当初の宣伝プロモーション局から、2018年にはデジタル戦略事業局へ、さらに2019年4月から週刊文春局へ合流し、週刊文春編集部と同じフロアで机を並べて仕事することになりました。
 
オンラインでも、やはり「週刊文春」のコンテンツは読まれます。心理的にも物理的にも近い距離で、両者がコミュニケーションを深め連携を図れば、もっとうまくウェブ上で展開できるはずという狙いがあたりました。

さらに、文春オンライン上でスクープを狙う「特集班」というチームも生まれ、雑誌には載らないウェブ先行の芸能スクープでかなりのPVを稼いでいます。
 
竹田さんは「スクープは水もの。定期的に出るわけではないので、どのタイミングで、どのチャンネルで売っていくのが効果的かは雑誌の編集長とも常に話し合っています」。いわばスクープの最適化が文春オンラインの重要な戦略です。
 
YahooとLINEでは「週刊文春」の発売1日前に、スクープ記事を1本200~300円で販売しています。ニコニコ動画では月額880円読み放題のサービスを展開しています。Yahooは40~50代のビジネスマン、LINEは30代前後の女性、ニコ動は20~30代のアイドル好き……と読者層も違い、そこに合わせて配信記事を変えることもあるそう。

無料サイトである「文春オンライン」上では「週刊文春」の記事は全文を掲載せず、「スクープ速報」といった要約記事を配信し、続きが読みたい人を課金や雑誌購入へと誘導します。
 
今年、圧倒的に売れた記事は、人気お笑いタレントのスキャンダル報道でした。報道前に本人が芸能活動自粛を発表するという異例の展開で、様々な臆測情報が流れ、否が応にも注目が集まる中、「どのタイミングで公表するか、『週刊文春』編集長と慎重に協議した結果、記事は何万本単位で売れました」
 
組織変更以降、文春オンラインは10月に2億PV、11月には3億PVを超え、今年6月には4億2967万PVを記録するなどハイペースで数字を伸ばしてきました。この躍進には雑誌と連動したスクープ以外にもいくつか要因がありました。
栃久保誠撮影
栃久保誠撮影
ひとつは浪越さんを中心に取り組んだ写真ページの速度改修。文藝春秋には長い歴史に裏打ちされた写真資産が豊富にあります。それらをストレスなく楽しんでもらえる仕組みを作ったことで、ユーザー体験が向上しただけでなく、PV増にも大きく貢献したそうです。
 
もうひとつは過去記事の活用。昨年、有名俳優が麻薬取締法違反で逮捕され、NHK大河ドラマを降板するなど大騒動になりました。遡ること7年前、「週刊文春」ではその俳優の薬物疑惑を大きく報じていましたが、当時は事務所に全否定され、他メディアの報道もなく、うやむやになりました。

逮捕を契機に当時の記事を再公開したところ、PVがぐんと伸びたそうです。「過去の記事でも今出すことに意味があれば数字が取れることがわかりました」。こうした時を超えた”スクープ”が成立するのも、しっかり取材してきた自社の持つコンテンツの強みなのだと、竹田さんは再認識したそうです。

データの「見える化」から。収益の再配分も視野

伝統的なメディアにとって、紙媒体とデジタルのすみ分けは悩ましい問題です。無料で記事をネットに流せば、雑誌が売れなくなるといった単純な拒否反応は、ウェブの影響力の増大で薄れていますが、懸念がすべて消えたわけではありません。
 
そんな関係の中で、竹田さんは常に記事とその作り手に敬意を払うことを心がけてきたそうです。

「デジタルの人にありがちなのは、記事をひとつの商品、数字の道具としてしか見ず雑に扱ってしまうこと。そういう姿勢がみえると、”こいつには記事を預けられない”と思われてしまう。自分は今でも大事な記事を使わせて欲しいときには、相手のデスクまで出向き、きちんと説明してお願いしています。古くさいやり方かもしれませんが、こうしたリスペクトとコミュニケーションが重要だと思っています。自分もそうされたら嬉しいですしね」
 
もうひとつは、実際に記事を掲載してどれだけ読まれ、どれだけ稼いだのかをPV単価から金銭に換算してデータで提示する「見える化」を導入したこと。「無料で配信された記事でも、売り上げに貢献していることを数字で実感してもらう。今はデータ上だけですが、近いうちに実際の決算にも反映させる予定です。収益を分配し、書籍や雑誌の売り上げの落ち込みをカバーしていくのがこれからの目標になります」と竹田さん。
 
その結果、無料の文春オンラインに記事を出そうという社内各部署のモチベーションがあがってきたといいます。

「異質」な存在が社内を変える?

栃久保誠撮影
栃久保誠撮影
古い体質が残る出版社がデジタルにシフトしていく中で、IT業界からやってきた浪越さんの存在は、文春オンラインのサイト開発・運営を越えて社内に影響を与えてきました。まず取り組んだのは、会議での紙資料の廃止でした。
 
「どう考えても印刷物がもったいないので、用紙代や印刷コストなどのデータを挙げて、すぐやめてもらいました。ただ会議にPCを持ってこない人がいるので、プロジェクターがいりますね」
 
また、ビジネスチャットツール「Slack」を導入し、社内の連絡ツールを変えてしまったのも浪越さんでした。「自分が仕事をしやすいように、変えてもらった感じです。仕事のためといっても、なかなか使ってもらえないので、社内のお酒好きが集まって飲み会をする趣味のチャンネルから始めました」。うまい酒の情報を知りたければSlackをやればいいと誘導しながら、チーム内から徐々に利用者を広げていき、今では社内の約8割に普及したそうです。
 
「あえて異質な存在であろうとしていました」と浪越さんは当時を振り返ります。

わざとピンクの帽子かぶって目立ったり、朝の打ち合わせを立ったままで行いウェブの会社っぽさをアピールしたり……。「ITから来た人だから変わってるな。でも悪い人ではなさそうだし」という雰囲気をつくっていく。「とがり過ぎるのはよくないですが、”いい感じで変な人”でいる方が、こちらの意図が伝わりやすい面があると思います」
 
竹田さんも「そういえば、”変わった部署”感を出すために編集部にハンモックを置いてた時期もありました」といいます。「でも実際、スタート当初の文春オンラインはかなり異物だったと思います。うまくいくのか斜めに見ている人も多かったですが、この3年の成長で社内の各部署がうまくオンラインを利用してくれるようになったと感じています」

狙わないととれないスクープとPVに正面から向き合う

栃久保誠撮影
栃久保誠撮影
竹田さんはスクープとPVは似ているといいます。どちらも狙わないととれないし、狙ってもとれるとは限らない。

「スクープは手間も時間もかかるので、もっと安定して売れる路線を探そう、となりがち。PVも同じ。ずっと数字を求め続けるのはしんどいことなので、顧客満足度的な新しい指標が持ち出されることがあります。でも結局定着しないし、社内外でも理解されにくい。PVは本でいえば売り上げ部数。出版社にとって一番わかりやすい。目標はシンプルに明確に設定すべきだと改めて思います」
 
「PVは目的ではない」といった考え方もありますが、「自分ではあまり言わないようにしています。なんとなく逃げてる気がするので」と竹田さん。「数字とはきちんと向き合っていきたい。もちろん、よいサイトの条件にはリーダビリティー(読みやすさ)や使い勝手、デザインなど含めいろんな要素があると思いますが、すごく美しいサイトだけど数字がとれないというのは僕らの目指すものではないかな」
 
最後に今後の展望について聞きました。
 
「月間5億PVは超えたいし、広告単価を上げて、もっと売り上げを伸ばす。自前の課金システムを開発し、月額数千円単位の本格的なサブスクリプションサービスにも挑戦したいです」

やはりとても明快な目標が返ってきました。

竹田直弘編集長の教え
・WEB編集者は「くよくよしない」人が向いている
・異質な存在を演じることで伝わるものがある
・コンテンツと作り手へのリスペクトを忘れない

栃久保誠撮影
栃久保誠撮影

取材を終えて

WEB編集者に求められる資質ついて竹田さんに尋ねると「くよくよしないこと」を挙げました。

「ネットって自分が手がけた記事が全然読まれなくても、落ち込んでいる暇はない。はい次、じゃあ次はこれ、と切り替えられる能力が大事。あまりこだわりが強くない方がよくて、とりえずやってみる人、読者の反応も見ながら考えがころころ変わる人が向いているかも」
 
真相!追求!疑惑!といった胸をざわつかせる記事が目立つ「文春オンライン」の中で、微妙な異物感を放っているのが「文春野球コラムペナントレース2020」です。プロ野球12球団それぞれを愛するライターが、チームを組み、セ、パ両リーグに分かれてコラムで戦う趣向。聞けば竹田編集長直々の企画なのだといいます。

「立ち上げの時に、好きな人やマニアが必ず来るから何か趣味のカテゴリーがあった方がいいよとアドバイス受けて、じゃあ野球かな、と。ベイスターズファンなんで。気に入ったコラムは、いいねの代わりにヒットボタンを押して競う。面白いでしょ」と笑顔。スクープや数字をとるのは大事だが、そればかりだと疲れてしまう。「だから好きなことやることも大切なんですよ」。これを聞いて少しホッとしたのでありました。
 

さまざまなジャンルのメディアや会社で活躍する、WEB編集者へのインタビューを通して、WEBメディアをとりまく環境を整理し、現代の“WEB編集者像”やキャリアの可能性を探ります。Yahoo!ニュース、ノオトとの合同企画です。

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