連載
#10 アニメで変わる地域のミライ
北海道の温泉街にコスプレイヤー、大盛況だったアニメイベントの今
ファンの熱量は消えていません。
北海道洞爺湖町で毎年6月下旬に開かれる「TOYAKOマンガ・アニメフェスタ(TMAF)」。2日間で7万人規模の盛り上がりを見せるお祭りでしたが、コロナ禍で2020年6月に11回目を予定していたTMAFは中止。外国人観光客はもちろん、国内の旅行者も激減し、にぎわいのあった洞爺湖温泉街の光景も過去のものになりつつあります。TMAFを立ち上げた一人、佐々木卓一さん(47)にお話を伺いました。
「小さい頃からアニメやマンガが好きだった」と言う佐々木さん。普段は北海道洞爺湖町で、「きつつきカナディアンクラブ」という、ペンション兼レストランを営んでいます。
佐々木さんに転機が訪れたのは、2009年。町内にある洞爺湖温泉街が、翌年「開湯100年」を迎えることから、新たなイベントを実施する企画を町や観光協会が募っていました。
「温泉街として新規のイベントを立ち上げる機会はなかなかなかったので、せっかくなので『好きなことで温泉街を盛り上げたい』と思いました。それで、自分が好きなアニメやマンガをテーマにした取り組みを提案させていただきました」
元々札幌などで開かれるアニメやマンガ、同人誌即売会やコスプレなどのイベントに洞爺湖から足を運んでおり、こうしたイベントを地元でもできないかという思いがありました。そして、これらのうちどれか一つのジャンルではなく、横断的に一同に開催するイベントを考えていたといいます。出した企画は採用され、2010年6月、第1回TMAFが開かれました。
歩行者天国となった温泉街の路上や店内ではコスプレイヤーが自由に歩き回り、駐車場では「痛車」と呼ばれる、キャラクターが車体に彩られた車が展示され、町の公共施設の中では同人誌即売会でにぎわい、そしてステージでは有名声優や歌手を呼んだトークショーなどが開かれる、温泉街を挙げたイベントが始まりました。この、ジャンルを超えた包括的なイベントのあり方は、10回目を数えた現在でも変わっていません。
「イベントの形は今と変わっていないのですが、1回目は勢いで突っ走ってしまったのもあり、特に告知面で準備不足が目立ちました。それでも、SNSなどで口コミが広がり、2日間で3000人もの人が来てくれました」
第1回は、アニメやマンガに関するものなら何でも採り入れていました。アニメ「らき☆すた」の舞台となった埼玉県久喜市鷲宮にある鷲宮商工会(当時)が、「聖地」として盛り上げていく様子をドキュメンタリー調にまとめた映画「鷲宮☆物語」も、この時ステージで上映されています。
「開湯100年」記念のイベントのはずが、予想以上の盛況ぶりから地元やファンから継続を望む声が増え、毎年開かれるようになりました。 2018年の第9回は7万3000人、19年の第10回は6万9000人と、7万人規模のイベントへと成長しています。
20年6月には第11回TMAFが開かれようとしていましたが、新型コロナウイルスの影響で中止となりました。
ここ数年は洞爺湖を訪れる外国人旅行者も多く、TMAFの参加者にもそれが反映されていたといいます。佐々木さんは自身が経営するペンションの近況をこう話します。
「これまで宿泊者の9割以上が外国人旅行者という状況でした。インバウンドの方は大体3ヶ月前に予約を入れて下さるので、日本の方が予約を入れようとしても、埋まっていることもしばしばでしたね。それが今はほぼ0です。うちだけでなく、温泉街全体にも言える状況です」
宿泊者が0に近い一方、併設するレストランは時折利用者がいるおかげでなんとか運営できていると言います。
「『来年は必ず洞爺湖で2年分楽しみます!』という声や、『頑張って下さい!』という励ましの声など、全国から応援のメッセージをいただきます。中止になってもTMAFを忘れられない強いファンがこれだけいて下さり、感謝の念に堪えません」
ファンの「大好き」という熱量は底知れぬものがあります。アニメの「聖地」に、放送終了後10年経っても訪れる人が居続けたり、中には移住する人もいたりする源泉はここです。
みんなの「大好き」という想いがコロナ禍を吹き飛ばす――そう考えさせられた取材でした。
河嶌 太郎
「聖地巡礼」と呼ばれるアニメなどのコンテンツを用いた地域振興事例の研究に学生時代から携わり、10以上の媒体で記事を執筆する。「聖地巡礼」に関する情報は「Yahoo!ニュース個人」でも発信中。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。
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