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IT・科学

「優しい人」が摂食障害になるまで…大学生が語った、3年前の体験

自粛生活を機にカミングアウト、ただ受け入れるという優しさ

自分の気持ちと向き合うため、はるかさんは日記を日々つけている。「私たちの主張」で話す内容も書いたり消したりしながら考えた
自分の気持ちと向き合うため、はるかさんは日記を日々つけている。「私たちの主張」で話す内容も書いたり消したりしながら考えた

目次

何げない自分の言葉が、思わぬところで「優しい人」を追い込んでいるとしたら――。摂食障害の当事者イベントに登壇した、大阪府の大学4年生、はるかさん(@shiromaru_39)は、ふとしたきっかけで無理なダイエットをした結果、摂食障害に悩まされるようになりました。カミングアウトすることも「拒絶されるのでは」と思い詰めた日々。過食嘔吐の当事者として伝えたかったメッセージを聞きました。(朝日新聞文化くらし報道部・佐藤啓介)

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【関連記事】摂食障害、コロナ禍で支え合い 「Zoom集会で勇気」 [新型コロナウイルス]:朝日新聞デジタル

新型コロナで自粛、開き直れた

<4月、元々持っていたアカウントとは別に、過食嘔吐(おうと)の当事者だと名乗って別アカを作りました。6月にビデオ会議アプリ「Zoom」で開かれた摂食障害の当事者イベント「私たちの主張」が開かれることは、そのアカウントを通して知ったと言います>

――どうして別アカをつくったのですか?

大学1年の夏から過食嘔吐で悩んでいましたが、誰にも言えず、こっそり摂食障害について発信している人を検索してツイートを見ていました。友だちに気づかれないようにとフォローもできていなかったのですが、ふと「誰にも悪いことをしていないのに、どうして私はビクビクして隠れるように見ているんだろう」と思って。カミングアウトすることで周囲から拒絶されないか、見捨てられないかと不安もありました。でも新型コロナで大学に行けない今なら友だちともしばらく会わないし、周囲の反応を気にしようがないと少し開き直れた部分がありました。


――イベントに参加し、思いを発表するのに不安はありましたか?

はい。カミングアウトすることで周囲から拒絶されないか、見捨てられないかって。でも新型コロナで大学に行けない今なら友だちともしばらく会わないし、周囲の反応を気にしようがないと少し開き直れた部分がありました。


――「主張」では、自分の長所だったことが何げない言葉で悩みになったと話しました。

今までずっと「いいこと」「悪いこと」を、無意識に自分の気持ちでなく他者の評価で決めていました。そんななかで大学に入り、「優しすぎる」「いつも笑顔だね」とよく友だちに言われるようになりました。悪気はないと分かっていても、どうしても少しネガティブな意味合いで言われているのかなと感じてしまって。

入学後に入ったサークルで、1年生主体の企画のまとめ役を任されました。仕事は大変だったけど、人から頼まれるのが始めはうれしくてしっかりやっていました。それをきっかけにさらに役割を任されるようになり、いっぱいいっぱいになりそうだけど断れずに結局引き受けてしまっていて。

それで友だちに弱音を吐いたら、「そんなの断ればいいじゃん」ときっぱりと言われたことがありました。私を気遣って言ってくれているのは分かっているけど、でも断れない自分は間違っていたのかな……とか。そういうことが積み重なっていました。

出典: 摂食障害を考える ー私たちの主張2020ー - YouTube

伝え方で、言葉はもっと人を救える

――同じ当事者と周囲の人、それぞれに向けたメッセージがありましたね

過食や嘔吐に悩むようになり、大学の先生に相談してから、病院のカウンセリングに通うようになりました。そこでもうまく自分の気持ちを伝えられずにいました。でも少しずつ、周りではなく自分軸で「強み」と思えることを大切にしたいなと強く思うようになりました。そのことが、もし私と同じような当事者がいるのなら伝わったらいいなと思って話しました。

それから、私も含めて多くの人が、気づかないうちに自分の価値観を押しつけるような話し方をしてしまっているかもしれない。それをみんなが頭の片隅に置いておけたら、もっと言葉に救われる人がいると思って話しました。時間が足りなくて十分に表現できなかったけど、本当は「今は弱みを受け入れられるようになったこと」が私の強みだ、ということも言いたかったです。


――参加してみて、どうでしたか

私は心理学を専攻していて大学院の受験を控えていたので、東京の会場で開催されていたらきっと行けなかった。オンライン開催になったのは逆にありがたかったです。

質疑応答で、高校生の方が「大学で心理学を学びたいけど、まだ治ってないのに自分が研究していいのか」と質問していました。私も同じことを思いながら受験勉強をしていたから、日本摂食障害協会の専門家の先生方が「ぜひ!」と答えたのにすごく励まされました。9月に、無事に大学院に合格できました。

将来は心理職につき、当事者を支えられる人になりたいです。イベント後、同じ悩みを抱えている学生さんからツイッターにたくさんメッセージがありました。4月まで本当に孤独だったので、一緒に頑張る仲間ができたことがうれしかったです。

摂食障害について学ぼうと集めた本の一部。来春からは大学院に通い、さらに深く勉強したいと考えている
摂食障害について学ぼうと集めた本の一部。来春からは大学院に通い、さらに深く勉強したいと考えている

励まされたリプ、ただ受け入れるという優しさ

――ツイッターを使っていて、どんなときに励まされますか? それとは逆に少しへこんでしまうときはありますか?

そうですね。今も体調が良いときと悪いときがあり、過食をしちゃったとかネガティブな投稿をしてしまうことがあります。そんなときに、私のとった行動について指摘するのではなく、「そのままのはるかさんで大丈夫だよ」と、ただ存在を受け入れてくれるようなコメントをもらえたときは、一喜一憂していた気持ちを落ち着けてもらえる気がします。

少し敬遠してしまうのは、摂食障害に限らずですが、やっぱり相手の事情の全部は見えないのに「こうしたら良かったのに」とか自分の考えを伝えるような呟き、でしょうか……。そうできない事情を人それぞれ見えないところで抱えていて、それを抱え込むつらさもあるかもしれないので。私自身、そういう伝え方をしないよう気をつけたいなと思っています。

大学院の入試前日、過食嘔吐の症状が出て落ち込むはるかさんに、同じ摂食障害の経験があるフォロワーの女性がコメントをくれた。「落ち込む気持ちはそのまま受け入れ、気遣いとエールの言葉だけをかけてくれたことにとても救われた」とはるかさんは言う
大学院の入試前日、過食嘔吐の症状が出て落ち込むはるかさんに、同じ摂食障害の経験があるフォロワーの女性がコメントをくれた。「落ち込む気持ちはそのまま受け入れ、気遣いとエールの言葉だけをかけてくれたことにとても救われた」とはるかさんは言う 出典:@shiromaru_39

 

はるかさんが主張したこと(要旨)
「強みが、弱みへ」

私は過食嘔吐(おうと)の当事者です。自分で言うのも恥ずかしいけれど、私の強みは笑顔と、思いやりがあるところ。でも大学に入り「はるかは優しすぎる」「いつもニコニコしていて悩み無さそう」と、そんな感じのことをよく言われるようになりました。

言われたときの状況、雰囲気、言い方が、私の受け取り方もあって批判的に聞こえてしまい、「自分の強みって何だったんだろう」とすごく考えるようになりました。飛躍するかも知れないけど、私の生き方は間違っていたのかな、とか。他にもきっかけがあり、もう一度人に認められたいという気持ち、痩せたら自分の強みが増えるという気持ちになり、ダイエットをした結果、摂食障害になりました。

私の主張は、誰かに何かを思うことはすごく大切だけど、その伝え方を「あなたはこうだ」とか「こうした方がいいよ」みたいな決めつけた言い方でなく、「『私は』こう思っているよ」と、一意見として伝えてくれたらすごくうれしいな、ということです。相手が何を思っているかは本人にしか分かりません。自分の価値観を押しつけるような言い方で発してしまったその一言が、相手を傷つけ、悩ませてしまうことになるかもしれません。

私のこの主張によって誰かを傷つけてしまうのではないか、と不安もあります。でも言葉は人を救う手段にもなるし、私自身もすごく助けられていて、これからも助けられると思っているので、主張を通して感じてもらえることがあったらと思っています。
 

はるかさんの「主張」を聞いて

摂食障害の当事者や家族ら約200人が参加したオンラインイベント。最初の発表者としてはるかさんが過食嘔吐(おうと)になったきっかけを語ったとき、誤解を恐れずに言うならば、とても身近な出来事だなと感じた。そのことは、摂食障害が誰にでも起こりうる病気で、にもかかわらず私自身もほとんど意識することなく生きてきたという事実を示していると思う。そんな気づきをより多くの人に得てもらえたらと思い、はるかさんに連絡を取った。

書店に並ぶ本のタイトル、テレビやSNS……。ダイエット情報も含め、「こうしなさい」と価値観を提示する言葉はいま、ますますあらゆる場で飛び交っていると感じる。そのなかで自分を抑え、周りを尊重しようとする人ほど追い込まれやすい環境がつくられていないか。取材をしながら、そんな思いが浮かんでくる。

ツイッターで生まれたつながりが安心をくれ、大きな支えになったとはるかさんは言う。そこでは日常の悩みごとの呟きにそっと声をかけたり、ただ「いいね」をつけたりと、当事者同士で寄り添いあうような関係が自然に生まれているように感じる。

何を伝えるか、どう伝えるか。言葉を扱う仕事をするひとりとして、はるかさんの「主張」を受け止め、よく考えていきたい。

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