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荻野目洋子さん、実は虫好きだった…新曲「虫のつぶやき」への思い
「ダンシング・ヒーロー」がリバイバルヒットした歌手の荻野目洋子さんですが、最新曲の名前は自ら作詞作曲した「虫のつぶやき」です。虫の切ない気持ちを、「僕はチョウじゃないガ 嫌われるのさ」「見た目だけじゃ何にもわかってないのさ」と、歌い上げます。子どものころから、虫の生態を観察するのが好きだったという荻野目さん。ちょっとユニークな新曲への思い、女性シンガーとしては珍しかった子育てをしながら曲作りを続けた歩みについて聞きました。(朝日新聞・坂本真子)
8~9月にNHK「みんなのうた」で放送された「虫のつぶやき」では、カマキリやクモ、蛾といった虫たちの気持ちを歌っています。この内容を提案したのは荻野目さん本人。実は、物心ついた頃から、虫について図鑑で調べることが多かったそうです。
「虫好きといっても、飼うことよりも、その辺にいる虫が何かを知りたくて、観察して、どんな風に生きているのかなぁ、と考えたり、名前を調べたり、ディテールを知ることが好きでした。カブトムシやクワガタのように男の子が一般的に好きなものはあまり興味がなくて、チョウチョが好きで、カナブンはかわいいなぁと思って、よく触って遊んでいました。自然に生きているものを見ることが好きでしたね」
自宅にあった虫かごは、飼うために使うのではなく、捕まえた虫を調べる間、入れておくためのもの。子どもの頃、昆虫採集セットを買ったことがありましたが、注射器が入っているのを見て、「昆虫採集って自分の手で殺してしまうってことなんだ!」と、ショックを受けました。
「生き物を殺すなんて、すごく残酷なこと。それ以来、昆虫採集はできなかったですね」
今でも自宅に虫が入ってくると、害虫以外は生きたまま捕まえて、外に逃がします。生き物を大切に思う気持ちは、虫と接する中で生まれたそうです。
「虫は自然のままで逃がす。それがモットーです。動物全般が好きですけど、虫ほどじゃない。自分とは全然違う世界に生きていることに好奇心がくすぐられるんです。こんな小さな虫が、どうやって生きるんだろう、と」
「特に好きな虫は?」と尋ねると、「選びきれないんです」と困った表情を見せました。
「美しい蝶も好きだし、ものすごく変わった形のツノゼミとかも本当に面白いなぁって感動するし、最近は蛾さえも色が面白かったりするとアップで写真を撮ります。とはいっても、クモとかは全然触れないし、好きではないですけど、ずーっと見ていられる。不思議な生態を観察したい、という好奇心は子どもの頃から変わりません」
ただし、例外も。
「害虫は殺します……。G(ゴキブリ)は普通にスプレーで。でも、大昔から存在しているGのことは『先輩』と呼んでいるんです。これ、ネタじゃなくて、ずっとそう呼んでいたんですよ」
「虫のつぶやき」の歌詞には、荻野目さんが想像する、虫たちのちょっと切ない思いが描かれています。
「自分が生まれ変わったら、もし虫だったらどんな気持ちなんだろうと、よく考えます。Gだったら、最初から嫌がられて切ないですよね。話もしていないのにSNSで叩かれるような、『私のこと知りもしないのに……』みたいな切なさを感じます」
「虫のつぶやき」は、歌詞だけでなく曲も荻野目さんによるものです。初めて曲を作ったのは、1993年に発売された「荻野目洋子withウゴウゴ・ルーガ」の企画アルバム「DE-LUXE」に収録された作品でした。
「自信がなかったので、その後はしばらく作っていなかったんですけど、結婚してから、主人が音楽をすごく好きで、『また歌った方がいいよ』と背中を押されて音楽活動を再開して、『もっと曲を作れば』と言われて作り始めて。そういう主人の一言が大きかったですね」
2014年、デビュー30周年を機にライブ活動を再開。その中で、自作曲を披露するようになりました。
「新しい曲を聴けることが嬉しい、面白いとお客さんが言ってくれたんです。以前は『いい曲を作らなければいけない』みたいな気持ちが強かったんですけど、そうじゃなくて、自分が考えていることを形にすることがすごく大切なんだなぁ、と気づかされました。身近な人の意見や、観客の皆さんの後押しがあったからこそ、気づけたことだと思います」
曲作りは、ウクレレやギター、パソコンで。ウクレレは、子どもたちが幼稚園の頃に弾き始めました。
「15年ぐらい前、子どもが寝静まった夜に自分の時間を持ちたいなぁ、と思って、音がうるさくなくて、部屋の中で気軽にできるんじゃないかと思って弾き始めたのがウクレレです。毎日できるわけじゃないし。子育てに追われて、しばらく触らなかったこともありましたけど、教則本を買って、独学で。最近はフリーの動画で教えてくださる方もたくさんいらっしゃるので、それを見て勉強しました」
「虫のつぶやき」では、ウクレレも演奏しています。NHKの番組で弾き語りも披露しました。
荻野目さんは、中学・高校に通う3人の娘の母親でもあります。子どもたちが幼い頃はよく一緒に公園に行き、虫を追いかけていました。今回、「虫のつぶやき」に対する3人の反応は、予想以上に良かったそうです。
「身近だったんでしょうね。うちの娘たちだから、虫に対しても抵抗感がないし、虫の気持ちを歌詞に込めたので、『この気持ちすごくわかる』みたいな感じで喜んでくれました」
時には子どもを連れて仕事に出かけることもあったという荻野目さん。その中で、学んだこともありました。
「できれば預けたかったんですけど、ぐずってしまって、どうしても嫌だと泣き叫んでしまったときもあるし、今日は預ける日だったのに熱が出てしまったときもあるし、そういうときは仕方ないじゃないですか。でも、私が1980年代に歌っていた頃に比べたら、結婚をオープンにしたり、子どもを産んでからも活動できたりしたので、すごく変わったなぁ、と思いました。仕事と両立させるために、いろんな人の手を借りながら、時には人に助けてもらいながら生きていくことは勉強になったし、みんな誰かに助けられているんだ、ということを知ることができたのは良かったなぁ、と思いますね」
家族の理解、全面的なバックアップも大きかった、と振り返ります。
「主人はアメリカで暮らしていた時期もあったので、『美容院に行くという理由でも預ければいい』みたいなことを常々言ってくれたので、すごくありがたくて。こっちは、そんなことで預けていいのかと罪悪感があったりするじゃないですか。でも『親がハッピーじゃなかったら、子どももハッピーじゃないんじゃない?』と言ってくれて、シッターさんに預けている時間に『ランチしよう』とか、夫婦の時間も大切にしてくれて、自分たちがまずハッピーでいよう、という感じだったんです」
荻野目さん夫妻の出会いは、高校時代にさかのぼります。夫で元プロテニス選手の辻野隆三さんとは同級生。それぞれの道での活躍を経てから再会し、2001年に結婚しました。
「人の縁というものを感じますね。パートナーだけじゃなく、仕事の御縁もすごく意味がある。いろいろなタイミングで楽曲と巡り合ったり、スタッフの人やお客さんと出会ったり。私たちの仕事は常に、そういう人の縁なくしてはできないなぁと思います」
子どもたちと話すときは、親として意見を言うよりも、子ども自身に考えさせることが多い、と自らを分析します。
「どちらかというとドライに一歩引く方だと思います。『自分で考えてごらん』と突き放すことが多いですね」
その背景には、4人きょうだいの末っ子だった自身の体験がありました。
「母が忙しくて、心のどこかでちょっと寂しいな、もっとかまって欲しいな、と思っていた時期があって、痛くもないのに『お腹が痛い』と言ってみたりしたんですけど、母はほかのことにてんやわんやで全然かまってくれなかったんですね。それで、演技してもしょうがないと、どこかで諦め上手になっていったんです」
そこから、大きな思考の転換がありました。
「つまらないなぁ、と思ったときに、じゃあ何か作ってみようか、とか、作ってみたら面白かったなぁ、とか。自分でいろんなことを探したり楽しいことを見つけたりするのはうまくなったと思うし、ポジティブシンキングになりましたね。だから、何でもかんでも与えなくても子どもは育つと思うので、過保護にするのはやめようと」
「正解はないし、優しくしてもダメなときもあるし、ちゃんと叱っても全然響かないときもいっぱいあります。でも最終的には、もう自分で選べる年齢だよ、と言って、本人に委ねます。どっちを選んでも、自分で選んだことなら失敗してもいいと思うし、何でもやってごらん、と。今のうちにいろんなことを経験した方がいいと言います」
もし、歌手になりたいと言われたら……?
「音楽は好きみたいです。将来的にもしそういうことがあったら……本当は進んで欲しくはないなぁ、とは思うんですけどね。同じ業界は。親心としてはそう思いますけど、自分が好きなことがそれだったら応援するよ、という感じですね」
歌手として活動しながら、子育てにも全力で向き合ってきた荻野目さん。
「じっくりと子育てに向き合って、一番成長が著しい時期は見逃したくないという信念がありました。虫の観察じゃないけど、毎日じっくり観察していると、これは苦手だけど、こっちは得意なのかなぁ、とか、その子の特徴がわかってくる。同じように育てていても、3人とも違います。それは本当に、この子が持って生まれたものなんだな、と感じたし、そういうところをうまく伸ばしていけたらいいな、と。それは虫の観察で培ったんじゃないかな、と我ながら思います(笑)」
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