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「それぞれが自殺のない社会を」炎上の官房長官会見で見過ごされた事

会見の文字起こしから見えた、大切な命を守るためのアプローチ

会見する加藤勝信官房長官=2020年9月24日
会見する加藤勝信官房長官=2020年9月24日 出典: 朝日新聞

目次

芸能人の自殺とみられる事例が相次ぎ、国内の自殺者数が増加していることについて加藤勝信官房長官が記者会見で「それぞれが自殺のない社会をつくっていただけるようにお願いしたいと思います」と語りました。SNSでは、「自助」や「共助」を挙げる政府の考えと重ね、国民への「お願い」という形に違和感を持つ人の声が投稿されました。しかし、会見の内容を確認すると、自殺対策における重要な課題が語られていました。会見の文字起こしから見えた、大切な命を守るためのアプローチについて考えます。
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「お願い」発言に批判集まる

9月28日午前、官邸で行われた加藤官房長官の記者会見。毎日新聞が報じた【「自殺ない社会、作っていただけるようお願い」 官房長官 7月以降、増加に転じ】の記事に大きな反響が集まりました。特に目立ったのが、記事のタイトルにあるような発言に対する、「丸投げ」「他人事」という批判の声でした。ツイッターでは、こうした複数の投稿に数千件のリツイートやいいねが集まり、29日午前には「官房長官」がトレンド入りしました。
出典:首相官邸のホームページより
加藤官房長官はどのような文脈でこの内容を語ったのでしょうか。自殺対策についての発言全文を確認すると、SNSで批判された箇所とは別にある「伝えたかったこと」が浮かび上がってきました。

withnewsは、首相官邸のホームページ政府インターネットTVで公開されている加藤官房長官の記者会見を文字起こししました。この会見では自殺対策について記者から2件の質問がありました。やりとりの全文は以下です。

自殺対策についての質疑応答全文

【記者】
政府の自殺対策についてお伺いします。今年に入り、芸能人著名人の自殺とみられる悲報が相次いでおります。日本は主要先進7カ国の中で自殺死亡率が最も高く、政府は自殺対策基本法の改正や自殺総合対策大綱の閣議決定などの対策を進めておりますが、現状をどのように捉えていますでしょうか。また、長官は厚生労働大臣だった9月に「生きづらさを感じている方々へ」と題したメッセージを発信されていますが、改めて国民に向けてお伝えしたいことがあれば、お聞かせください。
【加藤官房長官】
まずは一般論としてでありますけれども、著名人の方の自殺またはその可能性についての報道というのは大変影響が大きいものがあります。場合によっては、新たな自殺を引き起こす、誘因するという可能性もあります。

それらを踏まえて、目立つような報道、繰り返しの報道、自殺の手段など詳細な報道はしないように、また相談窓口をあわせて報道する、これはWHOのガイドラインに記載されておりますが、ぜひそれの遵守をお願いしたいと思います。

その上で、自殺対策一般であります。私も厚労大臣として、担当もさせて頂きました。自殺者数について、本年7月以降ですね。増加の兆しが見られておりました。多くの方が自ら尊い命を絶っているという、この現実、これを我々しっかりと受け止めなければいけないと思います。

9月11日の閣議において、私が厚生労働大臣として、各閣僚に自殺総合対策大綱に基づく取り組みをより一層進展していただくよう依頼もさせていただきました。

やはりいろいろ悩みがある方、そして特に孤立されてしまう、そういうことがないように「地域共生社会」の実現ということにもつながってまいりますけれども、ぜひ温かく寄り添いながら見守っていただけるような社会を、一緒に構築していただきたいと思いますし、周辺の方がそうしたことが気付けば、話にのってあげる、場合によってはそうした自殺関係の相談窓口もありますから、そういったところに相談したらどうかというサジェスチョンを与えていただけることなど、やはり周りの方含めてみんなで、それぞれが自殺のない社会をつくっていただけるようにお願いしたいと思います

政府としても、そうした相談窓口の設置等に対して、しっかり取り組んでいきたいと思います。また先般も、そうした方々への生きづらさを感じている方々への呼び掛けたメッセージも発出をさせていただいたところであります。
【記者】
関連でお伺い致します。国内に目を転じますと。自殺者数の増加の兆しもございますけれども、今般の新型コロナウイルス感染症の影響と自殺リスクにつきましては、長官はどのようにお考えでしょうか。
【加藤官房長官】
やはり今回の、特に自粛をしている自宅の中で、要するにステイホームということになるとですね、なかなか他の人と接触しにくい、こういった状況もあると思います。また、こうした中で、さまざまな、例えばうつ等ですね、そうした状況になる、あるいはなりがちだという指摘もありますので、そういった意味においても、まず政府としては相談窓口をさまざま用意をして、これはSNSも含めてですね、用意をして、そういった皆さんにですね、そういった窓口を活用していただきたいと思いますし、また、そうした窓口があるということをなかなか周知していくことは難しいところもあります。

こういった機会を含めてですね。直接、そうした悩みを抱えられている本人にはもとより、周辺の皆さんも、ぜひそういったことを知っていただいてですね。その活用を図っていただきたいと思います。

繰り返された「相談窓口の設置と周知」

1つ目の回答で、地域や周囲の助け合いなどに触れ「それぞれが自殺のない社会をつくっていただけるようにお願いしたい」と語っていますが、その前後には「自殺総合対策大綱に基づく取り組み」や「相談窓口の設置や周知」といった政府の施策も触れています。特に「相談窓口」については短いやりとりの中でも、繰り返し言及しています。

国民に伝えたいこととして何度も挙げられた相談窓口は、自殺対策において大事な役割があるとされています。
インターネットを中心に、自殺願望のある人からの相談を受け付けているNPO法人「OVA」の代表・伊藤次郎さんは、悩みを抱える人が相談窓口とつながることの効果について「自分自身が抱えている苦しい気持ちを他者に話して受け止めてもらうことで孤独感が緩和し、苦しい気持ちが少し緩和することがある」とします。

そこで求められるのが悩みを抱える人への相談窓口の周知です。厚生労働省では、悩みを抱えた時の相談先を公開しています。電話相談のほか、SNSで相談できる団体も紹介されていますが、会見で「周知していくのは難しい」と発言しているように、課題としてもとらえられています。
厚生労働省が発信している相談窓口
厚生労働省が発信している相談窓口 出典:厚生労働省ホームページより
これに加え、悩みを抱える人が相談機関の存在を知っていたとしても、「支援が必要な人に届きにくい」という性質があると伊藤さんは指摘します。

それは、「死にたい」という気持ちを抱えている人が、他人に助けを求める力が弱くなっていることにあります。「具体的な問題を複数抱えている時は、抱えている問題に圧倒されて、 視野が狭くなったりどこから解決していいのか、どういった専門家や相談機関に相談していいのかもわからないことがある」と伊藤さんは説明します。

こうした人に対して必要なのは、相談窓口へつなげる「積極的な周囲からの働きかけ」です。つまり、悩みを抱える本人「以外の人」が、適切な相談窓口の情報を知っていること。伊藤さんは「私たちひとりひとりが、日常的に周囲の人の変化に気づき、声をかけ、場合によっては相談機関に相談するのをサポートしながら見守っていくことも大切だと思います」と呼びかけます。

自分の、身近な誰かの命を守るために

相談窓口は、ただ存在しているだけ機能させることは難しい。だからこそ、会見では自殺願望を持つ人の周囲にいる「それぞれ」に対する「お願い」という発言につながったと考えられます。

官房長官の会見で批判を集めた「それぞれが自殺のない社会をつくっていただけるようにお願いしたい」という発言。その「お願い」には、直前に語られた「悩みを抱える人の話にのる」「周囲の人が相談窓口に相談することを提案する」という内容も含まれています。また、「本人にはもとより、周辺の皆さんも、ぜひそういったことを知っていただいて」と明言しています。

前提として、政府は、新型コロナウイルスの感染拡大という困難、自殺者数という数字が見せる現実の中で、「生きづらさ」を生み出すものを減らし、そして生きづらさを抱える人たちを支えることに取り組まなければなりません。

SNSに投稿した多くの人が指摘するように、「お願い」という表現は、誤解を招くものだったかもしれません。しかし、ここでは大切な命を守るためのアプローチとして、重要なことも語っていました。

個人が自分の周囲数メートルの中でできることが、身近な誰かを助けることにつながることもあります。そして誰かの「生きづらさ」は、いつか自分の身にも起こりうることです。いま一度、どんな相談窓口があるか確認してみませんか。
   ◇

悩みを抱えた時の相談先はこちら。電話のほか、SNSで相談できる団体もあります。
https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/

(参考)午後の会見でも自殺対策に触れている

話題となった会見の午後にも、加藤官房長官の記者会見が行われましたが、そこでは自殺対策に関連して悩みを抱える人のスティグマについて質問がありました。やりとりの全文は以下です。
【記者】
午前の記者会見で質問がありました、自殺対策について伺います。官房長官は午前の会議でも、相談窓口について言及されましたけども、相談しにくい環境とかですね、メンタルヘルスなどについても「相談するのは恥ずかしい」といったスティグマがまだ根強く残っているのも事実だと思いますが、政府としては、こうした偏見をですね、どういうふうに取り除いていくとお考えでしょうか。
【加藤官房長官】
今お話がありましたように、なかなか相談しにくいっていう、それぞれのみなさんにとっての心理的な障壁もあるんだろうというふうに思います。

それに対して、自殺対策基本法に基づいて「自殺予防週間」や、あるいは「自殺対策強化月間」を設けてですね、「悩みを抱えた場合に、誰かに援助を求めているのは何の問題もないんだ、構わないんだ」と、「むしろ相談側はそれを待っているんだ」ということをしっかりと発信していく。また、悩みの抱えている方に、そうしたことを理解をしていただくという、それがまた必要な支援につながっていくというふうに思っております。

また、直接なかなか電話とか対面で伝えにくくても、SNSとかですね、そういった形であれば、伝えられるという方もおられます。したがって、様々な多様な手段を活用してですね、相談体制を構築していくということが必要なんだろうというふうに思います。

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