ネットの話題
「人が多い」怒鳴られた尾道のロープウェイ〝謙虚な反論〟共感呼ぶ
入念な感染対策ゆえの苦悩、そして客と触れ合う喜び
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入念な感染対策ゆえの苦悩、そして客と触れ合う喜び
「坂と猫の街」として知られる広島県尾道市。街を見下ろす名所を上り下りする「千光寺山ロープウェイ」の公式ツイッターの嘆き投稿が、このシルバーウィークに反響を呼びました。誘導員の一人が「このご時世なのに人が多い」と怒鳴られたことから始まった一連のツイート。観光業がコロナ禍で苦境にあえぐ中、業務に励む「中の人」の謙虚でポジティブな姿勢に、共感が広がっています。(北林慎也)
千光寺山ロープウェイは1957年、尾道市街地や尾道水道を一望できる千光寺山に、市が開業しました。
現在は、地元のバス会社「おのみちバス」が指定管理者として運行しています。
付近の高速道路が整備されたり、地元の文化財群「尾道水道が紡いだ中世からの箱庭的都市」などが「日本遺産」に登録されたり、そして衰えない猫ブームも手伝い、近年の尾道の観光客数は増加傾向にありました。
千光寺山ロープウェイでも、年間乗客数は40万人以上に達していました。
そんな矢先に襲ったコロナ禍で、千光寺山ロープウェイは4月14日~5月17日に運休。入念な感染防止策を取ったうえで運行を再開していました。
そして、反響を呼んだ公式ツイッター(@Senkoji_Ropeway)による嘆きのつぶやきは、9月19日の夕方に投稿されました。
この投稿に、ツイッター上で多くの反響が寄せられました。
翌20日夜時点で2000以上リツイートされ、4000以上の「いいね」が付いています。
そのほとんどは、「こんな理不尽なことがあるのか」「怒鳴っても解決しないのに」「聞き逃して良い」「どうぞ気になさらずに」といった、誘導員へのいたわりの声でした。
そしてその後、「中の人」は誘導員のフォローと、他の乗客への感謝の気持ちを連投します。
これらの率直な弁明に対しては、「スタッフを守ろうとする姿勢が素敵」「誘導員さんの心のケアをお願いします」といった励ましの声が多く寄せられました。
一連の投稿について20日夕、運行会社に問い合わせの電話をしたところ、事務所も大変に忙しい様子でした。
そんな合間に電話に出て対応してくださった担当者の方によると、5月の運行再開後は県や市の指導に従い、従業員のPCR検査も徹底したそうです。
一人でも感染確認者が見つかったら、感染拡大防止のために運行を取りやめる構えですが、幸いにしてまだ、社内で感染者は確認されていません。
そして、現場に観光客が多く集まって忙しくなってしまい、さらに理不尽な怒声を受けた背景も説明してくれました。
通常、ゴンドラの乗車定員が30人前後のところ、密を避けるために最大乗車人数を半分の15人に制限。そこへ、コロナ禍で訪問を辛抱していた尾道ファンの観光客がシルバーウィークで多く詰めかけ、乗車待ちの人が公道に列をなす事態になっていたそうです。
この状況には担当者の方も申し訳なさそうで、それでも乗車しようと前後の距離を取りながら並ぶ観光客への感謝を、しきりに語っていました。
そして、ツイッターで一連の投稿をした「中の人」について聞くと、基本的には一人の担当者がつぶやいているとのこと。
また、この「中の人」がそうであるように、社内には確かに、スタッフさんを気遣う気風があるとのことでした。
公式ツイッターは尾道名物の猫の写真投稿が人気で、約4200のフォロワーがいます。
やはり「中の人」も猫好きなのかどうか聞くと、担当の方は「ここでは、猫ぐらいしか撮るものがないですから」と、冗談っぽく笑うだけでした。
そんな「中の人」は20日午後、こんな投稿をしています。
5月の運行再開後、シルバーウィーク前までの客足は大きく落ち込み、例年の半分ほどでした。
そんな苦しい状況下でも「中の人」はスタッフを守り、そして客に励まされ、また助けられていたのです。
最後に、秋の尾道の魅力と観光の見どころを担当者に聞くと、謙虚ながら深い答えが返ってきました。
「もともと春の桜が名物で、秋には正直、あまりアピールできるものがありません。でも、山頂から見下ろす瀬戸内海の島々、そして猫たちは四季を問わず、変わらないままです」
千光寺山ロープウェイはシルバーウィーク中を通じて、午前9時~午後5時15分に運行しています。
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