連載
#48 ○○の世論
安倍首相の実績、71%が「評価」の理由 13年前との「去り際」の違い
離れても戻る「岩盤支持層」の存在
第2次安倍晋三政権が16日に総辞職し、歴代最長政権の幕が閉じます。朝日新聞社が政権発足後に行った全国世論調査(電話)を分析すると、政権を支えてきた「岩盤支持層」の最終評価がみえてきました。安倍首相の終盤の政権運営に影を落とした新型コロナウイルスへの対応が、菅義偉・新政権の評価も左右しそうです。(朝日新聞記者・磯部佳孝)
安倍首相の辞任表明にともなう自民党総裁選の構図が固まった後、朝日新聞は9月2日~3日、安倍政権下で最後となる全国世論調査(電話)を行いました。約7年8カ月続いた安倍政権の評価を次のように聞きました。
安倍首相の実績を「評価する」(「大いに」「ある程度」の合計)は全体で71%、「評価しない」(「あまり」「まったく」の合計)の全体28%を大きく上回りました。年代別にみると、「評価する」が18~29歳95%、30代79%、40代68%、50代73%、60代61%、70代63%。18~29歳と30代で「評価する」が特に高い数字が出ました。
安倍首相が今回と同じように突然辞任を表明した13年前にも、安倍首相の実績評価を聞いています。このときは今回と異なり、「評価する」(「大いに」「ある程度」の合計)37%が「評価しない」(「あまり」「まったく」の合計)60%を大きく下回りました。
この違いの背景には、「去り際」の違いがあるようです。
1回目は、安倍首相が国会で所信表明演説をした2日後、代表質問の当日に辞任を表明。辞任会見で病気のことに触れなかったこともあり、「投げ出し」批判が集まりました。このときの調査では、この時期の辞任表明について「無責任だ」との回答が70%に達しました。
今回は、持病の悪化を理由とした辞任とともに、国民の関心事である新型コロナウイルスへの新たな対応策も表明したことで、「投げ出し」という印象を和らげる効果があったとみられます。こうした「去り際」の印象も、安倍首相の実績評価に影響したのかもしれません。
最長政権を支えたものは何だったのか。第2次安倍政権が発足して以降、朝日新聞社は今回まで計112回の全国世論調査(電話)を行っています。2016年途中から調査対象などが変わったため単純比較はできませんが、年平均で算出した年代別の内閣支持率を見ると、30代以下は一時的に支持が離れてもやがて戻る「岩盤支持層」だったことがわかります。
集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法が成立した2015年は、すべての年代で支持率が下がりました。ただ変動幅に差があり、40代以上で支持率と不支持率がほぼ並んだのとは異なり、30代以下では支持率が不支持率を大きく上回りました。
消費増税を再延期した2016年にすべての年代で支持率が戻った後、森友・加計問題が発覚した2017年、30代以下と40代以上では再び対照的な動きを示します。40代以上の支持率は低下し、支持率41%と不支持率40%でほぼ並びました。一方で18~29歳の支持率は上がり、30代の支持率は2016年から横ばいでした。
さらに財務省による公文書改ざんが発覚した2018年の支持率は、40代以上では36%に下がりましたが、18~29歳は48%、30代は45%と高止まりしました。
年平均でなく個別の調査で見ても、その傾向ははっきりしています。
公文書改ざん発覚直後の2018年3月の調査で、全体の支持率は第2次政権下で当時としては最低の31%を記録しました。40代以上で不支持率が支持率を大きく上回る一方、18~29歳は支持率34%が不支持率29%を上回り、30代は支持率37%と不支持率39%がほぼ並びました。
この調査で、改ざんをどの程度問題と思うかを四者択一で尋ねると「大いに」「ある程度」を合わせた「問題だ」が40代以上で9割前後だったのに対し、18~29歳と30代はいずれも8割弱とやや低めでした。ほかにも安全保障関連法や「桜を見る会」など安倍政権の政策や姿勢への評価について、40代以上と30代以下の間にこうした差がたびたび生じています。
ところが、新型コロナウイルスの感染拡大が、この構造に変化をもたらしつつありました。
18~29歳と30代のうち、特に30代が支持離れの兆しを見せました。今年1~7月の30代の平均支持率は38%、平均不支持率は37%とほぼ並びました。第2次政権発足以降の各年の同時期と比べると、最も低い水準となっています。18~29歳の平均支持率は42%、平均不支持率は32%でした。
今年5月の調査では、全体の内閣支持率が29%と第2次政権下で最低を記録しました。30代の不支持率は45%で、支持率27%を大きく上回り、全体の支持率を押し下げる要因となりました。
背景には政府への厳しい視線があるようです。新型コロナへの政府対応の評価を尋ねた今年2~7月の調査の平均値を分析すると、次のように結果となりました。
30代の「評価しない」は55%(2~7月の平均値)に対し、「評価する」は35%(同)。30代の「評価しない」は、40代と60代の55%(同)と並んで高い水準にあります。
生活が苦しくなる不安を感じるかを聞いた今年3~7月の調査の平均値は、次のようになりました。
生活が苦しくなる不安を「感じる」は30代で57%(3~7月の平均値)。50代の60%(同)、40代の59%(同)に次いで高い結果でした。30代はいわゆる「子育て・働き盛り世代」。新型コロナの生活への影響に敏感な世代とも言えます。30代の「生活苦不安」の高さが浮かびました。
安倍政権下で最後の調査となった9月の調査では、安倍首相の新型コロナ対応について、次のように聞きました。
30代は、「発揮してきた」38%が「発揮してこなかった」51%を下回りました。安倍首相の実績について、大学でいうと「良」に当たる高い評価を最終的に与えた30代といえども、安倍首相の新型コロナ対応については厳しい目をいまだに持っていることが分かります。
新政権を発足させる菅義偉氏は自民党総裁選で「安倍政権の継承」を訴えて、勝利しました。
菅新政権は安倍政権のような「岩盤支持層」を得て、長期政権を築くことができるのか。その成否は、新首相の菅氏が新型コロナ対応で指導力を発揮できるかどうかにかかっていると言えそうです。
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