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#14 WEB編集者の教科書

ラーメン→世界経済まで…東洋経済オンラインが見つけた「PVの役割」

リニューアルから8年、月間3億ページビューを達成した「東洋経済オンライン」の作法

「東洋経済オンライン」の武政秀明編集長(右)と井下健悟副編集長=栃久保誠撮影
「東洋経済オンライン」の武政秀明編集長(右)と井下健悟副編集長=栃久保誠撮影

目次

WEB編集者の教科書
情報発信の場が紙からデジタルに移り、「編集者」という仕事も多種多様になっています。新聞社や出版社、時にテレビもウェブでテキストによる情報発信をしており、ウェブ発の人気媒体も多数あります。また、プラットフォームやEC企業がオリジナルコンテンツを制作するのも一般的になりました。

情報が読者に届くまでの流れの中、どこに編集者がいて、どんな仕事をしているのでしょうか。withnewsではYahoo!ニュース・ノオトとの合同企画『WEB編集者の教科書』作成プロジェクトをスタート。第14回は「東洋経済オンライン」編集長の武政秀明さんと副編集長の井下健悟さんです。創業125年の老舗経済雑誌から月間3億ページビューを超えるビジネスニュースサイトへ。その成長の背景と編集者の果たす役割について聞きました。(withnews編集部・山内浩司)

「東洋経済オンライン」が目指すもの
・「健全なる経済社会の発展」に貢献すること
・「正義」ではなく「正しさ」を追究
・PVは大事だが、求めるものではない

新型コロナ感染拡大で注目度がアップ

「東洋経済オンライン」は、今年5月の自社ページビュー(PV)が3億0457万PVに達しました。2003年5月のサイト開設以来初めて3億PVを突破し、過去最高値を更新。2012年11月にサイトを全面リニューアルして以来、着実に数字を伸ばし、昨年10月以降は、コンスタントに月間2億PV台を維持していました。2018年末から編集長を務める武政さんは「他のニュース系サイトも同様だと思いますが、やはり新型コロナウイルスの感染拡大でコロナ関連の情報を求めるニーズが高まったことが大きく影響しました」と語ります。

特に、2月末に開設したデータダッシュボード「新型コロナウイルス感染の状況」が大きな注目を集めたそうです。日々刻々と移り変わる発生状況を、厚生労働省から公表されているデータと組み合わせ、独自にビジュアライズしたもので、スマートなデザインが目を引き、データの取り扱い方について詳細な注釈がついているのも特徴。「データ事業はうちの会社のビジネスの柱のひとつ。データを使って見せる手法は得意とするところなんです」。
「東洋経済オンライン」のデータダッシュボード「新型コロナウイルス国内感染の状況」
「東洋経済オンライン」のデータダッシュボード「新型コロナウイルス国内感染の状況」 出典: 出典「東洋経済オンライン」

今年1月末に中国・武漢が都市封鎖され、国内では2月にダイヤモンド・プリンセス号の集団感染が発生し、日々不安が高まっていった時期でした。

「新型コロナに関してビジュアルなページをつくれないかと、編集部のデータ担当に持ちかけました。『どうすればいいんだ?』と担当者はぼやいていましたが、バラバラに報じられているデータをまとめて、一目で感染の状況や日ごとの変化がわかるページを考えてくれ、すぐに実現しました」と武政さん。ネットメディアならではのスピード感で製作されたページは改良を重ね、ピーク時には一日に40万人、今も10万人が訪れるコンテンツになっています。

「読者の関心や知りたいことにどう応えていくのか。メディアにとって改めてその点が重要だということを感じました。読まれる記事とは、読者にとって有益なテーマを独自の切り口で、説得力ある内容にまとめ、よいタイミングで、興味をひくタイトルをつけて発信すること。それが編集者の仕事の基本と考えています」

武政秀明(たけまさ・ひであき)編集長 1976年生まれ。98年大学卒業後、国産大手自動車系ディーラーセールスマン、日本工業新聞(現フジサンケイ ビジネスアイ)を経て2005年、東洋経済新報社入社。18年より現職=栃久保誠撮影
武政秀明(たけまさ・ひであき)編集長 1976年生まれ。98年大学卒業後、国産大手自動車系ディーラーセールスマン、日本工業新聞(現フジサンケイ ビジネスアイ)を経て2005年、東洋経済新報社入社。18年より現職=栃久保誠撮影

スタートは投資家向け情報サイト

「東洋経済オンライン」を運営する東洋経済新報社は,1895(明治28)年創刊の総合経済誌『週刊東洋経済』、1936(昭和11)年創刊の企業情報誌『会社四季報』で知られる老舗出版社です。現在では雑誌、書籍の編集・発行、各種統計や企業情報を販売するデータ事業、セミナー開催などのプロモーション事業、そして「オンライン」を含むデジタルメディア事業が収益の5本柱になっています。

「東洋経済オンライン」は、「日本経済新聞電子版」のような有料課金モデルではなく、基本は広告収入による無料サイトで、自社が展開する各事業のハブ的な役割も果たしています。『週刊東洋経済』はじめ雑誌と連携し、会員制をとる雑誌のデジタル版『東洋経済プラス』や『四季報オンライン』への送客、刊行書籍のプロモーションや手がけるセミナー事業のPRや集客といった役目など、オンライン単体で稼ぐ以外にも、会社の事業を世に出していくプラットフォーム的な側面も持っています。

こうしたビジネスモデルは、当初から構想されていたわけでなく、「いわば偶然の産物」だったと武政さんは話します。

「私は、マクロ経済などを担当する市場経済部の記者から、2010年にオンライン編集部へ異動を命じられました。オンラインができた2003年から2011年くらいまでは、社内ベンチャー的な位置づけで、どちらかといえば日陰者的な存在でしたから、私自身もこの部署には行きたいとは思っていなくて正直、複雑な心境の中で異動しました」

当時のオンラインは、『会社四季報』の要素が強い、投資家向けの色彩が強いメディアだったそうです。

「うちの記者は全員、上場企業約3700社を手分けして自動車、金融など業界ごとに企業単位で担当社を持っています。その企業の業績を四半期毎に取材し、今後の予測を『会社四季報』に掲載している。その業績にかかわる部分を『四季報速報』として、ネットで配信していくのが業務の中心でした。しかし、法人や投資家に販売するにも限度がある。ビジネスパーソンだけでなく、主婦や学生らより幅広い層の人々に読んでもらえる方向に、2012年のサイトリニューアルを機に大きく方針変換しました」

現在の「東洋経済オンライン」トップページ
現在の「東洋経済オンライン」トップページ 出典: 出典「東洋経済オンライン」

短い記事は読まれない。読み物中心にリニューアル

そのターニングポイントになったのが、東日本大震災だったそうです。

当時の「東洋経済オンライン」は月間200万~300万ページビューほどのサイトでしたが、震災直後、被災した企業の状況を一斉に取材して伝える記事を配信したところ、一時的ですがページビューが倍増したそうです。コンテンツをしっかり集めて出せば効果が出ることはこれでわかりました。

さらに1本ごとの記事を分析していってわかったことは、「発表モノをまとめたような短い記事は読まれない」ということでした。

「『四季報速報』は月に100本以上配信していましたが、合算してもページビューはびっくりするほど少なかった。一方、雑誌でいえば2ページ以上にあたる2千~3千字でしっかり背景を書き込んで分析した記事を出すと、当時でも4万~5万PVを獲得するものがありました」

「この違いとは何か。結局、読者は賢くて、自分たちが発表情報を基にさらっと書いているということはすぐばれてしまう。オンラインを大きくしていく過程で意識していたのは、とにかく雑誌と同じクオリティーのものを手を抜かずに作り込まないと読まれない、ということ。これは本当に痛感させられました」

「ほかにはない切り口が深く入って、しっかりとしたエピソードやデータ、ファクト、ロジックがあって、ストーリーができている記事を読者は選り分けて見ています。雑誌とは出すタイミングや見せ方は違いますが、そこに詰まっている品質は同じでないと勝負できないのです」

栃久保誠撮影
栃久保誠撮影

雑誌とデジタル、本質的な違いはない

では、デジタルと雑誌の違いとは何でしょうか。

「週刊東洋経済」の副編集長も兼任し、この春から「東洋経済オンライン」副編集長を務めている井下さんは「コンテンツを作るという意味では、あまり違いを感じない」といいます。

「違うとすればスピード感とタイミングの重要性でしょうか。以前、雑誌とオンラインの両方へ記事を出す仕事も担当していましたが、その時より情報が流れていく早さ、拡散するスピードはより増していると実感しています。雑誌では今日起きたことは載せられませんが、オンラインならすぐ出せる。アウトプットの方法が多様になっていることに記者はメリットを感じていると思います」

「一方、単にスピード勝負ではなく、少し時間をおいて、切り口を変えて出すことできっちり読まれる場合もある。タイミングをはずすと、絶対読まれると思っていた記事が、全然読まれないこともある。オンラインではそれがシビアにわかるのが、難しく面白いところです」

井下健悟(いのした・けんご)副編集長 1975年生まれ。99年、東洋経済新報社入社。記者として、食品、自動車、通信、電力、金融業界を担当。現在は「東洋経済プラス」編集長も務める=栃久保誠撮影
井下健悟(いのした・けんご)副編集長 1975年生まれ。99年、東洋経済新報社入社。記者として、食品、自動車、通信、電力、金融業界を担当。現在は「東洋経済プラス」編集長も務める=栃久保誠撮影

矜持を持って「読まれる記事」を模索、PVを伸ばす

現在、オンライン編集部には12人の編集部員が所属。井下さんのように社内の記者が書いてくる記事をまとめるメンバーのほか、フリーライターやエコノミスト、企業のアナリスト、弁護士や公認会計士といった士業など多彩な300人を超える外部ライターに記事を発注し、発信する担当もいます。

他にもデータ部門が作成する様々な指標をもとにしたランキング記事や他の出版社や通信社からの転載記事も配信されます。その数は月に600~700本にのぼり、硬派な経済記事はもちろん、教育やライフスタイルからラーメンやアイドルの話題までとバラエティーに富んでいます。

「読者がリアルに感じている経済を、どう届けていくかがポイントです。身近なテーマを切り取り、自分事としてとらえてもらえるよう記事に具体的なヒト、モノ、コトに落とし込んでいくと、読者にとってのリアリティーや当事者感が生まれる。そうした小さなリアルを積み重ねていくことで経済という現象を伝えることができる。そのためには、自前のコンテンツだけにこだわらず、いろんなものを集めてたくさんの人に来てもらうことが重要なんです」と武政さんは話します。

その際の基準になるのは、創業者・町田忠治が残した社是「健全なる経済社会の発展」に貢献するかどうか、という視点だそうです。

「読まれるなら、何をやってもいいというわけではありません。読まれた指標であるPV(ページビュー)はとても大事ですが、求めるものではないと、編集長に就いた時に打ち出しました。それはあくまで自分たちの存在意義を知らしめていくためにつくったコンテンツの集積の結果である、と。そのためにやるべきこと、やらないことを整理しました」

「PVもとれそうでやるべきものは、もちろんやる。PVがとれなくてもやるべきものは、切り口や見せ方を工夫しながらやる。問題なのはPVがとれるが、やってはいけないもの。これは魔物のようなところがあり、フェイクニュースには手を染めずとも、扇情的なあおりや根拠の薄い表現に走ってしまうといったことは起こりうる。常に矜持、理念、節度を持ちながら、読者が求めるコンテンツを提供していこうというのが現在の方針です」

さらに、武政さんはもうひとつ、「正義」ではなく「正しさ」を求めるという立場も挙げています。

「記事は書き手の主観や正義を押しつけるものであってはならない。客観的事実をベースに正確に報道することで、読者が受け入れてくれるものをつくる。そうした読まれる記事を出すことが、媒体の支持や信頼につながり、ブランドになっていくのです」

編集者は「併走者」「編んで集める」存在

栃久保誠撮影
栃久保誠撮影

では、そうした記事を世に送り出していく、WEB編集者に求められる資質とは何なのでしょうか?

井下さんは「自分自身まだ手探りの状況ですが、やはりコミュニケーション力が一番大事なのでは」と話します。「私の場合、相手は社内の記者になりますが、ネタをとってきた記者に共感しつつも、一歩ひいた冷静な視点を持つことも重要ですね。あくまで黒子として、記者とは少し離れて並走する形で意見交換しながら、良い記事を出していきたいと思っています」

武政さんは「メディアの特性によって、違いはあるでしょうが、編集者とは、その名の通り”編んで集める”役割だと考えています」といいます。自分が表に立つのではなく、記者や書き手のプロフィールや人生経験から、個性を見極め、得意分野を引き出し媒体の特性に合わせて、〝編んで集める〟。そのためには、表現力や切り口やテーマを考える企画力、文章を整える力などは必須で、さらにやはりコミュニケーション力が重要だと指摘しました。

「編集者は一人で仕事ができないので、結局、どれだけ多くの人の力を借りることができるかが鍵になる。そのためには、自分の得意なことは何かを知っていなくてはいけない。例えば私なら、文章を整える力やタイトルをつける能力、読者の関心を得られそうな企画のイメージを伝えるのが得意だと思っている。そんな自分の得意と、相手の得意なところを掛け合わせることで面白い企画や切り口、コンテンツが生まれるのだと思います」

「自分の得意がわかっていないと、相手の得意なことも引き出せませんよね。自分の良さと相手の良さを、同時に〝編んで集めて〟いけるのが、よい編集者と私は考えています」

栃久保誠撮影
栃久保誠撮影

また、自分の良さや得意を生かしていけるように武政さんは、編集者としては「なるべく好きな人、気の合う人と付き合うようにしている」といいます。

「私の場合、関心のあるテーマや企画で、常に外部ライター50人以上、出版社20社以上と連絡を取りながら、月に60本ほどのコンテンツを用意します。もちろんバランスは取らなければなりませんが、この状況になると、なるべく好きな人、気の合う人と付き合っているだけでも仕事は回るんです。こうした状況を作る方が大事だと思います」

「仕事の上ではオールマイティーを目指さなくてもいいのでは。苦手を克服するより、自分ができないことを認めて、人にまかせる。それぞれが好きなこと、得意なことを一生懸命やっていくことで、自然と全体的にバランスがとれてくるものです。規律と節度、理念を守った上で好きなことにチャレンジできる。そうした編集部の自由さが結果にもつながっていると思っています」

「東洋経済オンライン」武政さんの教え
・編集とは「編んで集める」こと。黒子に徹せよ
・自分の得意と相手の得意を掛け合わせて、引き出す
・好きな人、気の合う人と付き合うだけで仕事が回る状況をつくりだす

経済系のウェブメディアは新聞社系、出版社系、さらに外資系や新興ネット系と激しく競争している世界。その中で「東洋経済オンライン」が打ち出す方向性は、決して目新しいものではなく、むしろ紙媒体とデジタルの関係などオーソドックスなものです。しかし、こうしたぶれない「基本姿勢」が重要なのでしょう。

「読まれないと意味がないが、読まれればいいわけではない」といった二律背反は永遠の課題です。それを乗り越える手段が、自分の好きや得意を突き詰めることだとするなら、希望につながる気がしました。

 

さまざまなジャンルのメディアや会社で活躍する、WEB編集者へのインタビューを通して、WEBメディアをとりまく環境を整理し、現代の“WEB編集者像”やキャリアの可能性を探ります。Yahoo!ニュース、ノオトとの合同企画です。連載は一時中断し、10月中旬以降に再開します。
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