IT・科学
Yahoo!ニュース「#コロナとどう暮らす」企画班さんからの取材リクエスト
仕事でオンラインのやりとりが増えました。「きつい人」だと勘違いされないためにできることはありますか?
「メールの言葉遣い、きつくない?」オンラインで仕事、外国人の悩み
語尾につけたら優しく…魔法の言葉
IT・科学
仕事でオンラインのやりとりが増えました。「きつい人」だと勘違いされないためにできることはありますか?
語尾につけたら優しく…魔法の言葉
仕事で、オンラインが増えました。日本語の文章を書くのはまだ苦手です。特にメールは、外国人が慣れていない日本語で書こうとすると、つい、表現がストレートになってしまいます。きついことを書いているつもりはないのですが、日本人には『きつい』と見えるようです。どうしたらいいですか? Yahoo!ニュース「#コロナとどう暮らす」企画班
日本で働く外国人も、「ソーシャルディスタンス」を保つため、ビデオ会議やチャットやメールでのやりとりなど、オンライン(インターネットを使って話したり、書いたりすること)の仕事が増えています。日本人と同じように「対面だったら伝わっていたことが、伝わりにくくなった」と不安になる人もいます。日本語にまだ慣れていない外国人にとっては、なおさらで、メールの語尾が「優しくなるよう」独自の工夫を考えている人もいます。突然、オンラインのやり取りが増えて戸惑っている日本人もいるはずです。外国人にも、日本人にも役に立つ、「オンラインでもやさしく伝わるコツ」を考えました。
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「オンラインが増えた結果、『この人は、怖い、きつい人だ』と誤解されていないか、心配になります」
日本で暮らす外国人女性を支援する市民グループ「外国人女性の会パルヨン」が開催した、コロナ禍の悩みを聞くオンラインミーティング。日本で働く韓国出身の女性は、冒頭の不安を口にしました。
女性は、東京に暮らして7年目。画面越しで聞くと、日本語はコミュニケーションに支障がないように思えるほど、流暢です。
しかし、女性によると「文章を書くのは苦手です。特にメールは、外国人が慣れていない日本語で書こうとすると、つい、表現がストレートになってしまいます。きついことを書いているつもりはないのですが、日本人には『きつい』と見えるようです……」と話します。
女性の勤務先ではコロナ禍でオンライン化が急速に進み、それまでほとんどなかったメールやチャットでのやりとりが、メインになったそうです。
記者は、オンラインのテキストなら自動翻訳が使いやすく、日本語が苦手な人にとっては、便利だろうと思っていました。しかし、女性は「私は仕事ではGoogle翻訳は使いません。間違えてはいけないからです」と言います。
パルヨンの代表理事で、フィンランド出身のハッカライネン・ニーナさんは、「オンライン会議やメールでの連絡が主流になると、参加者は一律に、日本人と同じレベルのコミュニケーション力が求められます。これまでの対面での会議なら、外国人の表情などから察して『理解できている?』と気遣ってフォローしてくれる人もいました。でも、オンラインになって、そうした親切なやりとりが減ってしまったように感じる人は多いようです」と指摘しました。
withnewsで日本語の記事も書いている中国人記者、章蓉さんは、女性の悩みに共感しました。
「確かに日本語の文面で、外国人はストレートな言い方になりがちです。だから私も、メールやチャットでのやりとりは、やさしい感じに見える工夫をしています」
章さんの工夫としては、メールなら始めに「お世話になっています」「先日はありがとうございました」とあいさつを入れる、スラックなどチャットなら、絵文字や「!」など「SNS特有の符号」を入れるようにしているそうです。
そして、文末はあえて言い切らず、「~した方がいいかもしれません」など、「相手に考える余地を残す」表現を使うことが多いと言います。
私はコミュニケーションを円滑にするために、様々な気を遣ってもらっていたことを知り、驚きました。
【
① メールは、あいさつからはじめます。
② チャットでは、
③
フリマアプリの「メルカリ」では、社内に40カ国を超える国籍の違う社員がいます。
在宅勤務が広がる中で、メルカリは独自に「やさしいコミュニケーションでミーティングを効果的にする方法」について検証し、公表しました。
これまでも、メルカリでは、母国語が違う社員同士が分かりやすい「やさしい日本語」や「やさしい英語」を使ったコミュニケーションについての講座を重ねていました。
メルカリの、日本語トレーナーのウィルソン雅代さんは、オンラインによって、コミュニケーションが難しくなった、と感じている人は、外国人や日本語が苦手な人だけにとどまらないだろう、と指摘します。
その上で、実は母国語が違う人とのコミュニケーションに活用してきた「やさしい(易しい・優しい)」マインドに、関係を円滑にするヒントがあると言います。
たとえば、オンライン会議では細かな表情を読み取ることは難しく感じます。大人数だと、割り込んだ発言などもしづらいです。
多くの人が経験があると思いますが、音声が明瞭でなく聞き取れなかった時に、会議を止めてなかなか聞き返しづらい雰囲気もあります。「いまのところ、聞こえなかった」といったときにもアピールしづらく、会議について行けなくなることもあります。
「日本語が苦手な人だと、なおさらです。音声が聞き取りづらくて、意味がわからなくなることは多いです」とウィルソンさんは指摘します。
そのため、お互いに、わからない時には「首をかしげる」、わかった時には「うなずく、親指を立てる」など、リアクションやジェスチャーをすることで、コミュニケーションが円滑になります。チャットを使って、質問を書くことも有効です。
そして、全体の反応を見ながら「わかりますか?」と確認する、ファシリテーターの役割も、オンラインでは特に重要だと言います。
【オンラインの
① ジェスチャー(
② たくさんの
③ オンラインの
メールやチャットなど文章でやりとりする場合、やさしい日本語では、「一文を短くして、文末は『です、ます』で言い切る」ことが鉄則です。
逆に「~してもらえたら、ありがたいと思うのですが・・・・・・」と言ったあいまないな表現では、日本語が苦手な人は、指示が来たのか、相手が意見を言っただけなのか混乱し、誤解のもとになると言います。
一方で、「ストレートな表現をして『きつい人』と思われるのが心配」という、冒頭の女性のように不安に思う人もいます。
確実な正解はそこにはないのかもしれません。普段の関係性ができていれば「きつい人」だと思ったり、思われたりするリスクは減りそうです。
日本語が得意・不得意であるかは関係なく、オンラインのコミュニケーションでは、誰もが「顔」が見えないからこその不安を感じています。
ウィルソンさんは、「オンラインが主要になって、オフライン(対面)ではなかった、別の課題が出てきました。こういう時だからこそ、改めてチーム内でそれぞれが日頃感じているわかりづらさや不安などを共有し、みんなで課題を考え、チームのことを理解するきっかけにできれば良いと思います」と話しています。
「やさしい日本語」に詳しい、一橋大学の庵功雄教授に、誰にとってもやさしいコミュニケーションのコツを聞きました。
◇
■庵功雄教授の話
「対面」と「オンライン」で違いが出るのは、必ずしも日本語母語話者(「日本人」)と、非日本語母語話者(「外国人」)の間に限った問題ではありません。
今、大学で、新入生がオンライン授業の中で同級生などと会うことができず、横のつながりが作れずに苦労しているのも、ここで取り上げられているのと同様の問題と捉えることができるように思います。
その一方で、「やさしい日本語」を必要とする外国人に特有の問題もあります。
ウィルソンさんも指摘しているように、「やさしい日本語」では情報をできる限り明確に伝えることを目指しています。
たとえば日本語の会話ではよく「お気持ちがわからないわけではないのですが」と曖昧にする表現がありますが、やさしい日本語では「(私は)あなたの考え方はわかります」と言うことが重要なのです。
それは、「お気持ちがわからないわけではないのですが」というような言い方は、「誰のことを言っているのか」(日本語では「あなたの」に当たる部分を言わないのが普通です)、「賛成しているのか反対しているのか」(英語では二重否定は通常避けられますが、日本語では二重否定は頻用されます)といったことが、非母語話者にはわかりにくいためです。
一方、「~です」「~ます」で言い切る言い方は、母語話者同士のやりとりでは避けられる傾向にあるのも事実で、そのため、記事中の韓国人女性のように、非母語話者が、自分の日本語が母語話者に「きつく」取られていると考えるのも無理はないと思います。
しかし、だからといって、非母語話者は母語話者のコミュニケーションのやり方に一方的に合わせるべきだというのも正しい態度とは言えないのではないでしょうか。
この問題に関する「正解」はないとしても、オンラインの会議や話し合いでは、話し合いの運営者(議長、司会者やファシリテーター)が、参加者の表情を注意深く観察し、ある程度こまめに、理解や意思表明の確認を行うことが重要になってくるように思います。
それは、上述のように、オンラインの話し合いの場で意見表明を行うのは、非母語話者だけでなく、母語話者にとっても難しく、そうしたうまく意見を表明できない人たちの意見を吸い上げられないと、話し合いの実効性を高められない可能性が高いからです。
こうした目的を達成するためには、話し合いの実際の進行役(司会者)と会議の参加者の調整役(ファシリテーター)を分けて、後者は画面上で参加者全体を見渡しながら、理解などに問題がありそうな参加者を見つけることに特化するというのも一案かもしれません。
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