IT・科学
ピザハットとイエローハット「帽子じゃないコラボ」1年かかった理由
「弊社の『ハット』は…」「衝撃」
企業の「中の人」の素顔が見えるのが魅力のツイッターアカウントですが、異業種同士のコラボにつながることも少なくありません。イエローハットとピザハットのアカウントが「ハット」つながりで盛り上がった結果、生まれたのが「イエローピザハット」です。頭にかぶせて使うアイテムですが、実は帽子とは言い切れない事情があります。新型コロナウイルスでストレスを抱える人が多い中、心温まるコラボが実現した背景と、水面下で繰り広げられたせめぎ合いについて聞きました。
「イエローピザハット」は、頭にすっぽりかぶれる丸い布製のアイテムです。リバーシブルになっており、タイヤとピザ、両方の姿になることができます。
どう見ても帽子のようですが、公式には帽子ではありません。その理由は「ハット」のつづりにあります。イエローハットのハットは「hat」。ピザハットのハットは「hut」。
イエローハットの「hat」は、企業のロゴからもわかるように帽子を意味します。通学時に児童がかぶる「黄色い帽子」が社名の由来で、人とクルマとの心地よい共存関係と「交通安全」を願う思いが込められているいいます。
ピザハットの「hut」は、帽子ではなく小屋です。1958年、アメリカのカンザス州ウィチタでカーニー兄弟が創業した際、小さな店舗の看板スペースは8文字分しかなかったため「Pizza」以外にあと3文字しか入らず、建物の形が山小屋に似ていたことから「Hut」を加えて「Pizza Hut」としたそうです。
両社がコラボして生まれたアイテムを帽子とは呼べないのは、会社の起源にかかわる重めの事情があったのです。
アイテムが生まれたきっかけは、1年前にさかのぼります。
「ハット」つながりでツイッターでのやり取りがはじまった両社のツイッターアカウント。「8月10日(ハットの日)」に一緒に何かやろうという話で盛り上がります。
2019年8月5日に、イエローハットが、帽子前提でコラボアイテムのアイデアを提案したところ、「大変申し上げにくいのですが」というコメントとともに衝撃の事実が明らかになります。
「弊社の『ハット』は小屋の“hut”で帽子の“hat”じゃないんです…」(@Pizza_Hut_Japan)
「えっそのアイコンの帽子は」(@yellowhat_ltd)
「これ小屋なんです・・紛らわしくてすみません」(@Pizza_Hut_Japan)
「衝撃」(@yellowhat_ltd)
8月10日まで1週間を切った中での出来事に、この年は、イエローハット1社による取り組みにならざるを得ませんでした。
この時の悔しさを忘れていなかった両社が1年後、実現させたのが「イエローピザハット」でした。
イエローハットの担当者は「企業同士のコラボレーションというものは非常に難しいもので、割合というものが必ずセットでついてまわります」と苦労を述べます。
「今回のように共通点がカタカナの『ハット』と『丸い』ということしか無く、アイデアの抽出に双方苦しみながらも、ちょうどよい、あんばいの着地点が見つかったと思っています」
ピザハットの担当者も「今年こそはコラボレーションを実現させて、お客様の喜ぶ顔が見たいと企業同士、担当者同士が熱意を持って取り組み、決して諦めませんでした」と振り返ります。
「このような企画を許容してくれたイエローハットさんや会社(ピザハット)にも感謝しております」
一方で、「イエローピザハット」はどちらかといえば〝すごく帽子〟です。
これに対してイエローハットの担当者は「まず、帽子のような小屋ですので、帽子ではございません」と断言。
「頭にかぶるものでもあり、屋根にもなっていて小屋のようにもなる。この妄想のようなアイデアを帽子職人さんにお伝えしたところ、予想を上回るクオリティーで実現していただき、大変感謝しております」
実は、アイテムの撮影当日、ピザハットのアカウントは「結構帽子ですね」という懸念の声を発していました。
ピザハットの担当者は「やはり帽子の割合が多いと感じますよね」と心情を吐露します。とはいえ、「ひとつの形として実現できたことにイエローハットさんには感謝しています」と、まずはアイテムを生みだしてくれたイエローハットに敬意を表します。
新型コロナウイルスで外出自粛が続く中、発表された今回の「イエローピザハット」。両社も大きな影響を受けました。
イエローハットの担当者は「コロナ禍において、特に来店客数の減少及びタイヤやカーナビゲーションなどの高単価商品が販売不振となりました」と明かします。
一方、緊急事態宣言解除後の6月以降は回復もしているといいます。そんな中、気づいたのが「クルマは生活をする上で重要なインフラである」ということです。
「クルマはプライベートな空間として見直されており、移動手段としてだけではなく、自分だけのスペースとして 活用されています。そのためハンドルにセットするテーブルなどがよく売れています。イエローハットグループでは、このような環境下でもカーライフを快適に過ごしていただけるよう、お手伝いができればと考えています」
対するピザハットは、「宅配」のイメージの変化を感じていますそうです。
「これまで『宅配』『ピザ』というものがハレ需要というイメージが大きかったと感じていましたが、自宅で過ごす機会が増えたことでより日常に近づいた感じがします。今後もピザを頼んで楽しくハッピーな時間を提供できればと考えています」
両社に共通するのは、日常の延長にあるサービスの自覚と大切さです。
ネットが結んだ縁によって、それぞれの事業の姿を見つめる機会にもなったともいえる今回のコラボ。
「イエローピザハット」の紹介動画は、多少、強引にも見える「小屋にもなる!」というカットで終わります。
コラボレーションにおける割合について悩んだ末の演出でしたが、イエローハットの担当者は今となっては「どこからどう見ても、帽子のような小屋ですので、演出は今でも不要かと思っています」と、両社の結びつきの強さに自信を見せます。
一方の、ピザハットの担当者は「次があるとすれば、『被らないもの』を作りたいです……」とぽつり。
3年目のコラボが今から気になる展開になっています。
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