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霜降り・せいやの予言が現実に「第七世代」の一過性で終わらない価値

「第三世代」から激変した多様性

お笑いコンビ「霜降り明星」のせいや=2019年7月14日、東京都新宿区、池田良撮影
お笑いコンビ「霜降り明星」のせいや=2019年7月14日、東京都新宿区、池田良撮影 出典: 朝日新聞

目次

現在、「第七世代」と呼ばれる若手芸人たちがバラエティー番組を盛り上げている。かつて、1980年代後半に起きた「第三世代」にも似た現象だが、その成り立ちはだいぶ異なる。景気の停滞、通信機器の進化、メディアの多様化など、この30年でさまざまな変化があった。体制は弱体化し、個人の時代へ――。「第七世代」とは何なのか? その多様性について考える。(ライター・鈴木旭)

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「第三世代」と「第七世代」の違い

昨年末あたりから、「第七世代」と呼ばれる若手お笑い芸人の活躍が目覚ましい。その発端は、2018年12月22日深夜に放送されたラジオ番組『霜降り明星のだましうち!』(ABCラジオ)だった。

パーソナリティーである霜降り明星・せいやが「勝手に次の年号の世代『第七世代』みたいなのをつけて、YouTuberとか、ハナコもそうですけど、僕ら20代だけで固まってもええんちゃうかな」と語ると、お笑いファンの間で一気に浸透した。

この時点では、ミュージシャン、YouTuber、芸人など、ジャンルを問わず同世代でムーブメントを起こそうという壮大なもので、“お笑い”というくくりはなかった。

しかし、翌2019年3月に放送の『ENGEIグランドスラム』(フジテレビ系)の中で、「お笑い第七世代」として霜降り明星、ハナコ、ゆりやんレトリィバァ、EXIT、かが屋、宮下草薙らが紹介される。

同年6月18日、霜降り明星をはじめとする主に若手芸人のインタビューをまとめたムック本「芸人芸人芸人 面白いのが、好きだ volume1」が発売され、好調な売れ行きを見せると、必然的に「お笑い第七世代」というイメージが先行する形で広く浸透していった。

ネタ番組やバラエティー番組においても、次第に若手芸人は「第七世代」のくくりで語られるようになっていく。今年2020年3月には、「第七世代」を意味する番組『第7キングダム』『お笑いG7サミット』(ともに日本テレビ系)のパイロット版が放送され、メディアにおいては「お笑い第七世代」というニュアンスが完全に定着した。

1980年代後半に起きた「第三世代」ブームは、最初から「“お笑い”第三世代」と銘打たれていた点で成り立ちが異なる。

タモリ、ビートたけし、さんまら「第二世代」に区切りをつけ、とんねるず、ダウンタウン、ウッチャンナンチャンら「第三世代」を押し出そうという動きには、明らかな“バラエティーの世代交代”という意味合いが含まれていた。つまり、そもそもテレビ業界の新陳代謝を図ろうとしたキャッチフレーズだったのである。

とんねるずの石橋貴明=2018年5月1日、東京都港区、林紗記撮影
とんねるずの石橋貴明=2018年5月1日、東京都港区、林紗記撮影 出典: 朝日新聞

同世代の芸人が次々と台頭

「第七世代」というキャッチフレーズが定着したのには、霜降り明星やハナコ、ゆりやんレトリィバァが賞レースで優勝したというだけでなく、その他個性豊かな若手芸人たちが次々と台頭した背景がある。

脱力系トリオの四千頭身、ネガティブ漫才の宮下草薙、ネオパリピ系漫才のEXIT、若手コント職人のかが屋など、それぞれが違った経緯や特色で注目を浴び、主にネタ番組で共演することになった。その中、EXITの女性ファンは「ジッター」、四千頭身・石橋遼大の女性ファンは「バシガール」と呼ばれるなど、アイドル的な人気も獲得していった。

彼らのほとんどはYouTube、インスタグラム、ツイッターなどのSNSを使いこなし、自己プロデュースにもたけている。また、テレビだけでなく、ラジオ、ネット番組、お笑いライブ、雑誌連載など、あらゆるメディアで発信しているところも共通するところだ。

また、2019年に私が取材した中で、ハナコ・岡部大は『AI-TV』(フジテレビ系・2017年10月~2018年3月終了)に出演していた当時を振り返り、「霜降り(明星)は最初から『真ん中になるんだな』って感じでした」と語っている。その他、ほとんどの若手芸人たちが、せいやの発言した「第七世代」について「(チャンスをつくってもらって)ありがたい」と口にしていた。

そもそも霜降り明星は、同世代の芸人たちから“特別な存在”として認識されていたのだ。だからこそ、「第七世代」は、若手芸人の間で強い求心力を持っていたのだと思う。

近畿大の就職活動決起大会で学生にエールを送った「霜降り明星」のせいや(右から2人目)と粗品(同3人目)=大阪府東大阪市小若江3丁目
近畿大の就職活動決起大会で学生にエールを送った「霜降り明星」のせいや(右から2人目)と粗品(同3人目)=大阪府東大阪市小若江3丁目 出典: 朝日新聞

テレビのブランディングが通用しない時代へ

昨今、以前のようにテレビがブームを起こすことは難しくなった。1992年から8年周期で次世代のお笑いスターを発掘しようと企画・制作されている『新しい波』(フジテレビ系)を見ても、時代の流れが見て取れる。

同番組は、勢いのある若手芸人を集結させ、選抜メンバーによって新番組をスタートさせるのが恒例のパターンだ。初回は、ナインティナイン、極楽とんぼ、よゐこらを輩出し、約22年続いた長寿番組『めちゃ×2イケてるッ!』を生み出した。

2回目の『新しい波8』でも、キングコング、ロバート、ドランクドラゴンらが注目を浴び、『はねるのトびら』へとつながっている。いずれも深夜枠からスタートし、ゴールデンに進出した人気番組だった。

ところが、『新しい波16』で、その流れは止まってしまう。選抜メンバーで制作された『ふくらむスクラム!!』(2009年4月~)は、半年ほどで打ち切りに。ここには、現在ブレーク中のかまいたちも出演していた。「○○は賞レースで結果を出してから売れるタイプの芸人」という声が聞こえてきたのは、この頃からだったと記憶する。

2017年に放送された『新しい波24』でも、同様の現象が起こった。前年の12月28日にパイロット版が放送され、間もなくブルゾンちえみが大ブレーク。幸先のよいスタートだったが、その後にはじまった『AI-TV』も、やはり半年ほどで打ち切りとなった。

ここには現在、「第七世代」としてブレークしている霜降り明星、ゆりやんレトリィバァ、四千頭身、ハナコらが顔をそろえている。さすがに二度目は、「実力がない」「アイドル的な魅力がない」といった理由では説明がつかない。ストレートに言えば「テレビのブランディングが通用しなくなった」ということだろう。

NHK上方漫才コンテストで優勝した、ゆりやんレトリィバァ=大阪市中央区
NHK上方漫才コンテストで優勝した、ゆりやんレトリィバァ=大阪市中央区 出典: 朝日新聞

SNSを使用した個人プロデュースの時代

『新しい波』以外にも、フジテレビは同様のコンセプトを持つ番組をいくつか放送している。『コンバット』(2007年4月~2008年9月終了。『コンバット1.5』『コンバットII』を含む)には、平成ノブシコブシ、ジャングルポケットらが出演しているが、この番組からブレークしたとは言い難い。

『ピカルの定理』(2010年10月~2013年9月終了)も、今振り返るとメンバーの顔触れは豪華だ。平成ノブシコブシ、ピース、ハライチ、渡辺直美に加え、番組の中盤からは、現在テレビで引っ張りだこの千鳥も出演している。しかし、どのメンバーも、ここで人気が爆発することはなかった。

とくに千鳥は、翌2014年に『アメトーーク!』(テレビ朝日系)で「帰ろか・・・千鳥」という企画が放送されたほどだ。東京進出に苦戦しているところを見た東野幸治が、「そろそろ大阪に帰るか?」と促すもので、むしろこのパッケージによって千鳥の面白さにスポットが当たったと言ってもいい。

いち早く頭一つ抜けたのは、2016年に“インスタクイーン”と称された渡辺直美だろう。オシャレでインパクトの強いインスタグラムの投稿が注目を浴び、世界的な人気者となった。しかし、それは自己プロデュースによるもので、テレビの知名度とは関係がなかった。

その後のSNSを活用したパフォーマンスは、渡辺からはじまったと見ることもできる。野生爆弾・くっきー!、ガリットチュウ・福島善成の「白塗りものまね」、ガーリィレコードの「気配斬り」などは代表的なところだ。スマホが普及し、ネットが身近になったことで、ブームを仕掛けるのはテレビではなく個人の時代になった。

せいや個人の発言からはじまっている「第七世代」についても、時代の流れにリンクしていたと言える。

千鳥のノブ(右)と大悟=2019年11月、東京都世田谷区、村上健撮影
千鳥のノブ(右)と大悟=2019年11月、東京都世田谷区、村上健撮影 出典: 朝日新聞

“せいやイジり”がブームに火をつけた

実は、お笑い関係者の間でも、最初のうちは「第七世代ってどうなの?」と疑問の声があった。テレビやラジオといった“体制側”が仕掛けたキャッチフレーズではなかったからだろう。

2019年は、先輩芸人からせいやが「どこまでが第七世代なの?」とイジられる場面が多かった。そこには、「“第七世代”など定着するはずもない」というニュアンスが暗に含まれていたように思う。せいやが苦い顔で「いや、違うんですよ!」と返すたび、さらに先輩芸人がイジって笑いをとるパターンが常だった。

とはいえ結果的に、この流れが尾を引いてブームに火をつけたと言ってもいい。番組の企画を考えるうえで、格好のひな型になったはずだからだ。

一方で、霜降り明星は、「第七世代」のくくりでテレビに出演することは少なかった。すでに冠番組『霜降りバラエティ』(テレビ朝日系)や『霜降り明星のオールナイトニッポン0(ZERO)』(ニッポン放送)など複数の番組を持つ売れっ子で、単体で活躍できていたことが主な理由だろう。

しかし、さんざんイジられているだけに、せいやが「ぜんぜん(第七世代の)恩恵を受けていない」とぼやいていたこともある。「第七世代」は、完全にバラエティー番組のブランドとして独り歩きしていた。

お笑いコンビ「霜降り明星」のせいや=2019年7月14日、池田良撮影
お笑いコンビ「霜降り明星」のせいや=2019年7月14日、池田良撮影 出典: 朝日新聞

キラーコンテンツとなった「第七世代」

一過性のものと考えられていた「第七世代」ブームは、今年2020年になっても途絶えることがなかった。

2020年2月には、『アメトーーク!』(テレビ朝日系)で「僕らビミョーな6.5世代」という企画が組まれ、中堅に差し掛かった芸人たちが、「人気の第七世代の波に乗れず苦悩している」という構図を露呈して、笑いを誘うまでになった。

同年3月には、先述した『第7キングダム』『お笑いG7サミット』のパイロット版が放送され、その3カ月後には、霜降り明星、ミキ、EXITの3組がMCを務める番組『霜降りミキXIT』(TBS系)がスタート。いよいよテレビは本腰を入れ始めた。

『爆笑問題のシンパイ賞!!』(テレビ朝日系)では、ニューヨークの二人が霜降り明星に対して「第七世代に入れてくれ!」と詰め寄ったり、「第七世代に詳しい有識者」という立場で出演したりしてスタジオを沸かせた。今や「第七世代」は、バラエティーに欠かせないキラーコンテンツになっているのだ。

ブーム以降、それぞれに光る新たな魅力

かねてより霜降り明星の二人は、「同世代だけでなく、上の世代の先輩と絡みたい」という趣旨の発言をしていた。その言葉通り、現在ではダウンタウン・浜田雅功や今田耕司、爆笑問題らベテラン芸人との共演も多い。せいやが昭和の文化に精通していて年上の話題についていけること、また粗品のツッコミの巧みさには、見ていて安心感がある。

EXITはアイドル的な人気があり、男性2人組YouTuber・スカイピースと新曲を発表したり、ファッションブランドをプロデュースしたりと第七世代の華を担っている。四千頭身は、当初ツッコミ・後藤拓実の飄々(ひょうひょう)としたキャラクターで注目を浴びた。しかし、ここ最近で寡黙なイメージのある石橋を押し出す場面もあり、笑いの幅が広がっている。

宮下草薙も最初のうち、バラエティー番組で追い詰められた時の“切り返し”に独自のセンスを持つ草薙航基が注目を集めた。しかし、2020年に入って宮下兼史鷹のクレバーさ、思い切りのよさも目立ってきており、新たな魅力が生まれ始めている。

その他、ハナコ、ミキ、かが屋らも、メンバーそれぞれの個性に注目が集まってきている。今後は、メンバーの特徴がそのまま企画の幅へとつながっていくに違いない。

かが屋の賀谷壯弥と加賀翔(左)
かが屋の賀谷壯弥と加賀翔(左)

「第七世代」は“変幻自在のコミュニティー”

一方で、ゾフィー・上田航平、かが屋・加賀翔、ハナコ・秋山寛貴、ザ・マミィ・林田洋平の4人は、ユニット「コント村」を結成。左記4組のフルメンバーによるコント番組も放送され、7月に『お助け!コントット』、8月に『東京 BABY BOYS 9』(ともにテレビ朝日系・全2回)の初回(『東京 BABY BOYS 9』の2回目は8月8日放送)が、どちらもツイッターでトレンド入りするなど盛り上がりを見せている。

また、四千頭身・後藤、かが屋・加賀は、フリー芸人・岡田康太を慕う「岡田軍団」のメンバーという共通点を持つ。岡田は、もともと「オレンジサンセット」というコンビ名で『ふくらむスクラム!!』に出演していたが、解散してホリプロコムを退社。2018年に再結成後、翌2019年に「なかよしビクトリーズ」と改名し現在に至る。

メディアの露出こそ少ないが、岡田のYouTubeチャンネルには、三時のヒロイン・福田麻貴や人気YouTuberのフワちゃんらも登場する。加えて、女性ラップ・デュオ「chelmico」のMamikoとも交流があるなど、周囲は軒並み売れっ子ばかりだ。以前に比べ、フリーでもチャンスはある。今後、岡田が再ブレークする可能性もゼロではない。

それぞれが違った形でムーブメントをつくろうという気概を持ち、結果的にYouTubeや音楽業界をも巻き込んだ、せいやの最初にイメージしていた「第七世代」に近づいているのが興味深い。

こうした流れを考えると、「この芸人は第○世代」と区切ったり、「第八世代はどうなる?」と議論したりするのはナンセンスだ。それは、「第七世代」ブームを基準とした従来型の発想でしかないからだ。

「第七世代」は、特定のメディアに依存しない、独立した同時代の個性が結集する“変幻自在のコミュニティー”だと言える。テレビの「お笑い第七世代」ブームが去ったとしても、水面下で沸々と湧き出る「第七世代」の文化は根づいていくだろう。

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