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30歳で日本企業の取締役に、中国人留学生の普通だけど尋常でない経歴
「僕はスマートな人ではありません。いわゆるエリートでもありません」
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「僕はスマートな人ではありません。いわゆるエリートでもありません」
20歳で留学生として来日し、日本の情報を中国のSNSで発信してKOL(Key Opinion Leader)となったヤンロンさんは、30歳で日本の企業の取締役になりました。「僕はスマートな人ではありません。いわゆるエリートでもありません」と話すヤンロンさん。東日本大震災でのボランティア経験、ヘッドハンティングされたいきさつ。そして今、新型コロナウイルスによって大きな影響を受ける事業への向き合い方。ヤンロンさんの「普通だけど尋常でない経歴」について聞きました。
楊嵘(ヤンロン)さんは、中国福建省出身で、1989年生まれの31歳です。
2009年の4月に来日し、日本語学校で語学を勉強した後、2011年に千葉商科大学に入学しました。専攻は経営とマーケティングでした。
ここまではよく見られる留学生の経歴ですが、7年後、30歳の若さで彼は、KADOKAWAの完全子会社「株式会社 J-GUIDE Marketing(JGM)」の取締役になりました。
いったい彼に何があったのでしょうか?
大学在学中、ヤンさんは中国版ツイッター「微博」上で「日本情報ステーション」というアカウントを作ります。
「最初にアカウントを開設した時は、まだ来日してまもなくのことで、完全に個人の趣味でした」
一方、その頃から、二つのことを発信しようと考えていたそうです。
「一つは、自分自身が日本にいるということをいかして、リアルな日本を中国国内に紹介しようと思いました」
「もう一つは、日本に生活している華人や留学生に役立つ情報。日本で暮らして、意外にも、情報収集する手段が限られていると感じていました。たとえばイベントや、新しいレストランの情報を届けられないかと考えました」
ヤンさんが微博を始めた2011年は、微博自体が急速に成長した時期でした。ただ、日本関連の情報を中国に紹介するアカウントもまだ少なく、「フォロワーがすぐ数万人ついたのは、おそらく『先行者利益』があったから」と振り返ります。
ヤンさんが微博の「威力」を意識したきっかけは東日本大震災でした。
「震災の翌年、岩手県など、土砂やがれきなどのゴミを片付けるボランティアをしようと、微博のアカウントで呼びかけたところ、すぐ100人ぐらいのボランティアが集まったのです。バス2台で行きましたよ」
当時の状況について「人のために役立つと実感した瞬間だった」と言うヤンさん。その後、アカウントの運営に、力をさらに入れたと言います。
「大学を卒業した2015年に、Yahoo! JAPANに入社し、広告代理店の営業担当をしました」
Yahoo! JAPANは副業も認めているため、ヤンさんは「日本情報ステーション」での発信を続け、日本国内外の情報を届けました。
いつしかフォロワーは数十万人に増え、現在は200万を超える影響力のあるアカウントに成長したのです。
インバウンド関連ビジネスが急成長する中、2018年に、ヤンさんはYahoo! JAPANを退職し、オファーのあったKADOKAWAに入社します。
大学では、経営とマーケティングを学び、新卒で入った会社では広告の経験を積んだヤンさん。今では、数多くの日本関連のKOLが生まれている微博の中でも、発信者と運営者、両方に精通しているのは貴重です。
KADOKAWAに入社後、ヤンさんはインバウンドを中心にした事業を担当しました。クライアントは、スキー場、百貨店、地方自治体など多岐にわたります。
そして、中国市場向けのマーケティングやコンテンツ開発をする子会社「株式会社 J-GUIDE Marketing(JGM)」の立ち上げに携わり、その取締役になりました。
「KADOKAWA」が持っているアニメ、動画などのコンテンツをも生かし、インバウンド事業は比較的順調に運んでいたかのように見えた時、起きたのが新型コロナウイルスでした。
中国から始まった新型コロナウイルスの感染拡大によって、今年1月後半から、インバウンド業務が激減します。
「ほぼ確実に取れた案件も、たくさん中止となりました。こういう時期に、広告は不要不急と思われるので、一番打撃を受けやすいです」
インバウンド事業に力を注いできたヤンさん。方向転換を迫られた結果、現在はゲーム会社を含む多くの日本企業のアウトバウンドにシフトしています。
「エンターテイメント企業など、オンラインでの宣伝が増えています。また、オンラインで完結できるプロモーションの需要も高まっています」
中でも注目しているのがECです。
「越境EC(ネット通販サイトを通じた国際的な電子商取引)では、ライブ中継などを通して、商品の売り込みも順調です」
中国系企業の日本進出の支援にも事業を広げています。
旧来のメディアを使ったプロモーションだけでなく、SNSでの露出、電車広告などを積極的に提案しています。今年4月からスタートしたばかりですが、中国のゲーム会社などから申し込みがあり、成長の可能性を感じているそうです。
「僕はスマートな人ではありません。いわゆるエリートでもありません」と話すヤンさん。
それでも、30歳で異国の会社の取締役になり、コロナという逆境にも、インバウンドからアウトバウンドへの展開に踏み切るなど、ビジネスの舵取りをしてきました。そこには、微博での小さな手応えを積み重ねながら、大きな成功につなげてきたひたむきな姿勢があります。
「成功体験の積み重ねが、大きな成功につながると感じています。これは僕よりも若い人たちへ伝えたいです」
「コロナの影響も長期化が予想されますが、僕自身は依然として『グローバル化』を信じています。国際貿易に関してもオンラインの取引の増加を楽観的に見ています」
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