お金と仕事
10万円の給付金で何買った? 「親孝行」断られて気づいた使い道
安心させるため…行き着いたのは「自分への投資」だった
新型コロナウイルスの拡大感染を受けて生まれた「特別定額給付金」。1人あたり一律10万円という給付は、受け取る人の経済状況だけでなく、その人の価値観などによって、使い道の選択肢が無限に広がります。在宅ワーク、学校のオンライン授業など、新しい生活に向き合わなくてはいけなくなった中、世間の人たちは一体どんなものに給付金を使うのでしょうか? 東京都に住む小林さんが最初に考えたのは、体が不自由になった親への贈り物でした。ところが、いざ、買おうとすると思わぬ事態になり……。「特別定額給付金」をきっかけに見つめ直すことになった親子の関係について聞きました。 (ライター・安倍季実子)
小林純子さんは都内にある医療系メーカーで働く40代の女性。今回の緊急事態宣言発動中は、通常通り週5日出勤していた。
「旅行業や飲食業などは不況の第一波のタイミングで大きなダメージを受けていましたが、私たちの業界は通常運転という感じでした。場合によっては、いつもより忙しい部署も。なので、ここ3ヶ月くらいはずっと世間とのギャップを感じていましたね。会社がダメージを受けていないので、私個人としてもこれといった変化は特にありません。また、本業とは別に、2~3年のうちにエステ業界(主にエイジング)の仕事で独立する目標があるので、それに関係する副業もしています。そちらも特に、コロナの影響はありませんでした。」
本業も副業もコロナの影響はほぼナシという小林さん。ビジネス面では、あまり悩むことがなかった一方、『特別定額給付金』の使い道には、大変悩まれたそう。
「『特別定額給付金』の配布が決まった時は、単純に『ラッキー!』って思いました(笑)。そして、すぐに『母へオシャレな三輪自転車をプレゼントしよう!』って思いました。実は、去年から、母に三輪自転車を贈りたいと色々考えていたんです。でも、家族の反対にあってしまって、違う使い道を考えている最中なんです」
「うちの母は、2年前に体調を崩して入院したんです。幸い、すぐに退院しましたが、少しだけ後遺症が残ってしまい、それまでできていた日常の行動が多少しにくくなりました。そして、自転車をこぐ母の後ろ姿を見た父が、どちらかに寄ってしまうので危ないということで、自転車禁止にしちゃったんです。」
「父の優しさではありますが、うちの田舎は車社会で、父が車を運転できるから、母が自転車に乗らなくなったとしても日常生活に困らないという判断だったのでしょう。でも、ここ数年で老人の引きこもりが問題になっていますし、引きこもることで認知症やうつ病が発症する可能性があると聞いたこともあります。生活をする上では問題がないかもしれませんが、自転車に乗らなくなって行動範囲が狭くなったら、単純に外出する機会が減ってしまうと思うんです。そして、最悪の場合は引きこもってしまうんじゃないかと……」
「いつまでも健康で元気に過ごしてほしいけど、うちの両親はそこそこ高齢で、免許証を返納してもいい年齢です。個人的には、自転車は絶対にあった方が便利だと思いますし、何よりも引きこもりを阻止したかったので、去年、母に三輪自転車に乗るのはどうかと提案してみました。そしたら、『そんなおばあちゃんが乗るようなもの、まだまだ必要ないわよ』って断られてしまいました(苦笑)」
「思ってもいなかった理由で断られたので、ビックリしましたね(笑)。でも、『病は気から』と言いますし、本人が若い気持ちでいることは大切だと思います。母の言い分も理解できるので、今年に入ってから、母が気に入るようなオシャレな三輪自転車を探しました」
「シティサイクルなら安いもので2万円ほどで買えますし、三輪自転車もそんなに高くないと思っていたんですが、実際に調べてみると約10万円と意外と高くて、またビックリです! 簡単に贈れるものじゃないとわかって断念しました」
「新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が出て、『特別定額給付金』が決まった時は、すぐに母への三輪自転車が頭に浮かびました。支給金額も予算とほぼ同じですし、『コレだ!』と思って、以前調べたオシャレな三輪自転車の紹介とあわせて、私の特別定額給付金で買ってプレゼントすることを提案しました。しかし、今度は父から『自分(父)が車を運転できるから、三輪自転車はいらない』と返ってきたんです……」
「うちの両親は、昔から『自分たちのことは自分たちで何とかしたい、あまり他人のお世話にはなりたくない』といった考えをしていました。なので、三輪自転車のプレゼントを断られても仕方がないかなと。きっと、強行突破で三輪自転車を買ってプレゼントしたとしても、『私たちのことはいいから、自分のことに使いなさい』と言われてしまうでしょうし……」
「いろいろ考える中で、両親にちょっと高級なプレゼントを快く受け取ってもらうには、私が一般的なOL以上の収入が継続的に入る状況になればいいんだと気づきました。なので、三輪自転車は一旦保留にして、今は副業の方に力を入れるために、そちらで使用する備品を購入したり、エステの勉強代に投資する案が有力です。本当は、すぐにでも三輪自転車をプレゼントして長く使ってもらいたいんですが、気持ちよく使ってもらうためには、両親の抱える心配をなくすことが先決なのだと思っています」
今回お話をうかがった小林さんは独立を見据えた副業だが、独立を目的としない副業を行う人も含めて、その数は全国的に増えている。
総務省の2017年の調査では、複数の職場で雇われている人は約128万人で、10年前より約25%増えている。雇用者50人に1人は掛け持ちの仕事がある計算。
所得層別に掛け持ちの人が占める割合をみると、年収200万~999万円の層は2~3%台だったのに対し、199万円以下と1千万円以上の層では5~6%台と比較的高かった。
低所得層では収入増を求めて複数の職場で働くパートの働き手など、高所得層では社外取締役を兼務する経営者などが典型例として考えられている。
厚生労働省は2017年に、企業が就業規則づくりの参考にする「モデル就業規則」から「許可なく他の会社等の業務に従事しない」という項目を削り、「勤務時間外に他の会社等の業務に従事できる」を加える案を提示。副業・兼業の推進へとかじを切っている。
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