連載
#14 漫画「あなたそれでも教師ですか」
悩んでも、心情の変化なんかない 美術科男子の〝あがき〟を漫画に
「悩んで何回も塗り直して表面凸凹だけど、離れてみたらさっきと同じ直線やん」
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#14 漫画「あなたそれでも教師ですか」
「悩んで何回も塗り直して表面凸凹だけど、離れてみたらさっきと同じ直線やん」
しろやぎ秋吾 イラストレーター
共同編集記者部活動の時間、男子くんは陸上部の仲間と一緒に、学校の外周をランニングしています。
男子くんは、前回の話で「夢って必要ですか」という男子くんの問いに対して「夢…目標…じゃあ俺のライバルになれ!」と返した新米くんを含む柔道部の集団を抜きます。
柔道着姿の新米くんは、「ライバル」の男子くんに抜かれて焦った様子。距離を徐々に詰めていきます。
必死になって抜き返した新米くんですが、男子くんは「ライバル宣言」を思い出したのか、そんな新米くんをもう一度抜き返します。
お互いを意識した二人は、デッドヒートを繰り広げますが、男子くんは陸上部。無理がたたった新米くんがダウンして、「ライバル対決」は、あえなく終焉を迎えます。
場面は変わり、男子くんは陸上部の仲間とトレーニングをしながら会話をしています。
友人から「なあ、田村ってさあ、走ってる時どこみてる?」と問われた男子くんは「どこってそりゃあ、ゴールに向かって…」と答えます。
ところが、まっすぐに伸びるトラックを前に「いやちがうか…」と前言を撤回します。
「ゴールのもっと向こうをみて走ってる」
そしてゴールのラインを超えると同時に、「けど、ここでおしまい」。
これまで「夢」について思いを巡らせていた男子くんですが、その夢はつまり陸上でいうところの「ゴールのもっと向こう」にあたるのかもしれません。そして、夢の手前に、一つの区切りである「ゴール」の存在があることも、ここでは表現されています。
そして、中学時代を回顧する男子くん。美術を志すきっかけになった、「一点透視図法」の授業を思い出します。
男子くんが描いた作品を「がんばったじゃん」と褒めてくれた美術の先生は、一点透視図法の説明をする際、こんなことを言っていました。
「このままだと直線は消失点に向かって無限に伸びていってしまうので、線を描き足して奥行きを決めてあげよう」
そう言って、消失点の手前に一本の線を書き加えます。
それを思い出した、現在の男子くん。「無限に伸びる線…そっかあのときゴールのもっと向こうを描こうと思ったんだよ」
「しょーもな」――。
自宅の部屋に飾られた、中学時代に描いた作品を見つめ、男子くんは困ったような笑顔でつぶやきました。
「夢」がみつからなくてモヤモヤし続けた男子くん編はこれで最終回です。
男子くんは、「夢」というぼんやりとしたものに具体性を持たせたくて、中学時代を振り返ったり、新米くんに「夢は必要ですか」と聞いてみたり、色々と試行錯誤しました。「男子くん編」では、男子くんの「夢」についてハッキリとした答えが出たわけではありません。ただ、男子くんが必死にあがいたその思考の跡そのものが作品になっているように思えるのです。
男子くんの姿をどう捉えてストーリーを構成したのか、作者のしろやぎさんに聞きました。
しんどいけどずっと走っていたい。終わりたいけど終わって欲しくない――。》
男子くんは、そんな感覚を、中学の時美術にハマってしまったときも、高校生になったいまも持っています。
もしかしたら中学の頃の男子くんは、漠然と、未来へ向かう希望みたいなのを持っていたのかもしれません。しかし高校生になって1年がもうすぐ終わりそうな頃、うっすら学校生活の終わりを感じた時に、卒業後がリアルにイメージできなくて色々悩んでみています。
私が漫画を描きながら考えていた男子くんのキャラクター像は、「高校生になっても変わらず走るのが好きな、真っ直ぐな人」です。悩んで結局何も変わらなくてもいいと思って描きました。
男子くんの「なんで先生になったのか」「夢って必要ですか」という質問に、新米くんが何て答えるのが正解なんだろうというのがどうしても分からなくて、「失敗させてみたら2人のどんな関わりが始まるんだろう?」と思って描きました。
新米くんとのやりとりなどを経ても、男子くんに大きな心情の変化はありませんでしたが、「悩んで何回も塗り直して表面凸凹だけど、離れてみたらさっきと同じ直線やん」ってことに気づいたのが、いまの男子くんです。
【次回予告】
次回からは「部活動編」が始まります。新米くんは美術の先生ではありますが、柔道部にも関わっています。畑違いの柔道部で、新米くんは何を思うのか――。他の先生たちとの関わりからも変化していく新米くんの物語です。
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withnewsでは、しろやぎさんの「あなたそれでも教師ですか」を毎週日曜日に配信予定です。新米くんを軸とした教育現場を描いていきます。
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