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ドムドム閉店、82歳「おじちゃん」へ贈る言葉 写真家が撮った100枚
閉店した「ドムドムハンバーガー桑名FC店」と、ある写真家の物語です。
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閉店した「ドムドムハンバーガー桑名FC店」と、ある写真家の物語です。
6月末で閉店した三重県桑名市の「ドムドムハンバーガー桑名FC店」。幼稚園のころから通っていた写真家が閉店を前に帰郷し、100枚ほど撮影した。(朝日新聞記者・大滝哲彰、若松真平)
生まれも育ちも桑名の写真家・濱田紘輔さん(29)。最も古いドムドムの記憶は幼稚園時代までさかのぼる。
ドムドムがあったビル「桑栄メイト」の4階に両親が経営する「ミュージックショップハマダ」が入っていて、幼稚園のお迎えの後、仕事が終わるまで建物内で待っていた。
1階から4階までフロアを駆け回ったり、台車をスケボー代わりに遊んだり。小遣いをもらってドムドムで過ごすこともあった。
小中学校時代は友だちと連れだってドムドムでハンバーガーを食べるようになり、高校時代は女の子を連れて行ったこともある。親に見られると気まずいので、ドキドキしながらこっそりと。
ファストフード店にありがちな機械的オペレーションはなく、レジで注文すると席までオーナーの太田勲さん(82)たちが運んで来てくれる。太田さんは時事ネタや近況について積極的に話しかけてきた。それは相手が女子高校生でも変わりなかった。
濱田さんの目には、当時も今も太田さんの姿はまったく変わっていないように映る。
「同窓会などで集まると、よくドムドムの話になります。『おじちゃんはクローンなんじゃないか』って。ほとんど都市伝説です」
高校卒業後、地元で会社員として働きながら写真を撮り続けてきて、昨年春に写真集を出版。夏には退社し、年末には桑名を出て、東京で活動している。
上京するにあたって、おじちゃんは「がんばれよ」と、頼んでいない商品まであれもこれもとサービスしてくれた。
それから数カ月も経たないうちに、閉店することを知った。
個人的な思い入れだけでなく、なくなることの意味を社会に問いかけたい。そんな思いから、おじちゃんに相談して写真を撮らせてもらうことになった。
「多くの人に愛された場所がなくなるというのは、どういうことなのか。大規模チェーンでもショッピングモールでもない、そんな場がこれからも変わらず残っていくことができるのか。そんなことを考える機会にならないかと思ったんです」
3月上旬、3日かけて店に密着。漫画を読みながらハンバーガーを食べる少年を写したり、店が一段落した時の太田さんを撮ったりした。
「今を写しても自分の過去の思い出までは引き出せない」と思い、お客さんたちに取材して文章も書いた。
電車に乗って週1回、開店以来通い続けているという高齢の女性。思い出について質問すると「いつも愛想がよくて気がいいから寄りやすいよ」と答えてくれた。
より詳しく知りたくて、具体的なエピソードを尋ねたが、それ以上は出てこなかった。自分の質問が悪かったのかもしれないと思いつつ、こんな風にも思った。
「歯を磨いたり、買い物に行ったり。そんな日常の1コマになっているんだろうなって。自分もいつかそんな風に思える場所ができるのかなと」
100枚ほど撮ったうちの14枚と、自分が書いた記事が6月、雑誌「おやつマガジン」に掲載された。
撮影中に「これが出世作になるんだろ?」と冗談っぽく話しかけてきたおじちゃん。完成した雑誌を送ると「親戚にも配るからもっと送って」と電話がかかってきた。
おじちゃんと電話で話したのはこれが最後。店が閉まってからはまだ連絡をしていない。
桑名で愛され続けた店主に贈る言葉は?と尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「撮影中も『もう体が限界で寝たいよ』と言い続けていたので、ゆっくりしてほしいです。本当にお疲れ様でした。取材しながら『思い入れがあったのは僕だけじゃなかった』と実感できました。ずっと桑名を見続けて、貢献してきたおじちゃん。これってすごいことですよ」
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