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マヂラブが嫉妬するテレ東AD 芸人愛で通した「初の冠番組」の正体
「プロとして負けるわけにはいかない」

民放キー局の中でも、独特の企画や番組で異彩を放つテレビ東京。新型コロナウイルスによって激変したエンタメ業界を逆手にとり、現在、動いているのが、テレビ会議システムを使って制作会議から視聴者に参加してもらい、一緒に「番組」作りに挑戦する企画です。出演するのはお笑い芸人「マヂカルラブリー」の2人。「芸人さんへの愛の強さで実現した」という若手社員の企画に、今も戸惑いながら取り組んでいます。お笑い芸人の「雑さ」と「柔軟さ」がどのように結実するのか。本番を控えた2人を直撃しました。
70日間「漫才なし」自粛期間での変化

野田さん(以下、野田):まず、漫才をやらなくなりましたね。劇場公演がなくなってしまったので、70日間漫才をやってませんでした。
野田:70日ぶりに漫才をやったときに、「こんな時代もあったな」って思いながらやってました。「漫才やっている時代が、俺には確かにあった」という気持ちに。
村上さん(以下、村上):70日ぶりにやるネタって、迷うじゃないですか。でも野田氏は「何も覚えてないかもしれないから、俺がしゃべらないやつにしてくれ」って。
野田:そしたらあったんですよ。
野田:あったんです。
村上:「じゃあそれで」みたいな感じになりました。ただ実際にやってみて、2人の間にアクリル板が立てられていて、前のような漫才の状態ではないので、まだなんか違和感はありますね。

村上:これはもう……僕は本当に何もしてないですね。ずっと寝ていました。1日のうち、布団の中にいるのが18時間くらい。ご飯食べたりとか、布団の中で全部やっていました。
野田:感染防止対策として一番正しいですよね。
野田:なんやかんや「R-1」で優勝したおかげで仕事はあったんですけども、ネタをやらずにゲームを作って番組に出ることが多かったので、1日の大半ゲームを作ってましたね。しまいにはこの前記者会見で、「よしもと初のプログラマー・野田クリスタル」って紹介されてて、「あ、俺もうプログラマーなんだ」って思いましたね。
村上:勘違いした人が、とんでもないものを頼んでくる可能性あるよね。
野田:決してプログラマーではないんで。そこはちゃんとはっきり言っておかないと。そんな技術もないんで。

芸人のYouTube進出に「たくましい職業」
野田:YouTubeをみんなやり始めたじゃないですか。「たくましいな」って思いますね。YouTuberからしたら、「芸人がYouTubeやりやがって」みたいな、いろいろ批判はやっぱりあると思うんですよね。でも、知ったこっちゃないですからね。
野田:お笑い芸人には、どこにでも寄生できるっていう力がある。劇場だろうが、テレビだろうが、YouTubeだろうがね。そもそも俺自体がゲーム世界にも入っていっているし。浸食していくタイプなんだと思います、お笑いっていうのは。
野田:YouTubeを始める芸人が増えているのを見て、「生き残り方はいくらでもあるんだな、だからたくましい職業だな」って思いました。どういった環境であっても、自分の色を出していけばいいだけなんで。
野田:最終的に、おもしろ居酒屋とかおもしろ料理屋さんとか出てくると思うし。
村上:……ありますよね、もう。
野田:う~ん。
村上:辞めた芸人がやる居酒屋ですよね。
野田:おもしろ居酒屋?
村上:おもしろ居酒屋かどうかはあれですけど、店名がダジャレだったりとか。
野田:ああ~。
村上:「音鶏家」で「おんどりゃ~」って読んだり。英語で「Touch Know Me」って書いて「立ち飲み」とかね。

村上:本当にあるんです、そのお店は。それで、結局すごい流行るんですよ、マスターが元気で面白いから。
野田:だからお笑い芸人を辞めたとしても、お笑いの力を使ってあらゆる職業にいくことができるっていう。
村上:そう。「職業」っていうよりかは、「生き様」ですからね。
野田:そんなことないと思いますけどね、僕は。
村上:いや、生き様だと思いますよ、僕は。
野田:僕はそんなことないと思います。
村上:彼は全然わかってないですから。
野田:まあまあ、これがR-1チャンピオンとの違いです。
村上:まあ……。
企画内容に「なんでこんなことになっちゃったんだ」
2回の制作会議も収録の様子もすべて配信。制作した番組「マヂカルラブリーの君に捧げるTV」のテレビ放送を目指し、放送されればマヂカルラブリーの2人とっては初めての「冠番組」となります。ただし、2人は企画内容が気がかりなようで……。
野田:なんの実感もないですし、まだ認めてもいないです。こうした形で冠番組となるとは……。
村上:うれしいんですけどね……。
野田:親には言っていないですね。

つまり、ドラマの方向性は参加した視聴者次第。独創的なネタが持ち味の2人なだけに、「キュンキュンするような妄想シチュエーション」というお題にも、戸惑いが勝っているようです。口をそろえて「なんでこんなことになっちゃったんだ」と明かします。
野田:衝撃でした。あの事前の打ち合わせこそ、みんなに見せたかったです。めちゃめちゃでしたね。
村上:制作サイドが混乱されているのかなって思いました。
野田:俺は何を言われても、もう動じない芸歴かなって思っていて。どんな奇抜な企画がきても「まぁいけるのかな、やったことあるし」とか思っていたんですけど、今回裏の裏をかかれた感じがしています。人をうろたえさせることはあっても、お互いちょっとうろたえたのが久しぶりでした。なんか自信なくなりましたね。
村上:僕も最初の会議は、つい熱くなって結構失礼なこと言っていたと思います。「勝手にやってくださいよ」「ほっといてください、僕たちのことは」って。
野田:打ち合わせが終わった後に、あの中で誰が一番面白かったんだろうってしばらく考えちゃいましたね。どう考えても「城谷さん」だったんですよね。ダントツで面白かった。で、マヂカルラブリーはくそつまんなかった。それを反省して変わりましたね、「プロとして、負けるわけにはいかない」って。
入社3年目、芸人愛で企画を通した「城谷さん」
一緒に企画を担当するスタッフたちが口々に言うのは、「城谷さんは芸人さんへの愛がすごい」。今回の企画も、「その愛の強さがプロデューサーに響いて実現した」というのです。

「M-1とキングオブコントのファイナリストで、野田さんに関してはR-1優勝。今注目されるべきコンビであり、マヂカルラブリーさんであれば、みなさまのご期待に添えるのではないかと思いました」
慣れない取材に少し照れながらも、マヂカルラブリーの2人を起用した理由を話す城谷さん。場面の流れを読んで、面白く味付けをしていくお笑い芸人を尊敬し、そして大好きで、テレビの世界に飛び込みました。「いま、一番やりたい仕事ができてるんです」と笑みを浮かべます。

「野田さんはむちゃくちゃなことをする爆発力もありますが、核心をつく言葉もあってバランス感覚がすごいんです。村上さんはツッコミがすごく素敵で、野田さんの行動を全部把握して、優しく修正するんですよね。奇想天外な野田さんの動きを全部理解できるのは、村上さんしかいないと思います」
2人の魅力を語る一方、彼らのおもしろさを一番わかっているのは「マヂカルラブリーのファンのみなさま」だといいます。視聴者と一緒に番組を作っていくというこの企画について、「どうなるのかわからないという緊張はありますが、こうしたファンの方から直接意見を聞けるのが楽しみ」と話します。
こうしたスタッフの「熱量」が上司を動かし、出演者に伝わり、それが視聴者にも届けられようとしています。
「テレビって手作りなんだ」感じてもらえたら

野田:「テレビ番組って意外に人の手で作られているんだな」っていうのがすごくわかると思います。ゴールデンタイムの番組とか見ていると、ミスのない完璧なものが出てるんで、まるでロボットが作ったように感じますけど、思った以上に少人数で作っているっていう。
野田:テレビってそもそも手作りなんだなっていう。
村上:別のところで編集している訳ではなくて、「そこでカンペ持ってる人が編集してるんだ」みたいな驚きもありますね。
野田:すごいスタジオで編集してるんだと思いきや、意外とパソコンで合間にやっていたりするから。「テレビってそうなの!?」って衝撃だったもん。
野田:意気込んではないんで。
村上:意気込んでないの。
野田:本当に、いいところに着地して終わりたいって思っています。傷つきもしない、喜びもしないところに着地して、また次の日からがんばろうって思える、そんな番組にしたいです。まずは身の安全。明日も生きていけるっていうことにして終わりたい。
村上:せっかく芸人が番組を作るところから参加できるということなので、普通のテレビ番組で出せないような「雑さ」を出したいですね。「普通に見れるテレビ」とは違うというか、完成度ではなく、「雑さ」にある良さを出せていければと思います。

「マヂカルラブリーの君に捧げるTV」の収録の様子が配信されるのは、7月2日(木)22時~。事前にチケットの購入が必要です。詳しくはテレビ東京「テレ東無観客フェス2020」のページをご確認ください。