地元
TDL浦安に「チャレンジショップ」 でも閉店中…何にチャレンジ?
東京ディズニーランド(TDL)のある千葉県浦安市の、とある駅前。人通りの絶えない一等地のビルで、なぜか店がころころ入れ替わります。「チャレンジショップ」の看板が去年現れましたが、今は空き店舗。いったい何にチャレンジするのか、地元民として探ってみました。(朝日新聞編集委員・藤田直央)
舞台はJR京葉線の新浦安駅前。TDL最寄りの舞浜駅の隣で、ショッピングモールが周辺の団地の住民で賑わいます。私も通勤や買い物でよく通りますが、改札からすぐのビルの一階にある「チャレンジショップ」では、去年できたいい感じのカフェが5月で店じまい。新しい店が入る様子は見えません。
新型コロナウイルスのあおりかとも思いましたが、駅前で一番目立つこの場での閉店は今回が初めてではありません。パン屋やイタリアンなどができては、最近は2~3年ごとに入れ替わっています。しかもこのビルは浦安市役所の出先や保育園もある市の多目的施設なので、商売の話だけではないように思えます。
どういうことなのか、6月下旬に市役所を訪ね、商工観光課に聞きました。その話とあわせて振り返ると、もともとの「チャレンジ」とは、この場で障害者に働いてもらうことでした。
JR新浦安駅前にこの浦安市の多目的ビルができた2006年、一階の店は「障害者の就労の場」として、市が厨房のある店舗を貸し出すということで始まりました。
東京都内の社会福祉法人が長くパン屋を開いていたのですが、周りのショッピングモールにもパン屋が多い「激戦区」にあっておとなしい店構えで、売り上げも障害者の雇用も伸び悩みました。値段の安さやイートインコーナーの広さでファンもいましたが、閉店となりました。
2013年からは市内の企業が参加する浦安コンベンション協会が、障害者雇用という目的に加え、「駅前の賑わい創出」「市民の憩いの場」「観光情報の発信」をということで、軽食や地元の物産を扱う店を始めました。
「こだわりのコーヒーや、そば、うどん、カレー、パスタ、ラーメンなどお食事や、アメリカンドックやたこ焼きなどの軽食もお召し上がり頂けます」とPR。コンビニのようなお菓子コーナーもありました。
ただ、こうした店構えやメニューに、市民から「駅前に賑わいを醸し出しているのか」「景観上ふさわしくないのでは」という声が寄せられ、2年半で閉店。そして2016年、市内の福祉団体が運営するイタリア料理店ができます。
市によると、この店は障害者を雇用できてはいたものの、来客数が少なかったため繰り返し改善を求めました。やはり駅前周辺に競合店がある中で、この店は料理の質と価格にこだわりましたが、支援を受けていた他のイタリア料理店の協力を途中から得られなくなったそうで、客足は伸びませんでした。
そして、この店も店舗を借りる期限の昨年3月で閉店。そこで市は昨年、この場での障害者雇用という13年間続いた「チャレンジ」から舵を切ります。
前のイタリア料理店を運営していた福祉団体が他の場所で障害者雇用を続けることを確認したということで、この場については、市内で起業する人に一年間の経験を積む場として提供することに方針を変え、名称を「チャレンジショップ」としたのです。
この制度に応募して初の利用者となった男性は、昨年6月から夫婦でカフェを開きました。店舗の賃料はゼロ、電気代も市が半分負担するという条件です。地元の商工会議所からは、経営相談や、独立する際の不動産紹介といった支援を受けられます。
このカフェは一年間の期限の終盤にコロナの影響で一時休業しましたが、今年5月の閉店は予定通りだった訳です。市によると、来店者数はその前のイタリア料理店のほぼ倍あり、いま男性は市内で開店準備中。市には次期のチャレンジショップへの応募がいくつか来ているそうです。
このように、チャレンジショップができるまでは紆余曲折を経ました。JR新浦安駅前という市の「顔」とも言えるこの場で、障害者雇用の促進に「チャレンジ」する事業が根付かなかったことは、私は残念に思います。
市は障害者雇用と「駅前の賑わい」の両立を目指した訳ですが、結局「駅前の賑わい」の論理に押された感があります。浦安には外国人も多いので、障害者も含む多様な住民がともに「駅前の賑わい」を醸し出す街づくりが、この場をシンボルとする形で探れなかったものかと思います。
そこは浦安市にすれば、むしろこの場を、懸案だった「創業者の支援」の方に使いたということでした。でも市内にはTDLやホテル群があり、また新住民を中心に高齢化率は低く、税収や財政は全国の自治体でもかなり恵まれた方です。市はなぜ地元での「創業者の支援」にこだわるのでしょう。
実は浦安市は「元町」と「新町」と呼ばれる二つに大きく分かれます。かつての漁師町の風情が残り、東西線の浦安駅があるのが元町。戦後の東京湾埋め立てで広がり、TDLや新浦安駅ができたのが新町です。
商工観光課長の斎藤章典さん(50)は、そうした浦安の事情に触れました。
「新町は都市計画で店を開けない地区が多い一方で、元町にある昔ながらの店は世代交代で減っています。賑わう新町のチャレンジショップで経験を積んだ人が、元町が賑わうよう店を出してくれればありがたいです」
元町の「顔」だった1953年創業の浦安魚市場が昨年3月、老朽化した建物の改築に至らず閉場になったのを思い出しました。閉場セールをのぞいたのですが、店を営む人たちには年配者が目立ち、なじみ客とやり取りをしていました。
コロナ後に新町で再開されるチャレンジショップが、浦安全体の発展につながるかどうか。新町住民の私ですが、また元町へ繰り出して確かめねば……と思いました。
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