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連載

#5 WEB編集者の教科書

「広告記事もコンテンツ」 NewsPicksを支える「もう一つの編集部」

NewsPicksでスポンサードコンテンツを手がける編集者の川口あいさん=吉田一之撮影
NewsPicksでスポンサードコンテンツを手がける編集者の川口あいさん=吉田一之撮影

目次

WEB編集者の教科書
【PR】進む「障害開示」研究 心のバリアフリーを進めるために大事なこと

情報発信の場が紙からデジタルに移り、「編集者」という仕事も多種多様になっています。新聞社や出版社、時にテレビもウェブでテキストによる情報発信をしており、ウェブ発の人気媒体も多数あります。また、プラットフォームやEC企業がオリジナルコンテンツを制作するのも一般的になりました。

情報が読者に届くまでの流れの中、どこに編集者がいて、どんな仕事をしているのでしょうか。withnewsではYahoo!ニュース・ノオトとの合同企画『WEB編集者の教科書』作成プロジェクトをスタート。第5回はNewsPicks Brand Design Teamのシニアエディター・川口あいさんに、スポンサードコンテンツにおける編集者の役割についてうかがいます。(withnews編集部・丹治翔)

NewsPicks Brand Designの編集者が考える「スポンサードコンテンツ」
・クライアントの要望と読者の支持の両立を考える。
・商品の直接的な購買を促すよりも、読者への認知と理解を目指す。
・コンテンツはメディアの世界観に落とし込んで発信する。

オリジナル記事と見せ方は同じ

「経済情報で、世界を変える」をミッションに掲げるユーザベースが2013年に立ち上げたNewsPicksは、約470万人の無料会員と約15万人の有料会員を抱えるソーシャル経済メディアです。月額課金とともに、売り上げの両輪である広告部門の大きな柱が、スポンサードコンテンツ。検索履歴などに連動した運用型広告とは違い、有料会員向けに編集部がつくるオリジナル記事と同じような見せ方で、広告主のメッセージや商品の魅力などを届けています。

広告であることは明記しながらも、NewsPicksでの体験を阻害する「脈絡のない広告」は防ぐ。この姿勢は、専従でスポンサードコンテンツを制作するBrand Design Team(BDT)ができた2015年から一貫しています。

川口さんを始め、出版社やウェブメディア出身の編集者が多く集まるBDTは、さながら「もう一つの編集部」といった様相です。約60人が在籍するチームには営業やエンジニアたちも混ざり、編集者の川口さんが、企業へのセールスに加わることも。「営業が取ってきた案件を『作るだけ』にとどまらず、提案にもレポーティングにもクリエイティブの視点から関わっています」

NewsPicksのスポンサードコンテンツ。サムネイルや記事の見せ方は編集部が制作する記事と同じようにしている。求人などのために自社が広告出稿をすることもある
NewsPicksのスポンサードコンテンツ。サムネイルや記事の見せ方は編集部が制作する記事と同じようにしている。求人などのために自社が広告出稿をすることもある

ユーザーを意識したコンテンツに

見せ方はもちろん、コメント欄も設置されているので、広告記事であってもオリジナル記事と同じ評価にさらされます。だからこそ、川口さんを始めチームが大切にしているのは、ユーザーを意識したコンテンツであることです。

「BDTでは『信じられる、広告を。』をミッションに、どうしたら広告主のメッセージがしっかり伝わるか、読者に興味をもってもらえるかを考えてコンテンツを制作しています。単なる宣伝ではなく、『読者に発見と理解を提供する』というNewsPicksのサービス理念に基づき届けるからこそ、コンテンツ型の広告としての価値があると考えます」

その実現に必要なのが、「メディアとしての第三者視点」だと言います。グローバルなテーマや最先端のテクノロジーから、個人の働き方やキャリアまで、伝統的な経済メディアの枠組みに縛られない特集を数多く手がけてきたNewsPicks。広告主となるクライアントの思いに寄り添いつつも、こうしたメディアの世界観に落とし込んでユーザーへ発信します。

これは、スポンサードコンテンツの役割が、「商品の直接的な購買を促すよりも、読者への認知と理解を目指すもの」(川口さん)であり、コメントや記事のシェアといったエンゲージメントを重視しているからです。

スポンサードコンテンツの役割について語る川口さん=吉田一之撮影
スポンサードコンテンツの役割について語る川口さん=吉田一之撮影

ライターの「読者視点」に感謝

記事制作にあたっては、こうした点をクライアントにも説明しながら作り上げていきます。打ち合わせの初めでは、「しっかりと伝わるのか」といった反応もあるそうですが、「NewsPicksの読者にクライアントのメッセージが届くよう企画していることを丁寧に、粘り強く訴えます」と川口さん。

コメントやPick数などで反響が可視化され、当初の実施目的に沿った結果を得られると契約が継続することもあり、そうした時にやりがいを感じると言います。

一方、取材を依頼するライターの「読者視点」に助けられることもあるそうです。「気をつけてはいますが、コミュニケーションを続けていく中で、クライアントや商品の視点に傾きすぎてしまうこともあります。その時に『読者としてはここが面白い』というような指摘をくれたり、クライアントが強く訴求したいポイントに対し読者に共感してもらうための切り口や文脈を一緒に練ってくれたりするライターさんはありがたいですね」

編集者として、普段の生活で心がけているのは、「多様なコンテンツにふれること」という川口さん。「仕事柄、ビジネス書や経済ニュースを読むことが多いので、視点が偏らないようにいろんなジャンルの情報を摂取するようにしています。また、新たなマネタイズのアイディアに繋げられるように、テキスト記事だけではなくイベントや動画、コミュニティ関連など、さまざまな手法のコンテンツに触れることも心がけています」

川口さん自身が記事を執筆することもあり、ライターとしての活動も編集者の仕事に生かされていると振り返ります。

愛用のMac。ライターからの記事を編集することもあれば、自ら執筆することも=吉田一之撮影
愛用のMac。ライターからの記事を編集することもあれば、自ら執筆することも=吉田一之撮影

イベントも動画も雑誌も

BDTが表現するコンテンツはウェブの記事だけではありません。昨年は国際女性デーをきっかけに、多様な人々の幸せな働き方を応援するプロジェクト「カラフルキャリア」をイベント運営するチームなどと実施。動画コンテンツを手がけるNewsPicks Studiosと連携して、番組の内容をテキストとして伝えることもしています。

さらに今年4月にはBDTとして2冊目となる、ブランドマガジン(NewsPicks Brand Magazine)を出しました。「これからのはたらき方・生き方」をテーマに、80ページからなる雑誌は、川口さんが編集の責任者に。これも、クライアントとして付き合いのあった人材サービス大手・パーソルグループからの相談から生まれたものでした。

4月に刊行された2冊目となるNewsPicks Brand Magazine。表紙のイラストは漫画家・安野モヨコさんが書き下ろした
4月に刊行された2冊目となるNewsPicks Brand Magazine。表紙のイラストは漫画家・安野モヨコさんが書き下ろした
「これからのはたらき方・生き方」をテーマにしたNewsPicks Brand Magazine

「『働き方改革』で制度ばかりが整っても、自分たちの『生き方』やマインドが変わらなければ、肝心の制度も機能しないという問題意識がスタートでした。そこで、さまざまな分野で自分らしく働いて生きる人たちの姿を伝えることで、読者の価値観を変えるきっかけをつくりたいという目的のもと、制作が始まりました」

「ひとつの箱のなかに多様な視点を入れ込むには、雑誌という手法はぴったりでした」

ブランドマガジンでは、『働きマン』などで有名な漫画家・安野モヨコさんへのインタビューや、「Well-Being(よりよく生きるとは)」をテーマに活動をする予防医学研究者の石川善樹さんに「時間」の考え方について尋ねたり、社会学者の上野千鶴子さんが「なぜ社会に多様性が必要なのか」を語ったりしています。

「コンセプト決めを含めて3カ月ほどの制作期間だったのですが、パーソルさんと『多様な働き方と生き方を応援する』という理念をしっかり共有しながら制作が進められ、納得できる一冊となりました」

一方、オリジナル記事を制作する編集部とは接点がないと言います。「記事の見せ方などの知見を共有する部分はありますが、編集部がどういった取材をしているのかは全く分かりませんし、連動することもありません。ビジネス部門だけでもユーザーとつながるチャンネルはたくさんあるので、編集権は独立しています」

「ウェブメディアで雑誌を作るとは思わなかった」と話す川口さん=吉田一之撮影
「ウェブメディアで雑誌を作るとは思わなかった」と話す川口さん=吉田一之撮影

出版社での経験が今に

川口さんにとって、企業からのスポンサードを受けてコンテンツを作る原体験は新卒で入社した出版社にあります。「最初は図鑑や地図、雑誌の編集などに携わって基礎を学んだんですけど、その後漫画を担当するようになって。数年したころに『月刊ヒーローズ』という漫画雑誌の立ち上げに関わったんです」

2011年に創刊したヒーローズには当時、パチンコ・パチスロメーカーが出資。連載漫画のラインナップも、将来的にパチンコ機のモデルになることをイメージしたものでした。「ゼロから好きに作るのではなく、こうした条件があるなか、漫画としても読まれる作品にするにはどうすべきかを試行錯誤したのはいい経験です」と川口さん。持論にしている「限定された条件下でこそクリエイティビティは発揮される」という考えはスポンサードコンテンツを作る上でも息づいています。

「クライアントの要望だけを聞いていては、読者を向いたコンテンツにならない。かといって、読者に支持されるからと、クライアントの狙いや課題解決にならなければ本末転倒です。この両立をどうしたらできるかを考えることから、私たちの仕事は始まる気がしています」

新卒で入った出版社時代を振り返る川口さん=吉田一之撮影
新卒で入った出版社時代を振り返る川口さん=吉田一之撮影

PVに代わる独自指標を

BDTは5月、クライアントに提出するスポンサードコンテンツの実施レポートに「感情分析レポート」を拡充すると発表しました。レポーティングはPVやUU、Pick数などで、制作・配信したコンテンツの反響や効果を測るものですが、記事につけられているコメントも新たに対象としました。

有識者から一般ユーザーまで会員が実名で投稿するコメントは、ニュースを多角的に知ることができるNewsPicksの代表的な機能です。新レポートでは、コメントを感情面からデータ分析・可視化してマッピング。コメントしたユーザーの影響力なども加味して、「議論型」や「賛同型」など6パターンに記事の傾向を分類しています。

発表した感情分析レポートの例
発表した感情分析レポートの例

PVやUUなどに代わる「媒体独自の指標」をつくることは、前職のハフポストでウェブメディアに携わり始めてから川口さんが考えていたことでした。

PVは指標として分かりやすい一方、「じっくり読んだ記事」も「反射的に開いた記事」も、同じ1PVとしてカウントされます。「価値としては違うはずなのに、数字上は同じに見えてしまう。結果、PVの多い少ないが大きな尺度になってしまい、そこに過当な競争が生まれるのは健全ではないなと思うんです」

読了率や滞在時間など、1PVの価値を測る指標はありますが、「読者の共感や理解、エンゲージメントを大事にするスポンサードコンテンツだからこそ必要とされるような指標があってもいい」と感じていた川口さん。昨年NewsPicksに転職した時に着目したのがコメント機能でした。

「クライアントも記事にどういうコメントがつくのか注目しています。この部分をある種の定量的な見せ方で提示できれば、独自の指標になるのではと、テックチームと半年以上試行錯誤して作り上げました」

メディアには新しい指標が必要だ。「コメントの感情分析」をはじめる理由(川口さんのnote)
独自指標に込めた思いを語る川口さん=吉田一之撮影
独自指標に込めた思いを語る川口さん=吉田一之撮影

ウェブメディアに救われたからこそ

スポンサードコンテンツ1本1本の編集にとどまらず、イベントの企画や雑誌の制作、指標の策定などメディアビジネスの様々な領域に関わっている川口さん。新しいマネタイズの仕組みを考えることも忘れず、時には他媒体の人たちとも勉強会を開いて知見を深めたり、経験を共有したりしています。根底にあるのが「ウェブメディアが持続的に運営されるよう、良いコンテンツが正しく評価される地盤をビジネス側から作りたい」という思いです。

「私自身が離婚をして落ち込んでいたときに救われたのが、ウェブメディアで出会った記事の数々でした。自分の気持ちを代弁してもらっているようで、心がすごく軽くなったんです。玉石混交の世界ですが、誰かの心を揺さぶったり、気づきを与えてくれたりするような記事を生み出す書き手はたくさんいます。そうした人たちやメディアがしっかりと生き残っていけるような答えを、これからも模索していきたいです」

川口あいさんの教え
・編集者として、多様なコンテンツにふれることを心がける。
・限定された条件下でこそ、クリエイティビティは発揮される。
・ウェブメディアが持続的に運営されるよう、記事編集の枠を超えて関わる。

メディアビジネスの世界は「まだ答えがないからこそ楽しい」と語る川口さん=吉田一之撮影
メディアビジネスの世界は「まだ答えがないからこそ楽しい」と語る川口さん=吉田一之撮影
 

さまざまなジャンルのメディアや会社で活躍する、WEB編集者へのインタビューを通して、WEBメディアをとりまく環境を整理し、現代の“WEB編集者像”やキャリアの可能性を探ります。Yahoo!ニュース、ノオトとの合同企画です。水曜日に配信します。

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