連載
#23 #カミサマに満ちたセカイ
「コロナ大仏」建立に予想以上の賛同者 追い込まれた僧侶の思い
大きな体で包み込むのは、人々の震える心

新型コロナウイルスの流行後、「大仏建立」という言葉がネット上でささやかれるようになりました。感染への不安を、大きな仏様に受け止めて欲しい。そう考える人々が増えつつあるのかもしれません。「ならば実際に造ってしまおう」と、クラウドファンディングで建設費用を募っているお坊さんがいます。「これは自分自身の負の感情と向き合うための試みでもあるんです」。形にならない恐怖心を包み込み、胸の内に明かりを灯(とも)そうとする、壮大なプロジェクトの背景にある思いについて聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)
チラシや紙袋、仏像に貼って「供養」
お坊さんの名は、風間天心(かざま・てんしん)さん(41)です。北海道東川町の寺院「東川寺」(とうせんじ)」に務めつつ、巨大な造形作品を手がける現代アーティストとしても活動しています。
「【コロナ大仏】を造立したい。みんなの心を前向きにするためのシンボルに!」
そんなタイトルを掲げ、クラウドファンディングサイト「キャンプファイヤー」で募金を始めたのは、今年5月24日のことでした。今回は2段階ある「建立計画」のうち、第1段階に当たる「勧進キャラバン」の関連費用向けに、300万円の寄付を呼びかけています。
勧進キャラバンの内容は、等身大の仏像と共に、全国の協力者を訪ねるというもの。その際、ウイルスの影響で中止になったイベントのチラシや、廃業してしまった商店の紙袋などを仏像に貼ってもらい、やり場のない気持ちを「供養」する予定です。
これまでにありそうでなかった、「大仏建立」を実現するための取り組み。風間さんは、なぜ行動を起こしたのでしょうか? 風間さんに尋ねてみました。

「見上げる」という行為が持つ力
元々、アーティスト仲間と「誰か造らないかな」と話し合っていたんです。なかなかリアルにはなりづらいけれど、人目を引きやすいアイコンではありますから。でも仏教界の中からは、具体的なアクションが起きなかった。ならば自分たちでやってみようと思いました。
――そもそも、なぜ大仏だったのかが気になります
有名な奈良・東大寺の大仏には、天然痘という伝染病がはやったとき、早期の収束を願って造られた側面があります。コロナウイルスの退散祈願と背景が似ていますし、他の人と心を合わせることで、気持ちを整理するためのきっかけになると感じました。
ウイルスは目で見ることができません。すると、恐れの気持ちを抱きやすいですよね。でも、心のよりどころとなるようなものがあれば、逆にプラスの感情を引き出せるかもしれない。そう考えたことも理由の一つです。

一定程度の関心は集められると予想していましたが、それをはるかに超える反応で驚いています。「みんなの心の中に大仏がある」と実感させてもらいました。思うに、何かを「見上げる」という行為そのものの力が、作用した部分もあるのかもしれません。
悩んだとき、空を仰いだ経験がないでしょうか。考えたところでどうにもならない現実に直面したとき、人はより大きなものを頼ろうとする。これは神棚や教会のイエス・キリスト像が、私たちの視線と比べて一段高いところにある、というのと同じ理屈です。
大仏もまた、下から見上げるもの。そのようにして、実際に行動を起こすことを促し、気持ちを楽にしてくれる存在、と捉えて下さった方が多いのかなと思っています。

大仏への寄付、イメージは「元気玉」
実はウイルスの流行以降、経済的に厳しい状況が続いています。お寺の仕事はもちろん、外部からの制作依頼や、札幌市内の高校・カルチャーセンターから請け負っていた、美術講師の業務がほとんどなくなったためです。近しい人を感染させないよう、気軽に会うことも難しくなり、精神的な疲れを覚えやすくなったと感じます。
最近、感染者数などの情報を求め、SNSを使う機会も格段に増えました。検索するとき、誰かを攻撃するような投稿が目に入ることは少なくありません。普段なら流せるような内容でも、真に受けてしまい、自分の中で怒りや不安が大きくなりがちであると思っています。

その通りです。加えて、アーティストたちを支えるという側面もありますね。私と同じく、苦境に立っている仲間を巻き込み、計画を進めています。大仏建立という一大事業を通じ、何かしらのサポートにつながればという思いからです。
また実現に向けては、仏像の設計士や研究者など、多くの方々の力を借りねばなりません。プロジェクトが大きくなるほど、助け合いの輪は広がるはずです。そのように関われたメンバー全員と一緒に歩いていきたい、共に救われたいという気持ちを強く持っています。
――寄付した方々も、同様の気持ちを抱くことができそうです
ふざけていると思われるかもしれませんが、人気漫画「ドラゴンボール」に登場する必殺技・元気玉のようなイメージでしょうか。各方面から少しずつ思いを寄せてもらい、大きくしていく。そのエネルギーにより、感情の方向性を変えられるように思います。
「少しずつ完成に近付いてきた」「いつできあがるかな」。そうやって、関わって下さった方々に楽しんで頂けたら素晴らしいですね。

わだかまりを、生きるための動力に
どちらも「目に見えない世界」を表現している、というのが共通点だと考えています。アートにおいては、強い感情や問題意識が出発点です。アーティストは作品に、宗教者の場合は言葉や儀式に落とし込む。ふわっとしたものを、目に見える形に変えるのが仕事なんです。
今回のケースで言えば、大仏というよりしろを造ることで、負の感情をポジティブに転換したい。心をむしばむほどのエネルギーには、逆説的にすさまじい力があるとも言えます。それをコントロールするのも、宗教が果たせる役割かもしれません。

気付かないうちに、強度の高い感情をため込んでしまっている方々は、少なくないのではないでしょうか。私たちも同じ状況にあり、何とかしたいという気持ちで、プロジェクトを立ち上げた経緯があります。
大仏造りに関わり、自らの中に渦巻く思いを、少しでも発散して頂ければ喜ばしいです。その過程で、そうしたわだかまりを、日々を生きるための動力に変える方法が見つかったなら、これほどうれしいことはありません。
◇
クラウドファンディングは6月27日まで実施中。大仏の建設費を集める第2段の寄付金募集は、今夏に始まる予定です。
【関連リンク】大仏建立プロジェクトのクラウドファンディングページ