連載
#35 ○○の世論
70年前の「緊急事態」で“食べ物”の次に求められたもの
コロナの今、振り返る当時の「物不足」
不足して最も困っている食べ物は「主食」、衣類を「1年以上買っていない」人が7割……。これは戦後の混乱が続く1949年3月に朝日新聞が実施した世論調査の結果です。新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が解除されたとはいえ、まだまだ制限の多い日常が続く今、当時の人々の暮らしに思いをはせてみました。(朝日新聞記者・渡辺康人)
朝日新聞は終戦翌年の1946年から世論調査をしており、過去の記録はすべてデータベースに保管しています。膨大な数で、世論調査部の記者である自分もここまで古い時代の調査結果を目にする機会は少ないのですが、戦後の国民の暮らしぶりが最初に垣間見えた調査がこれでした。
終戦から3年半が過ぎた国民の衣食住や暮らし向きについて尋ねた調査です。大半の人が食料不足に陥り、おかず(副食)の前にまず米などの主食が足りていないと多くの人が答えています。当時は戦後の市場や流通の混乱がまだ収まらず、米は決められた量しか買えない配給制も敷かれていました。この調査では「主食は配給または保有米で間に合っていますか」とも尋ね、「間に合っていない」という人が71%を占めました。
こうした状況でも「食糧事情は1年前と比べよくなった」と61%が答えています。農作物などの流通が少しずつ回復していた時期です。その一方で、食べ物と同じぐらいに不足が深刻なのは衣類だったようです。
衣類不足の解決が望まれたのは、もちろんおしゃれを気にしてのことではありません。着るものが手に入らなくて困るほどの物資不足の時代だったのです。
実に7割の家庭が、年に1度も服を買うことができていなかったのでした。
衣類不足の中でも特に何が困るのか尋ねたのが、次の質問です。
【(衣類が間に合っていないと答えた人に)一番困っているものは何ですか】
・夜具類(9%)
・上衣〈普段着、仕事着〉(48%)
・下着(17%)
・足袋、靴下、手ぬぐいなど(4%)
・子供用衣類(21%)
・その他布地など(1%)
普段着に子供の服に下着。当たり前の日常が満たされないつらさがしのばれます。
調査結果を載せた1949年3月20日の紙面ではこの結果について「衣料への訴え切実」の見出しとともに、「食糧事情が以前よりよくなって、現状では問題が『食う』ことから『着る』ことに移って来つつある」とありました。当時の人たちの困難な状況をより切実に伝える記事でした。
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