グルメ
サバ子さんの「サバ水煮缶」レビュー投稿が話題 辛口批評にこだわり
素朴な疑問「高ければおいしいのか?」が出発点
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素朴な疑問「高ければおいしいのか?」が出発点
突如ツイッター上で始まった、サバ水煮缶のレビューが局地的に激しく注目を集めている。歯に衣着せぬ筆致でファンを増やし、スーパーの売り場では高評価の缶詰が品切れ状態に。投稿主の「サバ子」さんに、レビューに込めた思いとこだわりを聞いた。(北林慎也)
「はじめまして。サバ水煮缶を好きになってもらえたらうれしいです」
こんな飄々とした宣言とともに5月7日、ツイッター上でサバ水煮缶のレビュー投稿が始まった。
「値段も美味しさもピンキリなので皆様のサバ水煮缶ライフが楽しく美味しくなるよう、少しずつ紹介していきたいと思いますので、気長にお付き合いいただければと思います」
肩の力が抜けた初回の意気込みにもかかわらず、コンスタントな投稿でサバ子さんが積み上げたレビューの数は、6月15日時点で39缶にのぼる。
毎回、サバ子さん自身のアバターキャラのイラストと缶の写真が添えられた画像形式で投稿される、点数付きのレビュー。
サバ子さんの友人が描くイラストの可愛らしさとは裏腹に、レビューは骨太でストイックだ。
醤油や薬味もかけず、そのまま実食。素の缶詰を食べているだけとは思えない、まるでラーメンのレビューのように豊穣なデータと感想。
それでいて、表現は平易で分かりやすい。
たとえば、総合点60点の富永貿易「さば水煮」のレビューはこんな具合だ。
「内容構成は中が2切れ、小1切れ。
スープは濁り強めで上澄み脂あり。はぐれ身ほぼなし。
スープは上澄み脂が多い分、脂分もあるが濃厚で美味しい。
食塩相当量はかなり多いですね。
低価格なのにかなりうまい!
背身は柔らかさは少なく、ともすればパサ感にもなりそうなのにきめ細かくほぐれて食べやすい。
腹身はやや柔らかでトロ感はなし。
腹腔部分に肝が残っているのかと思ったら割った背身でした。細かい心遣いがにくい」
回を重ねながら、サバ子さん自身も評価軸が定まっていく。
第6回のニッスイ「SABA さば水煮」は1カ月近く経ってからレビューをやり直し、点数を80点から45点に大きく下方修正した。
そんな妥協のない姿勢に信頼を寄せるフォロワーが増えていき、高評価の缶が箱買いされたり、スーパーの棚が品切れになる様子が投稿されたりするなど反響が広がっている。
ニッチな題材ながら着実にファンを増やすレビュー投稿。始めた理由や採点でのこだわりを、サバ子さんに聞いた。
――なぜサバ水煮缶のレビューを?
「きっかけは単純で、安さにつられて特売のサバ水煮缶を買ったらそのまま食べるのが厳しく、怒りに任せてサバカレーにしたのですが、その後、『安いものを買ったからこんなことになった。では、高いサバ水煮缶は本当にどれも美味いのか?』という疑問が湧いて、食べ比べてみよう、と買い物に出るたびに買い集めていました。
そのまましばらく時間が経ったのですが、ステイホーム期間ということでちょっと時間ができたので、思い切って開始しました。
あまり自分の舌に自信がなく、味の構成が複雑な缶詰だと、レビュー以前に言語化できない可能性もあったので、構成がシンプルなものとして水煮に絞りました」
――レビューでのこだわりは?
「縛りは『水煮であり、実食したもの』のみです。
自分で買い集めるのは限界があるので(この時期に遠出はできませんし)、遠隔地の友人に買って送ってもらうこともありますが、必ず実食してからレビューを書きます。
あと、お腹が空いていると味にプラス補正してしまうので、空腹時は事前に、お豆腐など舌のコンディションを崩さないもので小腹を満たしてから、実食します。
レビューをするにあたって、高尚な表現や語彙を使いこなす自信がないので、感じたままを文字として起こして、読む側が『これはどういう意味だ?』と迷わないように心がけています。
そのため、製造側には申し訳ないのですが、辛辣な表現が出てしまうこともあります」
――コロナ禍による外出自粛で中食や自炊が増えている。アドバイスは?
「食を楽しむことです。ちょっとした手間で、食べることは段違いに楽しくなります。チョイ足しなど食材の組み合わせで扉はすぐ開きますので、気軽に試してみてください。
サバ水煮でも、大根おろしを添えてポン酢をかけるだけでご馳走になります。
垂らす醤油も特売品とかではなく、一つ上の高い醤油にしてみるとかでも、扉は開きますので気軽に試してみてほしいです。
そのまま食べるというレギュレーションでレビューしてるサバ子が言うのも説得力ありませんけど……」
ちなみに評価のベンチマークは、初回でレビューしたマルハニチロ「月花 さば水煮」。
「過去に食べた中で一番、安定した美味しさの記憶が強かったから」だという。
さしずめ、自動車評論家の故・徳大寺有恒さんが「間違いだらけのクルマ選び」の中で国産車評価の基準としていた、フォルクスワーゲン・ゴルフの位置づけだ。
最後に、サバ子さんに今後の目標を聞いた。
「地道な継続こそ一番求められるものだと思いますので、このまま粛々と続けたいと思います。
派手なことはしない、病気などやむを得ない事情がない限りは休まない、という感じです。
ひとまずは『失踪しない』を目標に、100回目のレビューを目指して頑張りたいと思います。100日目を迎えても死にません」
淡々としながらもウィットに富んだ意気込みを語るサバ子さん。
サバ水煮缶の深淵に迫るレビューの蓄積に期待したい。
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