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感動呼んだオケ部メンバーの「30日間」コロナで大会中止でも…

“オケどん” が教えてくれたこと

イメージキャラクター「オケどん」を絵描き歌で描く、リモートワーク合奏の動画
イメージキャラクター「オケどん」を絵描き歌で描く、リモートワーク合奏の動画

目次

大きな目標だった全国大会や、演奏会が、新型コロナウイルスの影響で相次いで中止になった日。「生徒にエールを送りたい」と取材を始めた記者が目に留めたのは、見ていると逆にこちらが元気をもらう、高校のオーケストラ部による笑顔のリモートワーク演奏の動画でした。「♪さかさまプリンがおっこちて…」と作った部のイメージキャラクターの絵描き歌。いったんは目標を見失った部員たちが、自分の気持ちと向き合った「30日間チャレンジ」への思いを聞きました。

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悶々とした在宅勤務、感動

記者が動画を見たのは、今秋の全日本吹奏楽コンクールなど、音楽関係の全国大会の中止が発表されたことがきっかけでした。何か、全国の部員にエールを送れるような記事が書けないかと、吹奏楽コンの事務局をしている同僚に聞いて、紹介してもらいました。

私も対面取材がなかなかできず、在宅勤務で悶々とした日々を送っていました。楽しそうな部員たちの様子をパソコンで見ていると、むしろ自分の方が元気をもらい、感動さえ覚えました。

ユーチューブで公開された、千葉県立幕張総合高校シンフォニックオーケストラ部のテレワーク合奏の動画。「想いよ届け! I Got Rhythm!」と題したその動画は、画面を細かくマス目に区切り、演奏する部員の姿だけでなく、視聴者が一緒にできる踊りを笑顔で披露する部員の姿が並びます。新2、3年生の部員124人だけでなく、家族や教師に呼びかけて加わってもらい、エネルギーが画面からあふれ出るようです。 

【幕総オケ部】オケストにチャレンジ!想いよ届け!I Got Rhythm!【テレワーク合奏】 出典: 幕総オケ部後援会広報

この動画が公開されたのは、全国大会の中止が発表された5月10日の、まさにその夜でした。

「I Got Rhythm」は映画「巴里のアメリカ人」でジーン・ケリーが歌った名曲。部のツイッターやホームページ(HP)にはその詞にちなんだメッセージが載っています。


「人生は何が起こるかわからない! だからこそ楽しい! みんな顔を上げて! 元気を出そう! 笑おう! ひとりじゃない! 愛する仲間たちがいる! それだけで幸せ!」


動画はツイッターやインスタグラムでも発信し、視聴数は2週間で3万回を超えました。

「30日間チャレンジ」

幕張総合高校オケ部がインターネットやSNSで発信し始めたきっかけは、毎年2日間で3000人が聴き入る3月の公演が中止になったことでした。

公演の2週間前。プログラムの印刷も終わり、練習も最後の追い込みに入っているところでの中止でした。学校も休校になり、合同練習もできなくなりました。泣き出す部員もいる中、顧問の伊藤巧真先生(33)は「この期間を空白にしてはだめだ」とHPで部員に呼びかけました。「できることは何だろう」。部員たちは知恵を絞った結果生まれたのが、「30日間チャレンジ」でした。

部員たちは、HPで新入生勧誘を兼ね、30日間、日替わりで部の紹介動画をアップしつつ、個々で演奏を投稿してコンテストなどを開きました。

テレワーク合奏した「I Got Rhythm」という曲は、春公演の中でも最も力を入れているミュージカル風のショーの中の一曲でした。部員が客席と一緒に踊るはずでしたが、テレワーク合奏にして、画面の向こうの人に楽しんでもらう企画にしました。目標にしていた「30日間」を超えて、部活で集まれない日々が続きましたが、部員たちはが創意工夫する企画を続けていきました。

その一つ、「オケどん」の絵描き歌は、これからの部活動の中に何か「レガシィ」として残せるものはないか、と作ることにしました。「コロナの経験をいい意味で後世の部員に伝え、あたりまえの日々を、あたりまえでない、有り難いものだと思い起こしてもらうため」でもあります。「東日本大震災の経験から、忘れない、ではなく思い起こさせるものは何かできないか」と思った伊藤先生が問いかけ、部員たちが思いつきました。

中止した春公演のプログラムを説明する伊藤巧真先生=千葉県立幕張総合高校
中止した春公演のプログラムを説明する伊藤巧真先生=千葉県立幕張総合高校

生まれた「名曲」

「オケどん」は、10年ほど前に、当時の部顧問だった音楽の先生が描いて以来、部のイメージキャラクターとして、パンフレットなどに登場しています。真面目で実直。(水戸黄門の)助さん格さんでいうと格さんタイプ。 好きな飲み物は日本茶と飲むヨーグルトで、好きな食べ物はおせんべい。趣味は楽器演奏で特技は火おこしと親父ギャグ。 好きな曲は「ああ人生に涙あり」「人生かくれんぼ」……というキャラ設定はありましたが、絵描き歌はありませんでした。

絵描き歌は、部内で「作曲コンテスト」を開催し、部員たちがめいめいに作った曲を自分で演奏して動画で応募しました。10曲ほどの中から、投票で矢澤菜月さん(2年、フルート)の作品が選ばれました。将来は音楽の先生になりたいという矢澤さんは「小さな子でもわかるように」と工夫しました。歌詞には「美味しい食べ物でできていると考えると楽しく描いていただけると思って」プリンやいちごなどを使用。メロディーも覚えやすくするために、小学生の妹に歌ってもらいながら試行錯誤を重ねたそうです。作曲家でもある伊藤先生がピアノやバイオリンなどのアンサンブルに編曲し、10数人でテレワーク合奏しました。

撮影、編集は、すべて部員たちが無料アプリを使って個別に撮影したものです。伊藤先生は「私にはできない編集技術や、創造性を持っている。そしてあの笑顔。すべて大人の想像を超えています」と驚きます。

「音楽は原動力になる」

伊藤先生が部員たちに「この期間を空白にしてはだめ」と呼び掛けたのには、ある思いがありました。

伊藤先生は福島県出身。大学院生の時に東日本大震災が起きました。最初は「こんなときに音楽なんて必要ないのでは」とためらっていましたが、数週間後、有志で避難所に行って演奏しました。すると被災者に喜ばれ、「なぜもっと早く来てくれなかったの」と言われたのです。

「音楽はマイナスからプラスに踏み込む原動力になる」。そう実感した伊藤先生は、今回も生徒に躊躇なく行動を呼びかけたそうです。

音楽をやってきた理由

部員たちはどう思っているのか、取材で直接聞けない中、部員たちが今の心境を文章で寄せてくれました。「昔から思い続けてきた目標が全てなくなってしまった」という絶望から、「前向きに笑顔を届けたい」と思えるまでの、葛藤がつづられていました。3人の率直な思いを紹介します。

今井蒔音さん(3年・ユーフォニアム)


ずっと、吹奏楽コンクールの全国の舞台で私達の演奏を届ける、と約束してきました。ところが昔から想い続けてきたこの目標はコロナウイルスによって全てなくなってしまいました。頭では理解しているけれども、心がどうしても追いつきませんでした

ごちゃごちゃになっていた私に、同期の1人がこんなことを言いました。『コンクールだけのために音楽をやってきた訳じゃない!今大変な人は世界中にいる。こんな時だからこそ私達は前向きにいなけらばならない。毎日頑張ってくれている人に感謝を伝えられるように!』。その言葉で私は吹っ切れることができました。

私は、私達はコンクールのためだけに音楽をやってきた訳ではない。私達の演奏を聞いてくださった方々に、日頃の感謝を、笑顔を伝えるために音楽をやってきた。下を向いている場合ではない。大会、行事など、延期や中止になってしまった人は世の中に大勢います。そんな方々にも元気を、前を向く力を私達が発信できるように

『前向きに!笑顔を、みんなに届けよう!』これが今の私の目標です。

テレワーク合奏した「I Got Rhythm!」
テレワーク合奏した「I Got Rhythm!」
田口ひかりさん(3年・バイオリン)


緊急事態宣言が発表され、友達に会う事ができない、行動範囲が狭まってしまった生活に慣れず、苦しい毎日が続いていました。そんな中、幕総オケ部が始めた企画『30日間チャレンジ』の投稿を制作していく中で、今までの本番や送ってきた日々を振り返ることが出来ました。改めて、幕総オケ部としての充実した生活を送れていることがいかに貴重で特別なことかを身に染みて感じました。

人と交流することが少なくなっている今は、自分をよく知る機会にもなりました。自分の好きなことに没頭したり、新しいものに触れ、挑戦してみたり、自分の世界を広げることも出来ました。

行動をするということが、未来に繋がるということを学びました。コロナウイルスが収束した未来で、自分の可能性や行動範囲を広げるために、今できることを探し行動し続けようと思います。

そして、友達と顔を合わせて一緒に笑って過ごすことができる日々を送れるようになった時には、時間・物・人を大事にしながら、幕総オケ部として、人の心を動かし、笑顔を生み出す音楽をお届けしていきます!

春公演で配られるはずだったパンフレット
春公演で配られるはずだったパンフレット
萩原真幸さん(部長/トロンボーン)


今の心情としては、大事なものが透明になってしまっている、という感覚です。この3カ月間の活動を通して重なっていくはずだった気持ちや成長が得られないこと、本来であればもうステージに立っている後輩たちに3年生として部活の伝統を充分に引き継ぐことが難しくなってしまうことがとてももどかしく、一刻も早い収束を願っています。

しかし部活から離れていても、部活を辞めたい、音楽を辞めたいとは思いません。むしろ、この状態だからこそ出来る活動で音楽や私たちの活動の可能性を広げられるのではないかと考え、SNSを利用した新入生への活動紹介・テレワーク合奏に挑戦しています!

活動時間が減ってしまったことで楽器を演奏する機会は少なくなってしまいますが、音楽はどんな場所でも日常の中にあること、自分で創ることができることを日々感じています。活動再開後にまたみんなで明るい活動が出来るように力を尽くしたいと思います。

「いつもならこの部屋は練習する部員でいっぱいなんですが」と語る伊藤巧真先生
「いつもならこの部屋は練習する部員でいっぱいなんですが」と語る伊藤巧真先生

プラスに踏み込む原動力に

新型コロナの影響で、活動が制限される中、テレワーク合奏は、大阪桐蔭(大阪)、鹿児島情報(鹿児島)、佐野日大(栃木)、松商学園(長野県)、星林(和歌山)などなど、全国の高校に広がり、ユーチューブに投稿されています。遠軽(北海道)、精華女子(福岡)、東海大仰星(大阪)の3校は「日本縦断」と題して一緒に演奏して交流を深めています。室内で集まって行う部活動やその発表ができないことで、新しい発表の場、つながりが広がったとも言えます。

マイナスからプラスに踏み込む原動力がほしい時期です。パソコンやスマホで、まっすぐな笑顔と音楽を検索してみませんか?

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