新型コロナウイルス(coronavirus)の影響で、解雇や派遣切りといった問題が起きています。言葉がわからなかったり、日本人とは違う条件で働いていたりする外国人労働者にとっても大変な状況です。様々な労働相談を受けているNPO法人POSSE外国人労働サポートセンターの岩橋誠さん(30)といっしょに、どんな問題があるのかを考えていきます。日本語にまだ慣れていない外国人の方々にも読んでもらえるよう振り仮名をつけています。(朝日新聞国際報道部、清水大輔)
――新型コロナウイルスについて、日本で働く外国人からの相談はありますか?
「POSSEは2006年から労働相談を受けていますが、昨年4月に外国人のための『外国人労働サポートセンター』という窓口をつくりました。今年の2月までに全部で50件ほどの相談がありましたが、3月になると約100件、4月は157件になりました。新型コロナの問題がひどくなる前は、1カ月で5件ほどだった相談が20倍以上に増えています」
――どのような相談があるのですか?
「相談してくる外国人の80%以上は、契約社員(会社との間で仕事をする日にちや給与などを決めて働く人)や派遣社員(派遣会社から職場を紹介してもらって働く人)、アルバイトなどです。仕事の種類ごとにみると、教育89件、飲食26件、宿泊・観光21件、小売り13件、製造1件などです(4月末までに寄せられた相談のまとめ)。教育の多くは外国語教室の講師ですが、特有の問題があります」
――どのようなものですか。
「外国語教室の従業員として働いているのに、フリーランスとして働かされている人がほとんどです。従業員であれば、けがや病気になって病院に行ったときの費用が補助される健康保険や、仕事がなくなった際に金銭的なサポートなどを受けられる雇用保険に入ることができます。これらを社会保険といいます。ただ、一部の会社は従業員を社会保険に入れずに、フリーランスとして働かせています。最低賃金(働く人を守るために少なくともこれだけの賃金は払いましょう、と定められている賃金)を払う必要がなく、すぐに解雇できると考えているようです。契約社員や派遣社員でも、社会保険に入るための条件である『1週間で30時間以上の労働』より少ない『29時間』などといった期間で契約することで、社会保険に入れないままにするケースがあります。フリーランスだったり雇用保険に入っていなかったりすると、失業給付(賃金の50~80%)をもらえません」
――具体的な相談はどんな内容ですか。
「大手英会話学校で働くアメリカ人女性からは次のような相談がありました。『新型コロナの影響でレッスンが減ってしまい、普段であれば月18万円ほど稼げたが、3月分の給料はわずか8万円まで減ってしまった』。さらに、この学校はコロナ対策を十分にしておらず、窓がない部屋で子供4人とのレッスンを設定するなど、いわゆる『3密』状態で働くことを放置しています。本人は『持病があるので働き続けるのが怖い。でも、働かないと家賃が払えなくなる』として、自宅からのオンライン授業を認めてほしいと会社に頼みましたが、それも拒否されてしまいました。そして、いまはPOSSEが連携している労働組合『総合サポートユニオン』に加盟して、3密対策をもとめて会社と団体交渉を続けています」
――語学学校以外の仕事ではどういう相談がありますか?
「海外から日本に来る旅行者が増えることを考えて近年、ホテルのフロントやガイド、免税店などで仕事をする外国人が増えていました。しかし、最近会社から『仕事をやめてくれ』と言われるケースが多くなっています。あるホテルでは、制服が入ったロッカーを開けられないようにして、働けない状態にすることで、自分から仕事をやめるように追い込むケースがありました。『ブラック企業』(あまりにたくさんの仕事をやらせたり、パワーハラスメント・セクシュアルハラスメントをしたりする会社)のやり方です」
「また、4月に入って、留学生からの相談が増えています。ほとんどの留学生はアルバイトをして学費や生活費を稼ぎます。しかし彼らの多くが働くファミレスや居酒屋などは、緊急事態宣言が出された後に休業したり営業時間を短くしたりしました。その結果、家賃を払えずホームレスになりかねない留学生が何千、何万人といることが考えられます」
――日本人と異なる課題はありますか?
「就労ビザで日本にいる場合、別の仕事を見つけるのは簡単ではありません。語学講師であれば、講師としてビザを受けているので全く違う仕事には就けませんし、もし在留資格を変更しようとする場合も、申請後、数カ月かかります。仕事をしないまま3カ月たつとビザは取り消される可能性もあります」
家賃を
払うことができないとき、どうしたらいいかは、こちらの
記事を
読んでください
(やさしい日本語)「国が家賃を払います」外国人もフリーランスも使える制度を解説
――セーフティーネットはないのですか?
「日本では、仕事がなくなったことで食費やアパートの家賃などが払えなくなった人に対し、生活するためにどうしても必要な分のお金を支給する『生活保護』という制度があります。しかし、この制度を利用できるのは、10年以上日本に住んでいることなどで永住権を得た外国人など一部だけです。また、言葉の問題もあります。相談してくる人たちは、会社との間で契約した賃金や労働時間を理解していなかったり、雇い止めや賃金カットにあった場合も、いつ、誰からどのように言われたのか、どういう内容の書面にサインしたのか分かっていなかったりする場合が多いです。留学生のアルバイトとして多いコンビニでは、契約書をつくってもらっていない場合すらあります。本来であれは、企業が外国人に対して、しっかりと説明して対応しなければいけません。『5月の大型連休が終わるまで休んで』とか『休んでいる間の補償はするから』などと言われても、本当にまた働けるのか、補償の中身はどうなっているのか分からず、不安に思う人が多いのです」
「サポートセンターでは10人のボランティアスタッフで協力してメール、電話による相談を受け付け、その後、十分に注意したうえで直接会って相談にのっています。ただ、対応できる言語は『英語』もしくは『簡単な日本語』です。日本にはいま、160万人以上の外国人が暮らし、留学生は30万人以上います。中には、英語も日本語もわからない人たちがいます。3~4月に寄せられた250件程度の相談はほんの一部の声に過ぎないはずです。声を上げようにも上げられない人たちがいるのです」
――POSSEではどのように対応しているのですか?
「まず、企業に対して休業補償を請求することを相談者にアドバイスします。本人の理解を得ないまま一方的に『仕事に来なくていい』といったり、給与を減らしたりするのは労働基準法という法律に反します。オンライン業務に切り替わった場合も含め、それまでと同じように給与を請求できると私たちは考えています。また、住む場所を失うおそれがある人たちに、家賃と同じぐらいのお金を自治体から原則3カ月分受け取れる「住居確保給付金」や、生活していくのが難しくなった人たちが社会福祉協議会から最大20万円を借りられる「緊急小口資金」は外国人も利用できるので、状況に応じて申請のサポートをしています」
――これから、日本社会が外国人労働者に対し、どのような対応が求められますか?
「日本は働く人の数が足りないため外国人の受け入れを進めてきましたが、外国人への差別や制度の不備は少なくありません。コンビニや飲食店、介護の現場などをみればわかるように、外国人がいなければ日本社会は前に進めません。コロナ問題で見直されている様々な課題と同じように、外国人が日本社会の一員として当たり前の生活を送れるよう、一人ひとりの意識や制度を変えていくべきです」