IT・科学
中国の「化け物級」音声アプリ、素人とプロの「いいとこ取り」で成功
世界的に音声メディアが注目される中、ダウンロード数が6億を超えるお化けアプリが中国にあります。「喜馬拉雅=ヒマラヤ」は、圧倒的なコンテンツと情報の量で、ラジオとは異なる魅力を提供しています。人気の秘密は、素人とプロの「いいとこ取り」という戦略がありました。
「ヒマラヤ」は上海に本社を持つユニコーン企業で、2012年にウェブサービスを開始し、2013年にアプリをスタートしました。
「ヒマラヤ」は中国語で「エベレスト」の意味で、世界最高峰という命名には創設者の気持ちが込められています。
会社ホームページによると、アプリのダウンロード数は6億を超え、海外ユーザーも5千万を超えるとしています。
モットーは「声で人類の知恵をシェアする」(用声音分享人类智慧)。1億件の音声コンテンツを、20の大カテゴリーと、328の小カテゴリーに分類して提供しています。
ヒマラヤには中国中央テレビ(CCTV)、人民日報、新浪、フォーブスを含める5千以上のメディアに加え、アリババ、バイドゥ、デラックス、オレイなど3千以上の企業ブランドも入っています。
中国では、「ヒマラヤ」以外にほかの音声アプリがありますが、75%近くのシェアを持つ「一人勝ち」となっています。
その理由の一つが、「PUGC(Professional Users Generated Content )」と呼ばれるシステムです。
伝統的なラジオは、プロのアナウンサーがパーソナリティをつとめ、プロフェッショナルなコンテンツを提供します。しかし、放送時間の「尺」に束縛されるため、コンテンツの数に限りがあります。
音声アプリはその制限を突破できるため、一般の人も参加できますが、クオリティーはバラバラになりがちです。
そこで「ヒマラヤ」は、プロのアナウンサーではないが専門分野を持つ専門家が提供する音声コンテンツに力を入れています。
たとえば、司会者でテレビプロデューサーの馬東氏、経済学者の呉暁波氏、音楽家の高暁松氏らが「ヒマラヤ」のパーソナリティとして招かれ、彼らの影響力が「集客」につながっているのです。
「PUGC」式で生成した漫才や落語などの「エンタメ」、語学力や歴史文化に関する「教養」、また経済や金融に関する「専門分野」でコンテンツが展開されているため、課金もしやすくなっています。
2019年10月の報道によると、「ヒマラヤ」のパーソナリティは700万人を超えています。「課金」・「広告」・「ライブ中継」・「音声書籍」という四つのビジネスモデルが確立しています。
現在、パーソナリティが得る収益が全体で11.5億元(約180億円)に達し、年収が100万元(約1600万円)レベルのパーソナリティは200名近くいると伝えられています。
2017年から、「ヒマラヤ・ジャパン」が設立され、ヒマラヤは日本でもサービスを開始しました。
日本では、経営コンサルタントや作家などを招き、無料で音声コンテンツを提供することで、影響拡大を図っています。
ヒマラヤ・ジャパンのオフィシャルサイトによると、「日本でサービス開始から約2年で30万ダウンロードを突破し、チャンネル(番組)数は2万以上、エピソード数は5万以上にものぼる」と説明します。
しかし、実際は、本格的な成長はこれからのようです。
中国の「ヒマラヤ」で数億人規模のオーディエンスがいるアジア通信社社長の徐静波さんは、当初「ヒマラヤ・ジャパン」が掲げた「日本へ中国の話題を伝える」という方針が、浸透していないのが原因だと言います。
現在の「ヒマラヤ・ジャパン」は、作家の作品を朗読する「音声書籍」がメインになっているそうです。
中国では圧倒的なシェアをほこる「ヒマラヤ」ですが、海外展開を考えた場合、一般人とプロの「いいとこ取り」ともいえる「PUGC」の担い手を育てられるかが、成功の鍵を握りそうです。
1/7枚