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#22 #カミサマに満ちたセカイ

自己啓発本、ジャンル別の付き合い方 200冊読んだマニアの攻略法

意外と知らない「理想的な読み方」

さまざまな種類がある「自己啓発本」。200冊以上を読破してきた男性に、ありそうでなかった、「理想的な読み方」について語ってもらいました
さまざまな種類がある「自己啓発本」。200冊以上を読破してきた男性に、ありそうでなかった、「理想的な読み方」について語ってもらいました 出典: (c)kame

目次

ビジネス、スピリチュアル、科学……。世の中には、さまざまなテーマを扱った「自己啓発本」があふれています。私たちに、日々の悩みに対する「最適解」を提示しようとする書籍の数々。心の傷を癒やす薬となる反面、読む人を作品世界に没頭させ、著者の意図通りに思考を染め上げてしまう呪力も持っています。適度な距離を保ちつつ、その情報を人生の糧とするために必要な姿勢とは? 200冊以上を読み込んできた男性に、「理想的な読み方」について聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)

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酸いも甘いも経験し考えたこと

そもそも、自己啓発本とは何を指すのでしょうか? 自己啓発の営み全般の歴史に詳しい、立教大の小池靖教授(宗教社会学)によると、「わかりやすい人生論を大衆向けに説くハウトゥものの書籍」と定義できます。

多くはノンフィクションの体裁を取り、仕事術、恋愛や日常生活に役立つスキルを扱ったものまで、内容は多岐にわたります。社会的な成功を収める、あるいはよりよい人生を送る上で、多くの示唆を含むとして、幅広く人気を博してきました。

ただ、ポジティブな影響力が評価を得る反面、「再現性がない」「読んで満足してしまう」といった批判が寄せられることも。その是非が論じられることは少なくありません。

よい点、読む上で気をつけるべき点の双方を踏まえ、自己啓発本との付き合い方について考えられないかーー。そんな思いから、「メンタルハッカー」を名乗り、YouTube番組などで感情を整える方法について発信している、ほっしーさん(29)に協力をお願いしました。

ほっしーさんは学生時代から、ビジネス書など200冊以上を読破。その極端に「自己責任」的な主張に悩みつつも、本から得た知識を、資格試験の勉強などに役立ててきました。現在は、意見の伝え方を考える上で、参考資料にするといった形で活用しています。

「メンタルハッカー」の肩書で情報発信を続ける、ほっしーさん(本人提供)
「メンタルハッカー」の肩書で情報発信を続ける、ほっしーさん(本人提供)

【関連記事】「自己啓発本、まるで風俗」 200冊読んだ猛者が行き着いた結論

今回は、これまでに読んできた自己啓発本を、ジャンル分けしてもらうよう依頼。更に、「読みやすさ」「主張の現実性」を5段階で評価してもらった上で、以下の5点についての見解も尋ねました。

①関連書籍を手に取ったきっかけ
②ジャンル全体が持つメッセージ性
③魅力を感じた理由
④役立った点と不満だった点
⑤他人への薦め方

自己啓発本をめぐり、酸いも甘いも経験してきたほっしーさん。その立場からは、どのような景色が見えているのでしょうか?

猛者が編み出した「五つの分類」

依頼を受け、ほっしーさんは、関連書籍を次の5項目に分類してくれました。

①ビジネス書
②スピリチュアル
③古典思想系
④心理学系
⑤エッセー・体験談

それぞれについて持っている印象を、順番に見ていきましょう。

著者の「仕事術」自分に合えば成果も

①ビジネス書

 

読みやすさ:
☆☆☆★★

現実性:
☆☆☆★★

 

 

仕事でなかなか結果が出せなかったときに出会いました。いわゆる「ハウツーもの」が多く、メッセージは感じにくいと思います。「仕事や人生がうまくいかないのは”やり方”を知らないだけ」という内容が中心です。

自分が知らないような、生産性を上げるための方法が、多くの書籍に書いてありました。そのため、読み込むほどに仕事ができるようになるのでは、という気持ちになったことを覚えています。

役立つ点は、著者が説く仕事術が自分に合っていれば、実際に大きく成果が出る場合があること。一方で、その内容が有効かどうかは、時代性に左右される部分が大きいです。つまり「賞味期限」が短い上、肌に合わない場合、逆効果になる恐れもあります。

人生や仕事で成果が出ずに悩んでいるけれど、非科学的すぎる方法は気持ち悪い。そう感じている人には薦められそうです。数値ベースで語ってくれることが多く、信憑性(しんぴょうせい)は比較的あると思います。ただ、個人のために書かれているわけではなく、常に再現性が担保されるわけではない点に注意が必要です。

定番のビジネス書。内容を生かせるどうかは、著者の主張との相性にかかっているという(画像はイメージ)
定番のビジネス書。内容を生かせるどうかは、著者の主張との相性にかかっているという(画像はイメージ) 出典: PIXTA
【まとめ】

 

ほっしーさん

基本的にはマス向けにターゲッティングされているため、読みやすい本が多いです。

売上や生産性アップの方法など、自分に合うやり方を見つけられるかもしれません。

時代を超えて使えそうなノウハウが書いてある本ほど、読みにくくなる傾向があります。

高額なセミナーに誘導しようとする記述

②スピリチュアル

 

読みやすさ:
☆☆☆☆☆

現実性:
☆★★★★

 

大学時代、就職活動に失敗したとき手に取りました。人生の先行きが見通せず、心のバランスを崩していたことが、興味を持ったきっかけ。たびたび登場するのが、いわゆる「引き寄せの法則」。口に出さずとも、普段から考えていることが現実化する、という考え方です。

こうした思考法は、現状を肯定してくれます。目に見えていない、科学でも証明されていない、何らかの超越的な力を人間が持っている。そう捉えるならば、自分でも現状を一気に好転できるかもしれない、と読みながら思っていました。

そして、このジャンルの著者は、大きな熱量をもって主張を展開します。真剣な語りに触れると、どんな内容の話でも、少しは耳を傾けてしまう。そのような人間の心理を、通読してみて知ることができたのは、一つの収穫です。

ただ、読者に高額なセミナーへの参加を勧める記述があるなど、ビジネス的な意図をもって書かれている本も少なくありません。僕自身、何度も誘導されそうになりました。その点には、気をつけるべきだと感じます。

スピリチュアル本を読むときには、セミナーへの誘導文などに注意すべきだという(画像はイメージ)
スピリチュアル本を読むときには、セミナーへの誘導文などに注意すべきだという(画像はイメージ) 出典: PIXTA
【まとめ】

 

ほっしーさん

主に精神的にナイーブな人がターゲットなので、平易な表現で書かれている点が特徴です。

一方、非現実的な内容も多く、長く読み続けると悪い影響が出る不安も。

僕も過去にはまったことで、心を病んでしまったため、個人的には他人に薦めません。

古典読み、先人が悩む姿に安心感

③古典思想

 

読みやすさ:
☆★★★★

現実性:
☆☆★★★

 

一般的な自己啓発本に読み飽きてきた頃、関心を寄せました。ビジネス書が伝えるノウハウなどと違い、時代や地域を超えて通用する、物事の考え方が書かれています。内容が難しく、なかなか理解できない分、何度も読み返せる点も魅力的でした。

僕がいいなと思えたのは、先人たちも、自分と同じように困っていた、と知られたこと。「人間は数世紀経ってもあまり変わらない」とわかり、自分の悩みがとてもちっぽけに感じられました。最近のベストセラー本の内容では物足りなくなってきた、という人におすすめしたいです。

内容を理解するのに時間はかかるけれど、意義深く、長く読み続けられる。その点が古典思想の魅力であると、ほっしーさんは話す(画像はイメージ)
内容を理解するのに時間はかかるけれど、意義深く、長く読み続けられる。その点が古典思想の魅力であると、ほっしーさんは話す(画像はイメージ) 出典: PIXTA
【まとめ】

 

ほっしーさん

哲学書など、抽象的な事柄を扱うものが多く、ストレートなメッセージ性というのは感じにくいかもしれません。

内容を実生活に生かせるかどうかも、読み手の読解力や実践力に強く依存します。

しかし、読み込むならば、このジャンルがよいと思います。

「正しさ」の捉え方には注意が必要

④心理学系

 

読みやすさ:
☆☆★★★

現実性:
☆☆☆☆★

 

心理学に基づき、コミュニケーション論について解説する内容です。僕は以前、仕事のしすぎでうつ病になりました。それまで読んでいたビジネス書や、スピリチュアル本の内容に学術的な根拠が感じ取れず、悲観するようになった時期に読み始めました。

人間関係や、仕事上のコミュニケーションを改善する方法を、学問によって裏づけてくれる点に安心感を覚えます。僕は自信をもって試せました。一方、その内容は「現時点では反論がない」事実に基づいており、決して万能ではないと認識しておくべきでしょう。

一定の学術的な論拠を備えていることが、心理学系書籍の特徴という(画像はイメージ)
一定の学術的な論拠を備えていることが、心理学系書籍の特徴という(画像はイメージ) 出典: PIXTA
【まとめ】

 

ほっしーさん

他の自己啓発本と比べればエビデンスに基づいています。

ビジネスなどでつまづき、「大体の人に当てはまることを知りたい」と思ったタイミングで読むといいのでは。

ただ「あくまで現時点では正しいと言われている」というスタンスで臨む必要があります。

著名人の体験談に励まされた

⑤エッセー・体験談

 

読みやすさ:
☆☆☆☆★

現実性:
☆☆★★★

 

著者が自分の体験を通じ、読者を勇気づけようとするものが多い印象です。読書に慣れてきた頃、作家ではない著名人が本を出していると知ってから、購入するように。書き手への思い入れが深いほど、普段口にしない考えを明らかにしている点に、好感が持てました。

「あのすごい人でも、私同様に暗い過去があったのか」などと、励まされることがたびたびでした。ただ、著書を複数出版している場合、似たようなことを違った言い回しでつづっているだけ、ということもあります。

ほっしーさんは、人生の苦しい時期に、有名人のエッセーや体験記を読み励まされた(画像はイメージ)
ほっしーさんは、人生の苦しい時期に、有名人のエッセーや体験記を読み励まされた(画像はイメージ) 出典: PIXTA
【まとめ】

 

ほっしーさん

好きな著名人の本を買い、「つらいときに読む」といった使い方がいいと思います。

表現もやさしく、読みやすいものが少なくありません。

ただ、あくまで体験談でしかないため、再現性は薄いと言えるでしょう。

自己啓発本の「役割」一定ではない

レビューに何度か登場した「再現性」という言葉。自己啓発本をめぐっては、この点を疑問視する声がしばしば上がります。しかしほっしーさんは、「全ての物事はそういうもの」と冷静です。

「そもそも、再現性のあるものばかりなら、人間は同じことを繰り返すロボットのような生活をしているはず。人によって、価値観は異なりますから。『参考になるかもしれない』と思って読んでみると、自分の考え方と融合したとき、実生活でも役立つ瞬間があります」

その上で、内容をうのみにしないためには、批判的な思考を持つことが不可欠と強調。まずは一冊、ざっくりと目を通すことを勧めます。ある程度、印象がつかめたら、正反対の主張を持つ著者の本を読む。そうすると、一つのジャンルに傾倒しづらくなるそうです。

そして通読する前に、まず「あとがき」を確認する重要性も指摘しました。著者の連絡先が書いてある場合、ブログやメルマガの内容をチェックし、「怪しさ度合い」を計ることで、執筆の意図が読み取れるといいます。「書き手と”ゴール設定”を共有するのが大切です」

最後に、自らの自己啓発本の存在意義について尋ねると、こんな答えが返ってきました。

「カウンセラーのようでも、詐欺師のようでも、教祖のようでもあり……。個人的にはマンガを読む感覚に近いですね。暇つぶしや、眠れないときの睡眠導入剤としても活用しています。書き手の目的、読み手の精神状態により、役割は大きく変わるのではないでしょうか」

カミサマに満ちたセカイ
【連載「#カミサマに満ちたセカイ」】
心の隙間を満たそうと、「カミサマ」に頼る人たちは少なくありません。インターネットやSNSが発達した現代において、その定義はどう広がっているのでしょうか。カルト、スピリチュアル、アイドル……。「寄る辺なさ」を抱く人々の受け皿として機能する、様々な"宗教"の姿に迫ります。

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