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#20 #カミサマに満ちたセカイ

「自己啓発本、まるで風俗」 200冊読んだ猛者が行き着いた結論

成長が求められる社会で、自分を見失わないため必要なこと

人生の心構えを説く「自己啓発本」。多くの示唆を与えてくれる一方、心の隙間を満たすがゆえに、はまり込んでしまう人も少なくありません。今回、その一人に話を聞きました
人生の心構えを説く「自己啓発本」。多くの示唆を与えてくれる一方、心の隙間を満たすがゆえに、はまり込んでしまう人も少なくありません。今回、その一人に話を聞きました 出典: (c)kame

目次

福岡県在住の男性(29)には、「自己啓発本」を読みふけった過去があります。人生が立ちゆかなくなったとき、たまたま手に取ったビジネス書。つづられていたのは、前向き思考の大切さなど、仕事で成功するためのメッセージでした。しかし思うように成果が出ず、心のバランスを崩したとき、その内容に違和感を抱いたそうです。「まるで、手軽に欲求が満たせる風俗のようだった」。あえて強い言葉で、そう表現する理由とは? 成長が求められ続ける社会で、自分らしく生きる方法について考えます。(withnews編集部・神戸郁人)

振るわぬ成績、ビジネス書を手に

取材に応じてくれたのは、「メンタルハッカー」の肩書で活動する、ほっしーさんです。自身のYouTubeチャンネルやブログで、心のケアなどに関わる情報を発信。現在は、合同会社「メンタルタップ」の代表も務めています。

ほっしーさんには、自己啓発本に深く傾倒した時期があるといいます。

福岡県内の大学に通い、就職活動も経験した20代前半。納得いく結果が出せず、卒業後は、就活中に興味を持ったシステムエンジニア(SE)を目指すことに。22歳で専門学校に入り直しました。

「ところが、クラス分けのテストの点数が伸びなかったんです。下から数えた方が早いくらいの成績で、先生から『他の仕事も考えた方がいい』と言われてしまうほどでした」

失意の内に向かった書店で、偶然一冊のビジネス書を購入します。「思ったことが実現する」。意思の力を高め、貪欲(どんよく)に行動する重要性を伝える内容は、弱った心に強く響いたそうです。

「メンタルハッカー」の肩書で活動する、ほっしーさん
「メンタルハッカー」の肩書で活動する、ほっしーさん 出典: ほっしーさん提供

「言い聞かせ作戦」で資格取得、ところが…

ほっしーさんは当初、専門学校を卒業する2年後までに、「基本情報技術者」「応用情報技術者」という国家資格を取ると決めていました。役立ったのが、ビジネス書の教えだったといいます。

深層心理に働きかけることで、人生をよりよくできる――。そんな趣旨の記述を参考に、日々の勉強計画を立てつつ、「俺ならやれる」と自分自身に言い聞かせ続けました。そのかいあって、わずか1年で二つの資格試験に合格したのです。

「この結果は、自分が引き寄せたものではないか」。自信を深め、多種多様な啓発本を読みあさるように。その数は200冊以上にも及んだそうです。それまでの習慣を続け、24歳のとき、SEとして第一志望の企業に就職しました。

ほっしーさんはSEになるという目標を達成するため、200冊を越えるビジネス書を読み込んだ(画像はイメージ)
ほっしーさんはSEになるという目標を達成するため、200冊を越えるビジネス書を読み込んだ(画像はイメージ) 出典: PIXTA

しかし、ハードワークの連続で体調を崩し、半年ほど経ったころ休職。精神科でうつ病と診断され、静養を余儀なくされます。この出来事が、自己啓発への疑念を抱くきっかけになったと、ほっしーさんは振り返ります。

「状況が停滞し、本を読んでも十分な効果が望めない。加えて、ビジネス書の自己責任論的な主張が、『心を病んだのは自分のせいかも』と考えてしまう要因にもなりました。精神疾患とは相性が悪く、一度離れることにしたんです」

過去を省みる機会も得ました。「ネガティブなことは口にしない」といった心得や目標を紙に書き、天井に貼ったこと。愚痴を言う友人を「よくない」と批判し、疎まれたこと……。現実と理想の落差を前に、自分を見失っていたと気付いたのです。

そして約1年半後、勤め先を退職。療養期間を経て、自らの体験について、ネット上を中心に語り始めました。

うつ病になって以降、「自己責任」をうたう自己啓発本を読むと、精神的に追い込まれるようになったという(画像はイメージ)
うつ病になって以降、「自己責任」をうたう自己啓発本を読むと、精神的に追い込まれるようになったという(画像はイメージ) 出典: PIXTA

不安感とプライドが失わせた客観性

ほっしーさんが、我を忘れてしまうほど啓発本に没入したのは、なぜだったのでしょうか?

「不安感とプライドが、とても高かったからだと思います。もっと早く立ち止まれるチャンスはあったはずですが、心を病んだこともあり、客観性を失っていました。だから、深みにはまってしまったのかもしれません」

何冊もの書籍を読む中で、発見もありました。ポジティブであることをよしとするなど、どの本も内容が似通っていたのです。それでも「自分の考えは間違っていない」と思いたくて、買い続けたのだといいます。

もっとも、ほっしーさんは、その価値自体を否定しているわけではありません。エピソードに説得力を持たせるなど、情報発信の面で、学ぶべき点も多いと考えているからです。そのため「参考図書」と位置付け、今も愛読しています。

「情報発信をする上で、参考になる部分が多い」。ほっしーさんは、一定の距離を取りつつ、今も自己啓発本を愛読している(画像はイメージ)
「情報発信をする上で、参考になる部分が多い」。ほっしーさんは、一定の距離を取りつつ、今も自己啓発本を愛読している(画像はイメージ) 出典: PIXTA

啓発本を「教典」にしないため必要なこと

とはいえ、啓発本に書いてあることを実践しても、効果が測定できないという難点があります。内容を信じ込みすぎると、一種の「教典」のように感じられ、視野が狭まってしまう恐れも否定できません。

どのようにして、うまく距離を取ればいいのか――。ほっしーさんは、過去の経験を踏まえ、次のように語りました。

「個人的に、啓発本は風俗のようなものだと感じています。簡単に、手軽に欲求を満たしてくれる。でも読者は、書き手の意図に影響されてしまっている、というのが実際の所ではないでしょうか」

「様々な分野の知識を得て、自分の頭で思考できるようになること。適切な距離感を保つためには、それが一番なのではと思います」

自らの頭で思考できるようになること。自己啓発本と向き合う日々を経て、その重要性を実感したと、ほっしーさんは語る
自らの頭で思考できるようになること。自己啓発本と向き合う日々を経て、その重要性を実感したと、ほっしーさんは語る 出典: ほっしーさん提供

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