マンガ
「人の顔と名前が覚えられない」社会人の悩みをマンガに 共感が殺到
読者と学んだ「欠点」との向き合い方

マンガ「人の顔と名前が覚えられない社会人の話」
「名前を言われても思い出せない」というシチュエーションを繰り返す中で、「…私もしかして、社会人として欠陥があるのでは?」と思い詰めていくトケイさん。先輩に相談しても解決の糸口は見えず、忘れたことを責められた記憶、名前が覚えられていないことに気付いた相手の表情が頭の中をぐるぐる……。
「それでも忘れてしまう自分の 無能感に涙が出る」
「よくないところ」ばかり見えていたけど……
しかし、仕事をする中で気付いたことがあります。同僚の「愚痴」や「文句」の対象は、トケイさんに「なんで忘れるんだ」と責めた上司。自分の欠点ばかり気にしていたトケイさんにとって、「他の人にも欠点がある」ということはまさに目からウロコでした。それも、自分より長く社会人をやっている上司ならなおさら。
「もしかして――… 完全な社会人って少ないのでは?」
何かしらどこか苦手なものがあって、それが自分にとっては「相手に対する記憶力」だったんじゃないか。そう思うと、徐々に道がひらかれていきました。試しに、先輩にトケイさんの「良いところ」を恐る恐る尋ねてみると、「明るい」「意見がきっちり言える」「盛り上げ上手」「気配りができる」など、自分には見えていない「良いところ」を持っていたことを知ります。
トケイさんの様子を察した先輩は、「失敗をしないように気をつけるより、失敗をどうフォローするか、がずっと重要だから」。
それ以降、トケイさんの「忘れグセ」は直すものではなく「付き合っていくもの」に。名前を思い出せなくても、メモなどを充実させれば、他の人に迷惑をかけることはなくなっていきました。
形や大きさ、種類が違うものの、みんなそれぞれに「苦手」があることを知ったことで、心にゆとりが生まれたトケイさん。漫画の最後は、「少しずつ 少しずつ 自分を許していこう」という言葉でしめくくられています。
「なんて私はダメなんだろう」落ち込んだ
作者のトケイさんが、人よりも「人の顔を覚えるのが苦手だ」と感じるようになったのは、会社に入社してしばらくしてからでした。
「営業職という職業柄もあるのですが、他の先輩は1回会っただけで顔と名前が記憶できるのに、私は圧倒的に覚えられないことに気付きました。初めてではないのに『初めまして』と言ってしまうこともあって、いつも『なんで私はダメなんだろう』と落ち込んでいました」
しかし会社にも慣れ、視界が広がっていくにつれ、他人のミスや苦手とする部分も見えるようになりました。「ミスをする前提で、どう動くかを考える方が大事」という先輩の言葉が、トケイさんの心に大きく響きました。
「今の自分から脱却することより、認めることが大切」
「さすがに社名は忘れないようになりましたし、先輩からも『何これ?』と言われます。でも、やみくもに『できるようにならなきゃ』と思うより、こうしたメモががあればできることが増えて、安心感も持てるんです」
実は、当初の漫画のラフでは、「少しずつ 少しずつ 頑張っていこう」だった最後のセリフ。しかし、「今の自分から脱却することより、認めることが大切」という思いから、トケイさんは「少しずつ 少しずつ 許していこう」に変更したといいます。
「苦しみを共有することって、孤独を解消すること」
当初投稿した漫画は、ラフ画の状態だったにもかかわらず、「わかります」「私もそうです」という共感の声が集まりました。そこでトケイさんは初めて「私だけの悩みじゃなかったんだ」と驚いたそう。たまたま「顔と名前を覚えるのが得意」な人たちが多い環境にいたために、「一体みんなどこに隠れていたの?という気持ちです」。ラフ画をもとに、改めて構成し直して完成させたのが今回の投稿でした。
中には、作中の様子から具体的な障害や疾患に結び付けるコメントもありますが、「実は自分もその可能性を考えたことがあります」と語ります。「でも」とトケイさんは続けます。
「それらのどれであってもどれでなくとも、抱えている苦しみそのものは共有できるんじゃないかと、いただいた多くの共感コメントを見ていて感じました。もちろん名前がつくことで得られる安心はあるけれども、名前がついてなくてもその苦しみを共有して肯定できる漫画になっていればいいなと思います」
自分の悩みをはき出し、「前向きな気持ちになれた」というコメントが集まったことに、トケイさんは「私こそ、作品を多くの方に読んでもらって、同意してくれたことで、ありがたい気持ちでいっぱいです」。悩みを受け入れ、肯定する流れが、やさしい循環を生んでいました。