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「ラブライブ!」聖地に、中国から届いた優しさ コロナ禍の沼津
世界中のファンが集まれる日が、一日も早く訪れるますように。
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世界中のファンが集まれる日が、一日も早く訪れるますように。
アニメやマンガの舞台を旅する「聖地巡礼」。魅力の一つは、ファンが地元の住民と交流できることです。近年特に盛り上がりをみせているアニメ「ラブライブ!サンシャイン!!」の舞台・静岡県沼津市は、海外からも多くのファンが訪れることで知られています。その交流は、コロナ禍でも形を変えて続いていました。
沼津の賑わいぶりは「聖地」の成功例の一つとして取り上げられるほどです。例えば市内の「聖地」の一つ「三の浦総合案内所」の年間来所者数は、アニメ放送前の約9000人から一時8万人に増え、9倍近い伸び率となっています。作中に登場し、現実のアイドルグループとしても活躍する「Aqours(アクア)」のメンバーも、幾度となく沼津を訪れています。
ところが2020年3月以降、新型コロナウイルス感染拡大が「ラブライブ!」と沼津、そしてファンの三位一体を襲っています。
長年のラブライバー(「ラブライブ!」ファンの名称)で、沼津に毎週のように通っていた、神奈川県藤沢市に住むあきらさん(30)は悩みをこう打ち明けます。
「コロナによる影響で沼津にも、ライブにも行けない状況が続いています。ファンとしてできることは家で『ラブライブ!』のスマホゲームをやったり、過去のAqoursのライブのネット配信を見たりすることぐらいで、行き場を失っています。コロナが落ち着いたら、真っ先に沼津に行きたいです」
3月に仙台で予定されていたAqoursのユニットライブが6月に延期されたのを皮切りに、5月にさいたま市の埼玉スーパーアリーナで予定されていたライブが中止に。6月に延期となっていた仙台のユニットライブも再び中止となりました。
「聖地」沼津でも、「ラブライブ!」に関係する複数のホテルが閉業する事態に追い込まれています。「ホテル沼津キャッスル」が4月末をもって営業を終了。アニメの背景にも登場した「山三ビュウホテル」も4月に倒産しています。
イベントも行えない状況で、8月に毎年実施されていた花火大会「奥駿河湾海浜祭」も中止が決定しています。このお祭りはAqoursが歌う「サンシャインぴっかぴか音頭」をファンと地元関係者が一緒になって踊るプログラムもあり、「聖地巡礼」によって生まれた交流を象徴するものでした。
ファン主導の取り組みでは、9人の主人公の1人、渡辺曜の誕生日が4月17日だったことから、市内で誕生日を祝う様々なイベントが予定されていましたが、ことごとく中止となっています。
一方で、コロナ禍だからこその新たな交流も生まれています。「聖地」の一つ、あげつち商店街にある「つじ写真館」では、4月下旬に中国のラブライバーからある贈り物が届いたそうです。写真館でファンをもてなす峯知美さんはこう話します。
「上海に住むファンの方から、マスクの贈り物があったんです。上海から沼津に遊びに来ると必ず商店街や写真館に寄ってくださるご夫婦の方で、『ラブライブ!』で繋がった縁がこんな形で応援いただけるなんて本当に幸せです。世界中の皆さんが沼津を故郷のように思ってくださる気持ちが本当に嬉しいです」
つじ写真館に届いたマスクは200枚。このほか、この夫婦からはあげつち商店街の別の2店舗、「布澤呉服店」と「沼津リバーサイドホテル」にも200枚ずつマスクの寄付があったといいます。いずれも「ラブライブ!」とゆかりがあるところで、計600枚のマスクは、商店街の各店舗のほか市に寄付されたそうです。
峯さんは、コロナが収束したら今まで以上にファンとの交流を続けていきたいと言います。
「商店街は地元の人しか見かけない、静かな沼津になりました。いかにファンの皆さんが外出を我慢しているかを実感しています。世界中のファンが私たちを気遣うメッセージを送ってくださり、とても勇気をいただきました。この優しい繋がりはずっと大切にしていきたいです。コロナが落ち着いたら国内外の皆さんに沼津に遊びに来ていただき、あげつち商店街をあげて笑顔で歓迎したいと思います」
ラブライバーは、国内だけでなく世界中に広がっており、ライブともなれば世界中から“参戦”できるツアーが旅行会社によって組まれるほどです。また世界中のファンが一同に集まれる日が、一日も早く訪れることを心から願っています。
河嶌 太郎
「聖地巡礼」と呼ばれるアニメなどのコンテンツを用いた地域振興事例の研究に学生時代から携わり、10以上の媒体で記事を執筆する。「聖地巡礼」に関する情報は「Yahoo!ニュース個人」でも発信中。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。
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