緊急事態宣言が解除されたことを受け、6月1日から入館者数を制限して営業を再開する水族館「海遊館」(大阪府大阪市)。臨時休館中の4月に「走り出した」ある企画が、いまSNSで話題になっています。近畿日本鉄道(近鉄)とコラボしたラッピング電車「海遊館トレイン」です。海遊館の生き物たちのイラストが描かれた外装や内装。「イソギンチャク」を模したリボンテープがヒラヒラと動く、カラフルな中吊りには「カクレクマノミ」が隠れています。「毎日乗りたい」「かわいすぎる」という声が集まる企画がどのように生まれたのか、休館中にもかかわらず運行開始した背景を、海遊館に聞きました。
話題となっている「海遊館トレイン」は、海遊館の開業30周年を記念して近鉄とコラボしたコンセプト電車です。「まいにちのささいな時間に、小さな発見と驚きをお届けします」というメッセージを込めて、4月3日から、1日に15本程度運行しています。約1年間、近鉄奈良駅~神戸三宮駅間を走ります。
ジンベエザメやイトマキエイなど、海遊館の人気の生き物たちが描かれた外装のラッピングだけにとどまらず、内装にもこだわりがたっぷり。
特に注目を集めているのが、車内の「中吊り」です。ピンクや淡いグリーンのリボンテープがのれんのように下がっており、ヒラヒラ揺れるその隙間に、白とオレンジの模様の小さな「カクレクマノミ」が隠れています。
海遊館の担当者によると、ピンク色はイソギンチャク、淡いグリーンの中吊りは海藻をイメージしてつくられたといいます。ガタンゴトンと揺れる電車と、海中の波の揺らぎが重なって、このデザインが生まれました。
「イソギンチャクにはクマノミが、海藻にはタツノオトシゴが、本当の海の中のように、よ~く探さないとわからないように隠れています」
他にも、「弱冷車」のステッカーや「優先座席」の床面表示、「連結部」ステッカーや「引き込まれ注意」ステッカーなど、電車ではおなじみのステッカーや表示も「海遊館トレイン」仕様に。車内の至る所に海や生き物のデザインが施されています。
今回のコラボ企画のはじまりは2年ほど前。2015年に海遊館が近鉄グループに所属したことからも、担当者は「30周年を記念して何かできないかな、というアイディアは自然と出ていた」といいます。
その後、海遊館30周年のスローガン「まいにち奇跡。」と、近鉄の経営理念である《「いつも」を支え、「いつも以上」を創ります。》が重なり、「通勤や通学、お買い物など、普段の毎日が少し楽しくなる移動時間を提供できたら」という願いを込めて、コンセプト電車が生まれました。
電車に特に大きく描かれている生き物たちは約15種類。シュモクザメやハリセンボン、マンボウやカリフォルニアアシカなども登場しています。中でも担当者がおすすめするのは、車内の壁面に設置している「海中の景色」をテーマにしたアート作品です。
「海の色は、鮮やかなブルーから深みのある群青色まで様々に描かれていて、風がつくる波や砂紋など、刻一刻と表情を変える海を感じられます。うまく表現できているかわかりませんが、説明や紹介をするのではなく、海や自然っていいな、生き物を感じられるっていいな、と思っていただけることを一番に考えました」
海遊館は新型コロナウイルスの影響で3月2日から臨時休館しています。休館中も「おうちで海遊館」としてSNSやYouTubeなどで生き物たちの様子を発信するなど、精力的に活動をしてきましたが、記念すべき30周年のアニーバーサリーイヤーは、想定とは異なる形で過ごすこととなりました。
「30周年のスローガンは『まいにち奇跡。』。改めて、普通にお客様をお迎えして、いろんな生き物のことをお話していた毎日のことを、普通に過ごすことができる毎日のことを、奇跡のつながりだったんだなと感じています」
4月の「海遊館トレイン」の運行開始についても、担当者は「少し迷いました」と振り返ります。
「一緒に企画をしてきた近鉄電車の方々とも相談しましたが、この電車では海遊館の直接的な宣伝をしていません。『普段の生活が少し楽しくなる移動時間を提供しよう!』という思いで制作したので、『きっと喜んでいただけるはず。こんな状況だからこそやるべきだ!』という結論に至り、自信をもって続けることができました」
そんな「海遊館トレイン」がツイッターで話題になっていることについて、担当者は「とてもうれしい」と喜びもひとしお。
「緊急事態制限は解除されましたが、まだまだ制限しながら、気を付けながらの生活が続きます。あらためて、海や自然、生き物たちから元気をもらい、豊かな気持ちになることができる素晴らしさに気づかされました」
SNSだけにとどまらず、「海遊館トレイン」に乗車した人から「不安でいっぱいの通勤電車の中で、久しぶりに明るい気持ちになれた」などのメールが海遊館に複数届いているそうです。
「私たちこそ、このようなうれしいお言葉に、温かい気持ちになることができました。人と人の気持ちがつながることの大切さを改めて感じました。『海遊館トレイン』が、普段の毎日が少し楽しくなる移動時間を提供できたらうれしいです」
今回の反響を受けて「2回目、3回目とご乗車された方に新しい驚きと発見をご提供できるように」と、車内装飾のプチリニューアルも検討されています。
6月1日には、入館者数の制限を設けた上で、3ヶ月ぶりに営業が再開されます。担当者は「お客様にご協力いただきながら、慎重に慎重に、一歩ずつ、焦らずに新しい時代へと進んでいきたいと思います」と願いを込めます。
「海遊館トレイン」のほか、同館ではYouTubeでの「おうちで海遊館」も継続し、27日からは期間限定のオンラインショップも始めています。
「今だからこそ、海遊館ができることをみなさんと一緒に考えていきたいと思っています」