連載
#8 #おうちで本気出す
家で出来る「POP作り」2万枚書いた職人 今こそ「世界に発信を」
長かった巣ごもり生活で、読書量が増えたという人も多いはず。すぐに内容を忘れてしまう…しばらく余韻を味わいたい…そんな人は、オリジナルのPOP作りに挑戦してみてはいかがでしょうか? 書店でよく見かける、書籍の魅力を一目で伝えるあの「POP」です。これまで2万枚以上の手書きPOPを作ってきた「職人」は、「『好き』をアピールするのに効果的」と話します。魅力やコツを聞きました。
話を聞いた「職人」は、POPライターのはりまりょうさんです。秋葉原のコミック専門店で2006年から店員として本棚の整理やレジ業務、POP制作をしていましたが、漫画やラノベの個性的な手書きPOPが上司の目にとまり、2013年に専門職になりました。以降、外食業界やPOPを使ったコラムの執筆など活動を広げ、作ったPOPは2万枚を超えます。
時には無茶ぶりを受け、広辞苑や週刊誌、時事ニュースのPOPも書き上げました。仕事の依頼も多く、ラノベの編集部から連絡を受けて本の帯を担当したこともあります。
例えば、こんなPOPを書きました。
はりまさんは、「POPは読者と作家さんを繋げる場でもあるので、POPをきっかけに、これまでの購買層じゃない人からも支持が得られるようにしていきたい」と考えています。書店側の印象も過去のインタビューでも次のように話していました。
「自分の『好き』をアピールする」のにも、POPはとても効果的だとはりまさんはいいます。
「好きな作品や気になっている作品をいろんな人に伝えたい、見て欲しいという自己主張のできる人は、いいPOPを書けるんじゃないでしょうか。引っ込み思案でも潜在的にアピールしたい人はいると思います。おしゃべりが下手でも、書いたPOPをツイッターに投稿したり、インスタにアップしたり、今は世界にも発信できます」
自身も、仕事以外に趣味でPOPを書くことがあり、昨年は「カメラを止めるな」の上田慎一郎監督の映画「スペシャルアクターズ」をPOPにしました。
ツイッターには、仕事で書いたPOPを中心に投稿するはりまさん。POPの文言に「てんさいすぎる」とコメントしている漫画家さんを、エゴサーチで見つけたこともあったといいます。
「ツイッターで好きな作品を押したいときにPOPを貼ります。漫画家さんのアカウントをつけて出すと本人も見てくれるし、反応をもらえることもあります。『印刷して家宝にします』と言われたこともありました」
そんなはりまさんですが、文章をまとめたり書いたりすることはもともと得意ではないといいます。むしろ、読書感想文の宿題は「大っ嫌い」だったそうです。専門職になった頃は、短文からスタートしました。
「POPは一言二言で勝負できる世界です。1枚にまとめればいいので、長文が嫌いな人でも書けます」と断言します。
大学時代、ラジオ番組にネタを投稿する「ハガキ職人」だったというはりまさん。同じコーナーに10枚送ることもありましたが、全てインパクト勝負で面白さにこだわった短文だったそうです。伊集院光さんの深夜番組に送り、3週連続で採用されることもあったといいます。POPも「ずっとハガキ職人をやっているつもりで書いている」そうです。
漫画やラノベが中心なので、読む時間は長くても1時間程度。その間にキャッチフレーズを考えていきます。気になったワードはその場でメモ。長編作品でPOPの言葉を選ぶコツは「インパクトの強いセリフやテーマになる言葉、作品オリジナルの用語があったら活用する」ことと話します。
同じ作品でも巻ごとに違う言葉で書くため、エクセルで過去のPOPの文言を管理し、その都度チェックをして印象がかぶらないようにするそうです。実際に書く時間は10分程度といいます。
POPではネタバレ厳禁。ネタバレにならない範囲で作品が伝えるメッセージを匂わせるように意識します。作品の印象に関わるため、マイナスな言葉も入れません。ダジャレを入れるなど、遊び心を大切にしているそうです。
参考にするのは、流行語や話題になっていること、街中のポスターのキャッチコピーです。今年、大阪のお好み焼き屋さんからメニューのPOPを依頼された際は、担々麺のこんなPOPを書きました。
”噂の煩悩の塊を加えて、食欲と嗅覚を刺激する、香ばしいつる屋式焼き担々麺!! ビリッ! カリッ!”
「ブームにもなった山椒と唐辛子を使った、いわゆる『ウマシビ系』とコンフレークをトッピングした数量限定のオリジナル坦々麺。味と食感を擬音で、そしてコンフレークは、2019年M-1チャンピオンになったミルクボーイのネタのセリフ、『コーンフレークはね 朝から楽して腹を満たしたいという煩悩の塊やねん』から引用したりと、トレンドにあふれた1枚です」
いざ書くときは手書きにこだわり、言葉を大切にしながらも「目にとめてもらえるよう」意識しています。はりまさんは「派手めに大きく書いたり、詰めて書くこともありますが、ちゃんと読める絶妙な太さで書いてます。文字を打ったら僕でなくてもよくなる。筆の字の感じやペンの乗り方、味が出ます」と話します。
使用するアイテムは、筆ペンと油性ペンです。B7やB6サイズの紙に書くことが多く、一文は20文字程度に納めます。
「職人」を意識し、「ずっとがむしゃらに書いてきた」はりまさんですが、新型コロナウイルスの影響で今は休業中。家ではラジオを流しながら、担当しているWEB媒体のコラムを執筆しています。数年ぶりに聴いている深夜ラジオ番組もあり、「ハガキ職人時代の魂がうずく」そうです。
コロナをきっかけに、POPのあり方についても考えるようになりました。すべて手書きにこだわってはいるものの、最近は手書きパーツをパソコンに取り込んで加工することもあります。
「もしかしたら、今後は書店でPOPが書けないかもしれないとも思います。通販ページに掲載することはできないか、Amazonのページに貼ってみたらどうかという企画書も書きました。何かに縛られるものでもないので、食堂などでも何か書けないか、可能性は無限大だと思っています」
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