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午後7時、沈黙は破られた 沖縄で見つけた「優しいデモ」の可能性
拡声機もプラカードもないフラワーデモ
大学生の私にとって、「デモ」という言葉には、拡声機を使って訴えるような、普段とは違うものというイメージがありました。ニュースになるのは国会など東京の話題が多く、沖縄に住む自分にとっては正直、縁遠いもの。そんな時、知ったのが性暴力をなくすことを目指す「フラワーデモ」です。誰かを攻撃しない、参加者同士の思いを「共有」する。沖縄で企画した発起人の言葉から、新しいスタイルのデモについて考えます。(笑下村塾・大庭紗英)
フラワーデモは、2019年3月に性暴力に関する無罪判決が相次いだことを受け、作家の北原みのりさんが発起人となり、2019年4月に東京で行われたのが始まりです。
参加者は、「#With You」や「#Me Too」を合言葉に、被害者に寄り添うための花を持ち集まりました。
その活動は瞬く間に全国へ広がり、私の住む沖縄県でも、2019年8月からフラワーデモin沖縄が開催されるようになりました。
私は現在、沖縄県内の大学に通いながら、お笑い芸人のたかまつななさんが運営する「笑下村塾」で学生記者として活動しています。
2020年3月8日。国際女性デーにあたるその日、私はフラワーデモの象徴とされるミモザの花のブーケを手に、沖縄県庁前広場に足を運びました。会場に着くまでは、どれくらいの人が性暴力に関心があるのだろうと少し不安でしたが、170人以上の人が集まり、心強い気持ちになりました。
日が落ちて薄暗くなった19時、そっと沈黙は破られました。
「ずーっと、言いたかった」とマイクを握り、言葉を紡ぐ被害者の話に耳を傾けます。
フラワーデモで語られるのは、被害を受けた悲しみ、加害者に対する怒り、性暴力のない社会をつくっていく決意など様々です。自分と年の変わらない被害者の悲痛な声に、性暴力はひとごとではなく、自分の身近に潜んでいるものなのだと恐怖を感じました。
参加者は、マイクというバトンをつなぎ、性暴力のない未来への思いを語っていきました。
フラワーデモin沖縄を企画した一人が、発起人である上野さやかさんです。
――フラワーデモの特徴は?
「フラワーデモの目的は『優しいデモ』です。参加者のみなさんのお話をうかがいながら、ネガティブな感情を癒やしへと変換することを目指しています。フラワーデモを通して、少しでも共感や癒やしの感情を参加者の方たちと共有したい、と思っています 」
――上野さん自身、どのような思いでマイクを握っていたのですか?
「語ることがすべてではなく、同じ思いを持つ人が時間と思いを共有する、ただそれだけでいいのです。私がマイクを持ってお話する時には、『語ったことを後悔してほしくないので無理して人前で話す必要はない』とお伝えしています。誰も話をしない沈黙の時間もフラワーデモの中では大切にしています」
――3月8日のフラワーデモは、うるま市、名護市、糸満市、那覇市など県内各地に広がりました。
「県内4カ所でできたことの手応えはとても大きかったです。今までは那覇市のみの開催だったため、遠方の人から『参加したかったけれど来られなかった』という声をもらうこともありました。各地で実施したことによって、年齢性別を問わず、性暴力の被害者を支え合っていきたい気持ちは同じなのだと実感できました」
――今までは、話やすさを考えて日の落ちた時間帯に開始されていましたが、今回は日中に開催した会場もありました。
「昼間に開催した会場では、 みなさんが身に着けている花がとても華やかで、その明るさからパワーとエネルギーをもらうことができました」
――3月8日のデモを終えた後、今後の活動は?
「今回はあくまでも一区切りだと考えています。ようやくスタートした活動なので、引き続き他県とも連動していきたいと考えています」
「必要な発信ができるよう、ホームページやフェイスブックなどで『フラワーデモin沖縄』を開設しました。実は4月も発起人のみでひっそりとフラワーデモを開催していたんです 」
――それは、どんな内容だったのですか?
「発起人の3人が『#With You』や『#Me Too』と書かれたプラカードを持ち、4月11日、那覇市の県庁前広場でサイレントスタンディングをしました」
フラワーデモで印象的だったのが、たびたび訪れる沈黙です。誰もマイクを持たない時間、 そっと涙を流す人や、一緒に参加した子どもの頭をなでる人もいました。
そんな時間、「私たちが耳を傾けることで、被害者の受けた傷を癒やしてあげたい」と静か思いを寄せることができました。
マイクを握った参加者の中から「今までは私が悪いと思っていたけれど、そうではない。未来を変えたいと思いました」という声が上がりました。
それは、ネガティブな感情が「癒やし」に変換された瞬間だったと言えます。
勇気をもって声を上げれば、聞いてくれる誰かがいる。拡声機や、派手な看板はない、「静かなデモ」は、都会よりも、沖縄のような地方で開くことの意義が大きいと感じました。
性暴力根絶には、一人一人が優しい場所をつくるため行動することも大事なのだと、教えてくれたデモでした。
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