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「HUNTER×HUNTER」再開まで「毎日千回正拳突き」の胸中
果たして音を置き去りにするのか

「連載再開まで一日一千回感謝の正拳突き」
これを数年繰り返した結果、ネテロの動きは格段に高速になり、ついには音を置き去りにするという驚異的な進化と遂げます。その姿を見た者が「観音様が……!!」と涙するシーンを、印象深く心に刻まれている人も多いのではないでしょうか。
しかしなぜ今「感謝の正拳突き」をしているのでしょうか。動画を配信している、樽江突撃さん(@TarueTotugeki)に取材しました。
「自由にやってもいいんだ」YouTube配信を開始
実はもともとYouTubeに馴染みがなかったという樽江さん。配信に踏み出したきっかけは、「4時間座ったまま、ただただカメラに向かってほほえみ続ける」という、シンプルかつハードすぎる動画で話題となったアメリカのYouTuber、ベンジャミン・ベネットさんを知ったことでした。
「企画がなくても、大きなリアクションがなくても、音楽がなくても、ただ一つのことを続ける動画に集まる人がいるって素敵だなって。誰に需要があるとかじゃなくて、それはそれでいいんじゃないかなって思ったんです」
作品への「感謝」込めた正拳突き
「『HUNTER×HUNTER』が大好きで何年も読んできました。『HUNTER×HUNTER』って休載が話題になることがあって、僕にも連載再開を望む気持ちはもちろんあります。でも、これまで楽しませてもらったことに対して感謝する方法はないだろうかと思っていました」
そこで重なったのが、作中にも登場する「一日一万回感謝の正拳突き」でした。動画のファンの目にとまったら、連載再開を持つ間、気持ちを共有することもできるのではないかと考えたといいます。作中では武道に対する感謝でしたが、樽江さんは正拳突きに「作品そのもの」への感謝を込めることにしました。

しかし、「それでも3時間くらいかかりまして、平日はまず無理だし、休日も他のことをやる時間がなくなっちゃうなと……」。
慣れない祈りのポーズでぶつけてしまい指がパンパンになり、翌日は腕も筋肉痛。さすがに生活に支障が出るので、早々に「一日一千回」に切り替えました。たまに1万回に挑戦することもありますが、「素人のやることなので、大目に見てもらえるとありがたいです」

Twitterで注目「ドキドキで2時間しか眠れず」
「素人の正拳突きだし、言ってしまえば漫画のネタをパクッているだけ。だから毎日続けないと、コンテンツとして成り立たないんじゃないかと思っています」
正拳突きをしている間考えているのは、「HUNTER×HUNTER」への感謝の気持ち。その上で、回数を重ねるごとに「何も考えずにできるようになってきた」と話します。記者が「悟りみたいなものでしょうか」と尋ねると、「悟れていたらいいんですけど、疲れているだけかもしれません」と申し訳なさそうに笑います。

それがツイッターで話題になったことで、登録者数は3千人に急増。3桁ほどだった再生数も、いきなり22万回と大回転しています。突然登録者数やツイッターのフォロワーが増えたことで、「感動ももちろんあったのですが、驚きと混乱が上回ってしまっています」。
「小心者で小さなところで生きてきたので、ドキドキしてその日は2時間くらいしか眠れませんでした。胃も痛くて、具合が悪くなるほどで、人気のYouTuberさんってこういうのを味わっているなんてすごいなと……」

「好きなシーンは?」に長考、作品への愛
「あえて好きなシーンを選ぶなら?」と尋ねてみましたが、ずいぶんと困らせてしまいました。
「う~ん…(長考)…いっぱいあるのでなかなか選ぶのは難しいですね。例えば何編だったら、って言われても、たぶん絞れないと思います……。好きなキャラを聞かれても困るくらいなので……」
「難しい質問をしてごめんなさい」と謝る記者に対して「用意してこなかった僕が悪いんです」という腰の低さにも恐縮しました。そんな樽江さんの言葉の端々から、作品への深い愛が伝わってきました。

「動画で作者の冨樫先生に感謝が届くかわかりませんが、僕にはファンアートを描く素敵な技量もないので、体一つでやらせていただきます」。連載再開されるまで動画の配信を続ける予定だといいます。
「感謝の正拳突き」動画を120本以上続けてきた樽江さん。取材の最後にこんな話をしてくれました。
「感謝って良い感情だなって思うんです。伝える人も伝えられる人も、周りで見ている人も誰も損しない、素敵な感情だと思います」