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連載

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#6 カルト脱会後に困った「性の悩み」

カルトが禁じた性教育 元信者夫婦が親となり向き合う「万人の悩み」

親が「純潔」の呪縛から解き放たれるのに必要なこと

カルト宗教の元「2世信者」で、漫画家のたもさん。しどろもどろになりながら、付き合いたての彼氏と、将来設計について話し合うのですが……
カルト宗教の元「2世信者」で、漫画家のたもさん。しどろもどろになりながら、付き合いたての彼氏と、将来設計について話し合うのですが…… 出典: たもさん提供

目次

わが子が年頃を迎えると、心配になるのが、パートナーとの性的な交わり。カルト宗教の元「2世信者」で、小学5年生の息子を育てる漫画家・たもさんも、その一人です。性交や避妊の方法など、正しい知識がなければ、大切な人を傷つけかねません。しかし過去に属した教団では、性教育が禁じられ、大人になった今も口に出すのがはばかられてしまうといいます。「万人の悩み」でもある、このテーマ。恥じらいを超え子どもと向き合うためには、何が必要なのでしょうか? たもさんの描き下ろし漫画から考えます。

性教育に関する描き下ろし漫画
性教育に関する描き下ろし漫画 出典: たもさん提供

「淫行」禁じながら、避妊は教えない宗教

ちはると寝床についた、たもさん。スマートフォンを操作していると、あるニュースについてのネット記事を見つけます。中学校で、避妊や中絶といった話題を教えることに、賛否が出ているという内容でした。

「性交渉は家庭を持つまで控えるべき」「欲望を抑える性道徳が必要」。反対派の主張に触れ思い出したのは、かつて属したカルト教団「エホバの証人」(JW)の教えでした。「淫行と姦淫(かんいん)」を避けよと説きながら、避妊の方法を一切伝えなかったのです。

過剰なほど「清さ」をよしとする教団の姿勢は、たもさんの私生活に影響を与えました。

同じ2世信者で現在の夫・カンちゃんと付き合い始めた頃のこと。いずれは結婚し子どもを授かりたい。でもしばらくは、2人だけの時間も大事にしたい……。そんな気持ちを打ち明けようとしたものの、「はしたないと思われるのでは」と不安になってしまったのです。

出典: たもさん提供

「セックスしたくなったときどうするか」

顔を真っ赤にし、汗をたらしながら、たもさんは本心を伝えます。一方、カンちゃんはその様子を見て、動じもせず、淡々と答えるのでした。「子ども欲しいけど、2人で旅行とかしたいし、1年くらい避妊する?」「じゃあ、ゴム買いに行く?」

結婚後も、なかなか言い出せなかった、性の話題。「今の若い子たちはどうなんだろう」「雰囲気に飲まれて、(相手からの性的要求を)断れなかったりするのかな」。気になったたもさんは、ネット上にヒントを求めます。

すると、避妊法を紹介するウェブサイトに行き着きました。コンドームや低用量ピルなど、一般的な器具のほか、日本では販売が許されていない製品も数多く存在するーー。掲載されていた情報は、学校ですら教わることがなかったものです。

実はJWでは、性を軽視する教義に不満を持ち、脱会する若者が後を絶ちませんでした。更に望まぬ妊娠・出産を経て、子連れで教団に戻るケースまであったのです。

「セックスするな、という教育は非現実的だ」「セックスしたくなったときどうするか、教えた方がいい」。たもさんは、若者を不幸にしかねない「大人の意向」に、強い疑念を抱きます。

女性が子どもを産むことは、”義務”ではなく”権利”なのではないか。相手を尊重して、自分から備えるようにしないとーー。そう思い至った後、わが子の寝顔を眺めながら、静かに祈るのでした。「ひとりで泣いたり悩んだりする女の子が、少しでも減りますように」

出典: たもさん提供

「話すのに抵抗ある」は万人の悩み

「望まない妊娠を防ぐ」という、今回のテーマ。たもさんは漫画を描き始めるにあたり、自らのツイッターアカウントで、避妊に関するアンケートを行いました。JWの元信者と、そうでない人の双方が対象で、認識に差があるか調べるのが目的です。

するとコンドームなどの避妊具の使用率は、JWと関わりを持っていた人の方が、やや低いという結果に。「避妊具についてあまり知らない」「宗教的にふさわしくないと思っていた」という項目を選ぶ回答者も、一定数いました。

様子が異なったのが「セックスや避妊についてパートナーと話すのに抵抗がある」という質問です。「はい」と答えた割合は元信者の方が多かったものの、それ以外の人と大きな差はありませんでした。性の悩みは、立場を問わず普遍的である、と言えるのかもしれません。

たもさんは、こんなエピソードも教えてくれました。先日、息子の同級生のママ友に「わが子には、恋人に触れる前に同意を取ることを教えたい」と伝えたときのこと。「いちいち確認するの? ムードもへったくれもない」。大笑いしながら、そう返されたそうです。

「最近、新型コロナウイルスの影響で、中高生の妊娠相談が増えている、というニュースも耳にしました。セックスをするのであれば、互いに同意をとり、避妊するのが当たり前にならないと……。大人の一人として、歯がゆい思い。性教育の道のりは、まだ長そうです」

出典: たもさん提供

【執筆協力・NPO法人ピルコンからのアドバイス】

2018年3月、東京都の公立中学校で、性交や避妊法に関する授業が行われました。これを都議の一人が「不適切」と問題視し、教育委員会を巻き込む議論に発展したのです。

国の学習指導要領には、「中学校で妊娠の経過は取り扱わない」とあり、授業で性交に触れるべきではないとも解釈できます。一方、都教委が18年夏、都内の公立中の校長に対し行った調査では、半数近くが「要領にない指導も必要」と回答しました*註1

更に、性教育に関わる専門家や団体からも、「避妊や性犯罪などの知識も教えるべきだ」との声が続出します。都は19年3月、教員向けの指導書「性教育の手引」を改訂。保護者全員の理解を得るなど、一定の条件下で、要領を超えた範囲の授業も容認したのです*註2

厚生労働省の統計によると、18年度の人工妊娠中絶件数は、年間で約16万件に上ります*註3。これは年間出生数の6分の1ほどの数に相当。10代の中絶件数は1.4万件近くで、20代以上の割合は全体の9割以上にあたります。正しい性の知識は、全ての世代において必要であると言えるでしょう。

国際的には、発達段階に合わせ、5歳から性教育を行うことが推奨されています。国連教育科学文化機関(ユネスコ)などが作成した指針によれば、中高生の年齢で、妊娠検査や性的な関係の同意、不妊についても学ぶべきとしています。

指針が扱うテーマは、家族の多様性、ジェンダー平等、性情報の問題、健康的な人間関係に至るまでさまざま。しかし、これにより「性教育によって性交年齢が早まった」との報告は届いておらず、各国の研究によると、むしろ性行動が慎重になることがわかっています。

日本では、世界でスタンダードとされる避妊法が普及していないなど、多くの課題があります。自分自身の体を守り、人生を選択する力を育むため、性教育をアップグレードしていくことが、年齢を問わず求められているのです。

*註1:中学生に「避妊」教えるべき? 性教育めぐり都内中学校を調査(東京新聞ウェブサイト)
    中学校等における性教育への対応について(東京都発表資料)
         性教育(中学校)の実施状況調査結果について(東京都発表資料)



*註2:中学で「性交」教えます 学習指導要領を超えた性教育、都教委が初めて容認(東京新聞ウェブサイト)
   「性教育の手引」の改訂について(東京都発表資料)


*註3:平成30年度衛生行政報告例の概況(厚生労働省ウェブサイト)

・たもさん:10歳の時に母親に連れられてカルト宗教に入信。進学や夢、友人関係など、多くのものを宗教による制限のために諦めてきたが、息子の病をきっかけにカルト宗教への違和感を強め35歳の時に脱退。その後アメーバブログ「たもさんのカルトざんまい」やTwitter(@tamosan17)などで細々と活動中。著書に、『カルト宗教信じてました』『カルト宗教やめました』(ともに彩図社刊)がある。

・NPO法人ピルコン:正しい性の知識と判断力を育む支援により、これからの世代が自分らしく生き、豊かな人間関係を築ける社会の実現を目指す非営利団体(公式サイトはこちら)。
【連載・カルト脱会後に困った「性の悩み」(#カル性)】
元カルト2世信者の漫画家「たもさん」は、幼い頃から性的な話題を禁じられてきました。最近、思春期に差し掛かった息子の言動と向き合っています。下ネタブーム、好きな人との交わり方…どう正しい情報を伝えればいいの? 親なら誰もが抱えるであろう悩みについて、一緒に考えてみませんか? 隔週水曜日配信。

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