お金と仕事
コロナ新社会人の1日って?リモート朝会、独りランチ 気づけば終業
「コントロールでないもの」への向き合い方
「卒業式もないし、入社式もない。自分なりのけじめのつけ方をしました」。そう語る阿部のどかさん(25)は、2020年3月に大学を卒業し、社員数2000人ほどのコンサルタント会社に入社した新卒社員です。新型コロナウイルスにより、誰もが経験したことのない中で迎えた社会人生活。そんな新入社員の1日を追いながら、コロナをチャンスに変えるための生き方について考えます。(笑下村塾・佐々木ちひろ)
入社直後にあった新人研修は、会社でおこなわれました。1室に10人程度の新入社員が振り分けられ、距離をとりながらオンラインで受講したそうです。4月7日から在宅ワークに切り替わり、いまでは自宅で業務をおこなっています。そんな阿部さんの1日は朝6時の起床とともに始まります。まずはシャワーを浴び、出社に備えてメイクをします。
リモートワークがはじまった当初は、白いブラウスに黒いタイトパンツなどのビジネスカジュアルな服装に、ポニーテールだったようですが、いまでは白いカットソーに灰色のパーカー。画面に映らない下はパジャマです。
――パジャマで過ごすことに罪悪感を感じることはありますか?
「最初は新人研修でも言われたとおり、仕事にふさわしい格好をしなければと思っていました。でも、オンライン通話の際に、ほかの社員さんがラフな格好をしているのを見て、あまりかっちりしなくてもいいんだなと思いました。下はパジャマでも、上は適切な格好をしておけばバレないですし、罪悪感は感じていません(笑)。 バレたとしても大きな問題にはならない会社の雰囲気もあるので……」
「でも、ビジネスマナー研修で、起立・礼の練習をする場面があって、その時は一瞬カメラをオフにして、ズボンに履き替えて臨みました。いざ立つことになったら焦りますね(笑)」
実家暮らしの彼女は、卵かけご飯や納豆かけご飯、昨日の夕食の残りを朝食として食べます。そして、会社の代表が執筆した書籍や、哲学・経営理論などの課題図書を読み、パソコンの前で出社時間を待ちます。
――もし出社できていたら、どんな朝食を食べていたと思いますか?
「いままでは朝に用事があると、朝食を食べないことが多かったです。朝食よりメイクに時間をかけていました。本気をだせば20分くらいで終わるのですが、音楽を聴いたり、紅茶を飲んだりしながらメイクをすると、40分から1時間ほどかかってしまいます」
「学生時代にバイトをしていた時は、朝食を食べずに電車に乗り、休憩室でおにぎり2個をかきこむようにして食べていました。リモートワークになってから朝食をきちんと食べるようになって、朝の業務に集中できるようになりました。朝食って素晴らしいですよ! これからも欠かさずに食べるようにしていきたいです」
――リモートワークになってから通勤は楽になりましたか?
「会社は銀座にあるのですが、私が住んでいるところは田舎で、出勤にすごく時間がかかります。リモートワークだと満員電車に乗る必要もないですし、通勤面に関してはストレスがなくなったなと感じています」
「実は、学生時代のアルバイト先が現在の勤務先と同じビルに入っているので、そのビルが少し恋しいな、という気持ちもあります。出勤したときの銀座の街や、朝の空気も懐かしいですね。いままでは通勤電車のなかで、スマホで漫画やInstagramを見ることしかしていませんでしたが、コロナが終わったら、心機一転、通勤中は本を読みたいなと思っています」
出社時刻、朝8時30分。新入社員担当と15分程度の朝会をおこない、共有事項を把握。タイピングテストを受けたのち、自分の業務に移ります。仮配属となった部署では、商談のシステム登録や見積書の作成など、営業のサポートを主に担当します。
――朝会はどのように行われるのですか?
「朝会は新人6人と新入社員担当1〜2人を交えておこないます。基本的には朝のあいさつをする程度ですね。知らない人も特にいないので、みんな元気にしているかな、同期の顔が見られてうれしいな、という気持ちです」
「社内で使っているGoogle Hangouts Chat内で『新人の〇〇です』と書き込むと先輩の社員が反応してくれることも多く、直接話したことのない人はいても、そこまで距離を感じることはありません」
彼女の会社では、人がたくさん集まる部署会はZoom、朝会や夕会、そのほかの集まりはGoogle Hangouts Meets、基本的なコミュニケーションはGoogle Hangouts Chat、またはGmail。参加人数や業務内容によって、コミュニケーションツールを使い分けているようです。
――それぞれのツールについてどう思いますか?
「Zoomは回線がよく、画質がきれいです。一度に大人数入れるので、いろいろな人の顔が見られるのもいいですね。画面共有の機能もよく使います。最近は週に1回プレゼン大会があり、自分でつくったパワーポイントを画面共有して、プレゼンをおこなっています」
「私は極度のあがり症なので、プレゼンが大嫌い……! とくにオンラインだと、相手のリアクションが見えないので、自分の声がちゃんと聞こえているのか、不安になってしまいます」
「Google Hangouts ChatとMeetsは、手軽に使えますね。LINEをするような感覚で業務連絡ができます。ただ画質が悪かったり、相手の声が聞こえなくなったりするときもあるので、個人的にはZoomのほうが好きです」
「Gmailはプライベートでも使っていたので、慣れていますね。ただ、担当のお客さんがまだいないこともあり、自分からGmailを送信することはあまりないです。ほかの社員さんが営業先に送信したメールにBccやCcで入れてもらったり、共有された記事を読んだりするなど、まだしっかりとは使っていません」
阿部さんは12時まで商談のシステム登録をおこない、1時間の昼休憩に入ります。パスタをゆで、出来合いのソースと混ぜ合わせて食べることが多く、最近よく使うソースは、たらことミートソース、そしてときどきジェノベーゼ。食事中は業務のインプットや、アニメ『キングダム』の鑑賞に時間を充てます。
――コロナがなかったら、どんな業務にあたっていたと思いますか?
「コロナがなくても、いまやっている業務と大きな変わりはなかったと思います。先輩の社員も新入社員時代は、営業のサポートなど、同じことをしていたと伺いました」
「ただ4月から6月まで2カ月間かけて受ける大きな新人研修がある予定だったのですが、コロナの影響を受けてなくなってしまいました。正直なところ、やりたくなかったのでなくなってよかったです。ラッキーですね」
――同僚と一緒にランチを食べられませんね?
「同僚とランチを一緒に食べられないのは悲しいです。学生時代のバイト先や遊ぶ場所も銀座だったので、おいしいレストランをたくさん知っています。なかでも元バイト先であるThe Grand GINZAのミルフィールがおすすめです。国産の食材を使っていて、本当においしいですよ」
「でも理想は、土日にお弁当の作り置きして、極力昼食代を節約したいと思っています。いまは昼食にお金をかけていないので、貯金するにはいい機会ですね。貯金0円の学生時代に比べたら、だいぶたまっています」
――コロナがなかったら、どうやってお昼休みを過ごしていたと思いますか?
「同僚や先輩の社員とランチに行って、ゆっくりお茶をしていたと思います。それか、お弁当を食べたあとにスターバックスに行ってキャラメルマキアートを頼んでいるかも(笑)。まだやったことがないので、正直あまり想像がつかないですね」
「先輩とランチに行けるようになったら、新人の動きをどう思っているのか、例年に比べてどうか、ちゃんと期待に沿えた動きができているのか、たくさんお話を聞きたいです」
昼休憩後、13時からも引き続き、商談のシステム登録や新規の商談ページの作成をおこないます。気づけば終業時間になっていることも多いとのこと。18時30分から19時まで夕会に参加し、その後、日報を書き終え、19時30分から20時の間に業務を終えます。
――気づいたら終業時間になっているんですね?
「コロナの影響でキャンセルになった案件がたくさんあり、1日に作業する量が多くなっています。また、お客さんが離れてしまっている今、失注してしまった案件や新規の案件も月末に大量に登録されるので、作業にかなりの時間がかかりました。本当に大変で、肩こりの元凶と言っても過言ではないかも(笑)」
「この作業のほかにも、インプット会や2〜3件の会議が1日に入っていることもあるので、気づけば時間が過ぎていますね……」
――新入社員担当の方とのやり取りはどんなものですか? 愚痴ることはありますか?
「私の方から『今日は〇〇について話したいです。』と伝えて、面談をはじめる形が多いです。たとえば、目標設定の仕方やタイムマネジメントの仕方、日報の上手な書き方など、その都度不安に思っていることを相談しています」
「そのほかにも『ゴールデンウィークはどうだった?』など、仕事以外のお話もしますよ。親身になってくださる先輩のことは大好きです! いまの現状に満足している部分もあるので、あまり愚痴ったりすることはないですね」
業務終了後、リビングに赴き、母親が作った夕食を食べます。夕食後は1時間ほどのランニング(少ないときは2.5キロ、多いときは8キロ)やスクワット・腹筋などの筋トレをおこないます。以前はジムに通っていましたが、コロナの影響により、それもしばらくは中止。自宅でできるトレーニングメニューを組み込んでいるそうです。
――コロナがなかったら、どんなワークアウトをしていましたか?
「学生時代からジムに通っていたので、コロナがなかったら週3〜4でジムに通ってワークアウトしていたと思います。私が通っているジムはクラス制なので、みんなでひたすら動き回ります。ジムのいいところは、いろんな世代の人とつながれることです。70歳のおじいちゃんも一緒にワークアウトしていますよ」
「もともと運動は嫌いだったのですが、ジムをはじめてから、はじめて趣味と呼べるものが見つかりました。いまでは筋肉が大好き! 私の彼氏もジムに通わせて、彼氏の肉体改造を楽しんでいます。メニューも私が考えていますよ」
その後、21時30分から22時30分の間に就寝し、阿部さんは1日を終えます。
――学生時代よりも就寝時間は早いですか?
「バイトもないですし、学生時代よりも就寝時間は早くなったと思います。基本的に翌日早く起きなければいけない場合は、あまり飲まないようにしています。金曜日は飲みにいくとは思いますが、眠くなってしまうので、終電まで飲むことは、もともとなかったですね。どちらかというと、飲み代よりも、洋服やメイク、美容院などにお金を使うタイプです。」
「そして、学生時代から月に2回はフレンチを食べると決めているので、いまのうちに友人と行きたいフレンチレストランをリストアップしています。木村拓哉が主演のドラマ『グランメゾン東京』に出てきたレストランは行ってみたいですね!」
コロナの影響でリモートワークになるとは思ってもみなかった阿部さんは、「リモートワークは常にひとりぼっちで、業務中にぜったい寝てしまうと思っていました」と語ります。
しかし実際は、オンラインツールを通した会議や面談など、ほかの社員たちと顔を合わせる機会も多く、「寝る暇もない」そう。
また、ひと目のない場所で業務にあたることで、自分を律することの大切さを実感したと言います。
入社する前は「コロナが憎い」と思っていた阿部さん。海外に留学している友人たちが「日本人の危機感が薄い」とSNSでバッシングしている姿を見て、同じ日本人からどうしてたたかれなければいけないのか、と疑問に思っていたそうです。
また、そんな海外にいる友人たちが現地で差別にあっていると聞き、感染症が生む偏見の怖さも同時に実感したと言います。
大学時代の友人の中には、まだ新入社員に対する業務が振り分けられておらず、「本2冊を読んで終わりで、本当になにもすることがない。でも給料がでるからいいか……」と仕事へのモチベーションがわかない人もいるようです。
阿部さん自身の考え方が変わるきっかけになったのが、入社後、会社で言われた「ちょうどよかった、これをきっかけに。」という一言でした。
「自分がピンチになったときに、ちょうどよかった! 自分はこういうふうに行動を変えられる、と思えるようになりました。コロナ禍だからしょうがない、ではなく、コロナ禍だからこそできることがあるのだと思います」
阿部さんはリモートワークという現状を利用して、部屋の片付けや料理、ランニングなど、新しいことにチャレンジしています。
そんな阿部さんの最近はまっていることは、同期の社員やバイト先・留学時代の友人たちとZoom飲みをすること。多いときでは一度に3〜4つのZoom飲みに参加するそうです。
「5月終わりにはオフィスに行けるようになるのではないか、と思っています。みんなでまた集まれるようになったら、歓迎会をしてもらえたらうれしいです!」
卒業式も入社式といった節目のイベントがないまま、新社会人になった人たちはどういう心境なのだろう? そんな疑問から取材をはじめました。
今年、新社会人となる私の友人の中には「課題図書を読むことしかやることがない」「コロナに対する自分の会社の対応を見て、遅れていると感じた」と話す人もいます。
通勤する必要のないリモートワークは楽である一方、新しい環境での人間関係の構築、仕事に対するモチベーションの維持など、様々な障壁があるのだと感じていました。
一方、阿部さんへの取材を通して見えたのは、今回の事態を前向きに捉えるだけでなく、それをも踏み台にし、自分を成長させようとする気持ちの大切さです。
「新入社員担当の先輩が大好きです」と話していたのも印象的です。社員同士のコミュニケーション不足が懸念されるリモートワークですが、ZoomやGoogle Hangouts Chat・Meetsなどのツールも発達しています。すべての職場が同じ環境ではないのも事実ですが、新入社員への向き合い方を考えている会社であれば、離れていても良好な関係性を維持することは可能なのだと感じました。
私は現在、カナダの公立カレッジに通い、幼児教育を学んでいます。コロナの影響で、楽しみにしていた保育園での教育実習は中止。それだけではなく、3月末には付き合っていたカナダ人の彼氏からも別れを告げられました。まさに泣きっ面に蜂です……。
「どうして、いやなことはこうも続けざまにおこるのか」と部屋にこもって泣く日々を過ごしていた私は、手当たりしだいに本を読み、TED Talkを見続け、著者や登壇者の中に共通する考え方を見つけました。
それは、コントロールできるのは自分のみ、その他のものは手放す、という考え方です。
それは、阿部さんが言っていた「コロナ禍だからこそ、自分にもなにかできることがある」という考え方にも重なります。
環境や他人をコントロールするには限界があります。この自粛期間を、自分の中での物事の捉え方や行動を変える機会に変えることもできるはずです。
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