連載
#38 #やさしい日本語
学校再開の知らせが、まるで怪文書 答えにたどり着けない外国人親子
「がっこうは いつ、はじまりますか?」
政府が、39県で「緊急事態宣言」を解除しました。多くの場所で、学校が再開します。でも、日本語がまだ苦手な親子にとっては、学校のお知らせから必要な情報を得るのは難しそうです。「分散登校」「夏季休業短縮」……聞き慣れない言葉がたくさんのお知らせ。「学校がいつはじまるか分かりません」と困る人もいます。
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「
【ふりがな なし】
「分散登校」……学校の授業があります。でも、登校する日が、同じではありません。人が集まらないようにするためです。学校が決めた日、決めた時間に、学校に行ってください。
学校では、いつ学校が始まるかといったことや、休校の間に家でやること(課題)は、学校のホームページや、メールで、お知らせします。
「緊急事態」が解除になったので、学校が予定よりも、1週間ぐらい早く始まることになったところもあります。
大事なお知らせですが、「いつはじまるのか」を見つけるのは大変です。学校のお知らせに使う言葉は、普段の生活であまり聞かない言葉が多く、日本語を勉強している人でも、分かりにくいそうです。
緊急事態宣言の解除を受けて、県や市区町村の教育委員会や学校では、たくさんのお知らせが出ました。
見てみると、ホームページでは「臨時の分散型出校日のお知らせ」「学校再開に向けた対応について」と言った、タイトルがあります。
ほかにも「課題を更新しました」「学校便りをアップしました」といったタイトルが並ぶ中、日本語にまだ慣れていない人は、一つ一つ読み解きながら、必要な情報をようやく見つけます。
そしてリンク先に飛ぶと、今度は数ページにわたる、難しい日本語だけのPDFの文書が開きます。
ある学校の文書です。
「本校といたしましては3月24日に、県が4月からの学校再開を発表したこと、4月3日に教育長が……をふまえ、……と十分配慮した上で、4月8日に学校再開を進める考えでおりました。しかしながら、その後、感染者の増加が……。こうした状況をふまえ、本校におきましても……観点から」
学校が始まる日にちを知らせる前に、400字超の「経緯」を説明していました。経緯の中には、学校が始まる日とは関係のない4つの日付が並んでいました。「それで、いつはじまるの?」がとても分かりにくいです。
【ふりがな なし】
学校の人は、文章を書くとき、文書の見出し(最初のところ)に、「○日から学校が始まります」と書いてください。そうしたら、みんながその文書を理解しやすくなります。
ある学校のホームページでは、「学校の再開について」をクリックすると、教育委員会の言葉をそのまま使ったPDFに飛びました。
そこには登校方法について、こう書かれていました。「2グループに分けて分散で毎日登校し、午前・午後の入れ替えをして 授業を3時間ずつ行います」。
日本語が得意な人でも、「どうやって学校に行くの?」が分かりにくいです。
やさしい日本語にしたら、どうなるのでしょうか。
Aグループ 18日(午前)、19日(午後)、20日(午前)
Bグループ 18日(午後)、19日(午前)、20日(午後)
【ふりがな なし】
→毎日学校で授業があります。子どもたちを2つのグループに分けます。午前に授業をしたら、その次の日は、午後に授業をします。授業は3時間だけします。どのようになるか、表を見て下さい。
学校再開のお知らせによく使われている言葉(日本語辞書で調べても、あまり載っていないであろう言葉)を、日本語にまだ慣れていない人のために、「やさしい日本語」で言い換えました。
【ふりがな なし】
時差通学 →授業が始まる時間を、今までよりも遅くします。
短縮授業 →授業の時間を短くします。
夏季休業短縮 →夏休みを短くします。夏休みが少なくなった時間と同じ時間だけ、授業をします。
「やさしい日本語」にしようとして、もっと難しくなっている「もったいない」学校もありました。
外国出身の生徒が多く通う都内の高校は、お知らせにルビをふりました。
「先日、教育委員会からの連絡により『入学許可通知書』の交付をもって入学を許可いたしました。」
もともとの文章が漢字だらけだったため、ルビが増えすぎたのか、ルビが漢字からずれたり、2行になったりしていました。
せっかくルビをふっているのに、ルビがぐちゃぐちゃで、日本語が苦手な人どころか、日本語ができる人にとっても、難しくなってしまいました。
すでに自分のクラスの先生や友達、ほかの保護者と関係ができている人は、大切な情報を教えてもらうことがきます。
でも、新しい学校、特に、生徒がいろいろな場所から集まる高校に入学したばかりの人は、まだ知り合いができていないため、誰に聞くかも分からない状態だと言います。情報が分からないため、保護者も不安を感じているそうです。
NPO「青少年自立援助センター(YSC)グローバル・スクール」(東京都福生市)には、お知らせが読めずに困っている人などの相談が、ひっきりなしに来ます。多文化コーディネーターのピッチフォード理絵さんによると、「新型コロナウイルスに関する情報があふれている中で、正しい情報を見極めるのは難しいです。まだ話が出ているだけの『9月入学』が決定したと思っていた家族もいました。日本語ができないと、同じ国出身のコミュニティーで言われている情報に頼ることが多く、間違った情報を信じてしまう人々もいます」ということです。
休校中のため、学校のホームページで課題を追加して、生徒が自分でダウンロードする学校もあります。
「たくさん日本語の情報の中で、自分の課題を見つけることができない子もいます。『どうすればいいの?』と相談があると、スタッフが一緒に学校のホームページを見ながら、サポートをしています」
YSCの田中宝紀さんは、朝日新聞の取材に「もし、家の近くに外国人の家庭があったら、『大丈夫?』と声をかけてほしいです。同じクラスの人は、『お便りの内容、分かった?』と聞いてあげてください。いつも以上に『おせっかい』になってもらえたらと思います」と話します。
自治体や学校には、「外国人家庭には情報が届きづらい、という意識を持ってメッセージを出してほしいです。『やさしい日本語』や多言語の発信、自動翻訳が使えるデジタルでの発信が有効です」とお願いしています。
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