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羽生と運命の出会い、アイスダンサー西山真瑚が追いかける偉大な背中

「すごい上手なお兄さんがいるな」一目惚れ

羽生結弦を追いかけ世界で戦う西山真瑚(浅野有美撮影)
羽生結弦を追いかけ世界で戦う西山真瑚(浅野有美撮影) 出典: 朝日新聞

目次

「すごい上手なお兄さんがいるな」。アイスダンスのホープ、18歳の西山真瑚(しんご)選手には、運命を決めた出会いがある。合宿をしていた仙台のリンクで、ひときわ輝きを放っていた羽生結弦選手だった。その後、同じカナダのクリケット・クラブに所属し、今春、大学に進学。シングルと並行してアイスダンスでも急成長を果たした。偉大な先輩の教え、高橋大輔選手の転向で盛り上がるアイスダンスへの意気込み。そして、急逝したクリス・リードさんへの思いを聞いた。

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中学生の羽生に一目惚れ

東京出身の西山選手は小学1年のとき、シチズンプラザ(東京都新宿区)でスケートを始めた。

小学2年のとき、運命の出会いが訪れる。チームで合宿をしていた仙台のリンクにひときわ輝きを放っていた選手がいた。「すごい上手なお兄さんがいるな」。それが当時中学3年の羽生だった。

「トリプルアクセルを生で見て。スケーティングやスピードのレベルも違っていた。『かっこいい』と、一目惚れでした。トイレですれ違って『こんにちは』と言ったら、笑顔で『こんにちは』と答えてくれました」。そのときから西山選手にとって羽生選手は憧れであり、目標になった。

2010~11年シーズン、ノービス時代の西山真瑚選手
2010~11年シーズン、ノービス時代の西山真瑚選手 出典: 西山選手提供

再会、そしてトロントへ

西山選手は東京を拠点に練習を積んだ。2012年全日本ノービス選手権(カテゴリーB)優勝、2016年東日本ジュニア選手権優勝と、トップを目指して階段を上がっていた。

中学3年のとき、羽生選手の拠点、カナダ・トロントのクリケット・クラブのサマーキャンプに参加。小学2年以来、羽生選手との再会だった。そのときはソチ五輪で金メダルを獲得し、雲の上の存在になっていた。「テレビで見ている選手が目の前にいるという感覚で。感動しました」

五輪に出場し、コーチになるという夢を持っていた西山選手。高校進学を前にクリケット・クラブに拠点を移すことに決めた。

当時師事していた樋口豊コーチが「クリケット・クラブは選手のレベルが高い。その環境の中で練習することで、選手としてのレベルも上げられるし、いいものをたくさん見ることによっていい指導ができる」と背中を押してくれた。2017年1月、単身でカナダへ渡った。

高校1年の西山選手。シングルスケーターとして世界を目指していた。この数カ月後、アイスダンスと出会う
高校1年の西山選手。シングルスケーターとして世界を目指していた。この数カ月後、アイスダンスと出会う 出典: 朝日新聞

「羽生くんは行動で教えてくれる」

クラブの練習は毎日3時間。スケーティング、ジャンプ、スピンの専門のコーチがいて、生徒1人にコーチ3~4人のチームが組まれる。世界のトップ選手を間近で見ながら技を磨いた。

「羽生くんは言葉というより行動で教えてくれる」

そう西山選手は語る。「羽生くんは五輪を2連覇してすごすぎる選手なのにおごることもなく、レベルにかかわらずクラブの生徒やその家族に対して帽子とマスクを外して挨拶している。その姿を見て見習いたいと思った」

笑顔で挨拶している羽生選手は氷に立った瞬間、表情が変わるという。「きゅっと集中モードに入るんです。その切り替えがすごいなって」。技術、表現、集中力、ピーキング、スケートへの姿勢……すべてが勉強の毎日だった。

同じリンクの憧れの先輩、羽生結弦選手
同じリンクの憧れの先輩、羽生結弦選手 出典: 朝日新聞

アイスダンス「自分に合っていた」

羽生選手が平昌五輪で2大会連続となる金メダルを獲得した2018年冬、西山選手に転機が訪れた。クリケット・クラブのアイスダンスコーチ、アンドリュー・ハラムが「君がアイスダンスをやったら日本のアイスダンス界に貢献できると思う」と提案してくれたのだ。

半年以上悩んだが、11月に日本スケート連盟のトライアウトに参加。2歳下の吉田唄菜選手とカップルを組むことになった。吉田選手は小学生の頃からアイスダンスに取り組み、国際大会にも出場していた。

2019年に入り、シングルと並行しながら本格的にアイスダンスの練習を始めた。吉田選手について「アイスダンスの経験が長く、初めも今もひっぱってくれる。組んだときに正しい位置に直してくれます」と信頼を置いている。

アイスダンスはシングルと異なるところも多い。「初めは滑るときに近くに人がいて怖いなと思っていたけれど、慣れていけばそんなことはなかった。靴の刃がシングルと違うので使いこなすのが大変でした」という。

細かいステップやターンが多く、ルールを覚えるだけでも一苦労。正確なエッジワークが求められるため、足元を中心に動画で撮影し、修正を繰り返す。相手を持ち上げるリフトもあり、筋力をつけるためのウエートトレーニングも欠かせない。

それでも「息がぴったりあったときは気持ちいいし、シングルよりスピードが出る。小さいころから踊ったり、表現したりするのが好きだった。そこが合っていたのかな」と話す。

トップ選手に混じってカナダ・トロントを拠点に練習する
トップ選手に混じってカナダ・トロントを拠点に練習する 出典: 西山選手提供

結成1年でユース五輪金メダル

二人の相性の良さはすぐに形になって表れた。とくに2人でターンを繰り返すツイズルの息がぴったり。「合わせるのに時間がかからなかった」というから驚きだ。

本格的なシーズンが始まると、結果も出た。ジュニアグランプリ(GP)シリーズ2戦に出場、全日本ジュニア選手権で優勝した。GPシリーズNHK杯のエキシビション、年末のメダリスト・オン・アイスに出演、羽生選手と共演することができた。「うたしん」の愛称でファンの注目度も上がった。

快進撃は続く。2020年1月、スイス・ローザンヌで行われたユース五輪で異なる国・地域の選手でチームを組む団体でアイスダンス1位となり、チームで金メダル獲得。さらに3月の世界ジュニア選手権でも日本のジュニア歴代最高位となる12位に入った。

「全部の経験が新しかった。ひとつひとつの大会をこなすごとに『ここが成長した』と感じられるシーズンだった」と振り返った。

とくにユース五輪は印象に残っている。「世界の壁も痛感したが、アメリカ、カナダに追いつける位置にいるとわかり、自信になったし、モチベーションにつながった。いまの段階で五輪という雰囲気を味わえたのが良い経験になった。クラブの仲間も『1年で成績が出てすごいね』って言ってくれます」とはにかんだ。

昨年末の「メダリスト・オン・アイス」に出演した吉田唄菜、西山真瑚組
昨年末の「メダリスト・オン・アイス」に出演した吉田唄菜、西山真瑚組 出典: 朝日新聞

クリス・リードの意志を継ぎたい

吉田、西山組の活躍に加え、バンクバー五輪男子銅メダリストの高橋大輔選手(関大ク)がシングルから転向し、日本のアイスダンス界が盛り上がり始めている。

その矢先、日本代表として五輪に3大会連続で出場したクリス・リードさんが3月、心臓突然死のため急逝した。日本のアイスダンスカップルを育てたいと情熱を注いでいた。西山選手たちも指導を受けるはずだったが叶わなかった。

「リードさんは日本のアイスダンス界をひっぱってくれた。リードさんのおかげ。日本のアイスダンスを世界基準にするという思いを自分たちが引き継いでいけるように頑張っていきたい」

いまは新型コロナウイルスの影響でカナダも日本もリンクが閉鎖され、練習再開のめどは立っていない。「もしリンク再開されて、大会が始まったら、シングルでもアイスダンスでも、お客さんに感動を与えられる演技をしたい」と前を見つめる。

印象に残っている羽生選手の言葉がある。

「羽生くんは『自分に才能がない』って言っていて、絶対そんなことはないですが、『才能がなくても努力次第で人は変われるんだよ』と言ってくれました」

アイスダンスを本格的に始めてまだ1年。憧れの先輩の背中を追いかけて努力を続けている。その先輩が男子の歴史を変えてきたように、アイスダンスの歴史を変える日が来るかもしれない。日本のアイスダンス界の明るい未来に期待したい。

西山真瑚選手のストーリーは大学スポーツを応援するメディア「4years.」でも読めます。

【関連リンク】アイスダンス界に新星、羽生結弦に憧れる早稲田大・西山真瑚

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