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オンライン宿泊「これ、ありだな」予約ほぼ満床、翌朝まで続く旅行感

飲み会だけで終わらない……チェックアウト時にもらった「感動」

ゲストハウスを案内してくれるオーナーの後呂孝哉さん(左)、それを画面越しに見る筆者
ゲストハウスを案内してくれるオーナーの後呂孝哉さん(左)、それを画面越しに見る筆者

目次

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、苦境が続く宿泊業。そんな中、和歌山県のとあるゲストハウスで、旅行がしにくい状況を逆手にとった面白い取り組みをしていると聞きました。その名も「オンライン宿泊」。ネットを通じ、まるで旅に出たような体験ができるそうです。旅行好きの記者(26)が、実際に体験しました。(藤野隆晃)

「こちらはバーで、シャワーはこっちです」

「これから宿の中を案内しますね。こちらはバーで、シャワーはこっちです」。午後8時過ぎ、和歌山県那智勝浦町のゲストハウス「WhyKumano」に「チェックイン」しました。オーナーの後呂(うしろ)孝哉さん(30)の案内に従います。

「寝室はこちらです。熊野古道をイメージした造りになっています」

木の良い香りがしそうだけど、においまでは分かりません。なぜなら記者は和歌山市内にいて、会話はパソコン画面越し。ビデオ会議アプリを使った「オンライン宿泊」だからです。

宿は2019年7月にオープンしました。しかし、軌道に乗り始めた矢先に、新型コロナの影響でキャンセルが相次ぎます。先が見えない絶望感も感じましたが、宿として何かできないかと考えて、4月上旬からこの取り組みを始めました。毎晩6人ほどの予約枠がありますが、口コミで広がり、ほぼ「満床」の状態が続いています。

宿内のバーを紹介する後呂孝哉さん=2020年4月24日、和歌山市七番丁、藤野隆晃撮影
宿内のバーを紹介する後呂孝哉さん=2020年4月24日、和歌山市七番丁、藤野隆晃撮影

「宿泊客」同士が自己紹介

15分ほど施設の案内を受けた後、乾杯をしてこの日の「宿泊客」たちの自己紹介が始まりました。客は、香川から、静岡、神奈川、東京、埼玉、フランスからの参加者もいて様々。年齢も大学生から社会人までと幅があります。「和歌山には去年行きましたよ」「地元が同じだ」。全員初対面のはずなのに、会話が弾みます。

「那智大社では、神社とお寺がこんなに近い」「宿の近くには、マグロの無人販売所があるんです」。後呂さんが、宿のある那智勝浦を案内し、他の参加者の紹介も続きます。最近観光客に人気の浜辺や、日本酒がおいしいお店、ドイツとの国境に近いフランスの街の話――。話題は様々で、どの街にも行きたくなりました。

写真共有アプリを使って、お気に入りの写真や思い出も紹介し合いました。まったく異なる人生を歩む人の話を知る。取材だからとメモを取っていた記者の手はいつの間にか止まり、気付くと会話に熱中していました。

ビデオ会議アプリで乾杯する「宿泊者」たち。上段中が後呂孝哉さん、中段左が記者=2020年4月24日、「WhyKumano」提供
ビデオ会議アプリで乾杯する「宿泊者」たち。上段中が後呂孝哉さん、中段左が記者=2020年4月24日、「WhyKumano」提供

「チェックアウト」まで続く宿泊

記者は学生時代、料金が安いからと旅先でゲストハウスに泊まることがよくありました。そこには、年齢も出身地も異なる人が集います。ロビーに集まり、お菓子やおつまみを食べながら、どんな経験をしてきたか語り合いました。たった一晩だけの会話ですが、旅行の良い思い出として刻まれています。画面越しだけれど、まるで同じ体験でした。

午後10時過ぎ、消灯時間を迎えました。「ますます熊野に行きたくなった」「次こそ泊まりに行きます」。参加者たちが笑顔で感想を言い合い、画面に手を振りながら、お別れのあいさつをしました。

と、ここまでではオンライン飲み会の延長線上。宿泊は「チェックアウト」まで続きます。

翌朝、SNSに後呂さんからメッセージがあり、動画へのリンクが届きました。開くと流れるのは、宿と熊野の日常を紹介する5分ほどの動画。実際に旅行をした時のような、宿を離れる少しの切なさと、これから訪れる場所への期待を感じながら「オンライン宿泊」を終えました。

「チェックアウト」時に見る動画。宿と熊野の日常が紹介される=2020年4月25日、和歌山市、藤野隆晃撮影
「チェックアウト」時に見る動画。宿と熊野の日常が紹介される=2020年4月25日、和歌山市、藤野隆晃撮影

疑似体験に新たな可能性

旅行ができない状況だけれど、宿泊施設として、家で過ごす時間を豊かにし、宿の新たなファンを増やすという意味で手応えを感じているという後呂さん。一方、新たな発見もあったそうです。

「子どもがいて旅行ができないなど、ゲストハウスに泊まりたいが泊まれないという人が意外と多かった。新型コロナが収束した後も、続けようと思います」と話します。「オンライン宿泊」という新たな概念を浸透させるつもりだといいます。

実際に体験して記者が感じたのは「これ、ありだな」です。

オンライン会議の特長の、場所を問わずに参加できる点は生きたまま。一方で欠点として、誰かが話し出すと他の人は聞き手になるために、うまく場を回す存在が必要になりますが、後呂さんが司会役を務めるのでストレスなく会話を楽しめました。

オンライン宿泊を体験する筆者=2020年4月24日午後8時1分、和歌山市七番丁、滝沢貴大撮影
オンライン宿泊を体験する筆者=2020年4月24日午後8時1分、和歌山市七番丁、滝沢貴大撮影

また、宿の周りにどんな観光地があるかを知ることができ、オーナーの人柄も会話を通じて感じられます。もちろん、これだけで商売として成立するかは分かりませんが、後呂さんの狙いの一つ、「宿のファンを作る」という目的は達成できると思います。

さらに付け加えたいのが、「オフラインへの期待感」。時差もほぼなく、画質もきれい。今や画面を通じた会話でも不自由をあまり感じない時代です。でも、やっぱり直接会って見て話したい。いつか日常が戻った時、宿に行って、今回つながった人たちと会えたなら、何を話そう。そんなワクワクも感じました。

旅を疑似体験し、いつかの旅に向けて思いをはせる。新たな可能性を感じた「1泊2日」でした。

宿泊には予約が必要で、料金として1千円(実際に宿泊した際に使えるワンドリンク付き)を支払います。興味のある人は、SNSの「Facebook」または「Instagram」で宿名を検索して問い合わせてみてください。

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