連載
#7 #アルビノ女子日記
アルビノ女子が避け続けた人間関係、「痛み」に向き合わせた芸術家
たとえ傷つけ合っても、誰かとつながる意味
生まれつき髪や肌が白い、アルビノの神原由佳さん(26)は、「いつも場の『空気』を読んできた」と話します。「ふつう」と異なる外見のために、排除されることを恐れた過去。他人の言動で傷ついたり、逆に傷つけたりするくらいなら、本音を押し殺してしまえばいい……。そんな価値観を揺さぶったのが、とある現代美術家です。歩くだけで傷つけてしまうアート作品。「共感は幻想。たとえ傷つけ合っても、互いに対話することが必要だ」という言葉。誰かと強くつながるため、あえて「痛み」を引き受けることの意味について、神原さんの言葉でつづってもらいました。
アルビノとして生まれた私は、子どものころから「ふつう」ではないと思ってきた。「ふつう」でないから、いじめられないか、排除されないかと不安だった。だから、私は目立たないように「空気」を読み、周囲の言動に自分を合わせてきた。
両親からは「自分がされて嫌なことは人にはしてはいけない」と教わった。それもあってか、私が傷つける側に回ることも、傷つけられるのと同じくらい怖いことで、禁止事項だった。
私はよく「優しい人だね」と言われる。けど、それは違う。
本当は、自分を守るためだ。人間関係で生じるあつれきから逃げたいのだ。何かの弾みで強い言葉や口調になってしまった時には、動悸がする。相手を傷つけてしまったかもしれないのに、なぜか同時に自分の言葉で自分自身が傷ついている。
人間関係を穏便に済ませたいという私の価値観を揺さぶったのが、現代美術家の渡辺篤さん(41)だ。
渡辺さんは2010年から3年間、引きこもりを経験している。未来への不安、大切な人の裏切りなど様々な出来事が絡み合い、他人との関わりを断ち、自宅にこもった。
ある日、引きこもりの当事者を無理やり家から出そうとする支援団体に、父親が「解決」を委ねようとしていることを知る。「このままでは、ひきこもる権利さえ奪われてしまう」。渡辺さんはそう考え、自らの力で引きこもりから抜け出したという。
以来、渡辺さんは自らの経験も生かし、孤立する人たちの存在を、社会に向けて発信するアート作品をつくり続けている。
私が渡辺さんと出会ったのは、昨春。あるTV番組で共演したことだった。「現代美術家」との肩書に緊張したが、渡辺さんの優しい雰囲気にひかれ、すぐに打ち解けることができた。
特に印象に残った作品は「被害者と加害者の振り分けを越えて」だ。
会場に敷き詰められたコンクリートタイルの上を歩き、壁に掛けられた絵画を鑑賞するという体験型の作品。入場できるのは「人を傷つけたことがある人」に限られている。
足を踏み入れると、「ミシ、ミシ」とタイルにヒビが入っていく。弱者支援やケアという「善意」の名のもとであっても、加害者になりうることを突きつけるアート作品だ。
人を傷つけることも、傷つけられることも望まない私は、怖くなった。絵を鑑賞するためには、タイルを割ることを避けられない。人との関わりに置き換えると、私は人を傷つけない限り、人とはつながれないことになる。私が一番恐れていることだ。
私の気持ちを推し量るように、渡辺さんは「意地悪な作品だよね」と少し笑った。そして、こう続けた。
「人と付き合うのは怖いことですよね。傷つけることも、傷つけられることもある。『怖い』と思うのをスタート地点にすればよいと思う。いろんな人と会ってコミュニケーションをとるほど、僕らは『相手のことはわからない』ことに気づく。共感は幻想。僕らに必要なことは、互いに傷つけ合ったとしても対話し、関係を再構築することだと思う」
渡辺さんの発する言葉は時に難しくて、私は「うーん」と悩んでしまう。すぐに答えを差し出してくれるわけではない。その代わり、考えるきっかけを、私に与えてくれる。
人を傷つけることも、自分が傷つくことも怖い私は、これまで人間関係を穏便に済ませてきたと思う。本当の意味で、私は真剣に人と関わってこなかったと言えるのではないか。
人と本音でぶつかる必要があるのかもしれない。大切な人であれば、なおさらだ。たとえ、互いに傷つけ合うことになったとしても。悪意による「傷」と、人と真剣に向き合うことでできる「傷」は違う。後者なら、きっと修復は可能だ。
渡辺さんの作品のように、壊れてもまた修復をすることで、新たな価値を見出せるはずだ。修復後のつながりは、もっと強くなるかもしれない。「傷痕」も愛せるようになったら、本当の意味で誰かとつながれるのかもしれない。
と、ここまで考えみて、「でもね……」となる。やっぱり人を傷つけることは怖いよ。
【外見に症状がある人たちの物語を書籍化!】
アルビノや顔の変形、アザ、マヒ……。外見に症状がある人たちの人生を追いかけた「この顔と生きるということ」。神原由佳さんの歩みについても取り上げられています。当事者がジロジロ見られ、学校や恋愛、就職で苦労する「見た目問題」を描き、向き合い方を考える内容です。
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