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中国人ママが驚いた日本の教育「ゆとりと思ったら……慶応ボーイ?」
日本に暮らす外国人、中でも、中国国籍の「華僑」と日本国籍に帰化した「華人」の数は合計100万人に迫っています(法務省調べ)。日本に連れてきたり、生まれたりする中国にルーツを持つ子どもが増える中、気になるのは教育です。「ゆとり教育と言っても、日本の受験戦争は激しい」「成長するにつれて、子どもたちは中国語を話せなくなった」。日本で子育てをする中国人の母親の本音を聞きました。
集まったのは以下の4人です。
・方さん(30代、吉林省吉林市出身、一人娘3歳)
・孫さん(仮名、40代、北京市出身、息子二人、長男は21歳、次男13歳)
・王さん(仮名、40代、四川省成都市出身、一人娘8歳)
・記者自身(30代、浙江省出身、息子二人、長男7歳、次男2歳)
中国の教育はよく「詰め込み教育」と批判されています。海外の「ゆとりのある教育」は中国人にとっては羨ましい存在です。
日本に来て新鮮だったのは、保育園や小学校の運動会で個人に順位をつけないことだったと言います。
「子どもたちは『紅組』と『白組』に分けられ、2組しかないのに、結果は『優勝』と『準優勝』。つまり、みんな賞がもらえるわけです」(方さん)
日本で義務教育を受けたことがない母親にとって、日本の学校の第一印象は「競争を強調せず、ゆとりがある」ことだったと口をそろえます。
「公立学校の授業もかなり分かりやすく、宿題が少ないです」(王さん)
一方、日本の教育からは「ゆとり」だけではない面も感じたそうです。
「日本の塾は、受験対応のシステムとして非常によく出来上がっています。日本のエリート選抜は小学校、だいたい10歳の時点で始まっており、中国よりはるかに早いです」(孫さん)
中国の教育の場合、中学、高校に上がる際の試験(「小昇初」と「中考」)がありますが、人生の運命を決める最も重要な試験は、「高考」と呼ばれる大学入試です。学生と親にとって、「高考」は非常に大きなプレッシャーになります。
日本の場合、有名私立大の付属校に合格できれば、ほとんどの人は、そのまま大学に進学することが保証されます。極端な場合、幼稚園に入った時から、人生がほぼ決まるケースもあります。
「『慶応ボーイ』のような存在は、中国ではなかなか考えられません」(王さん)
早くから選抜が始まることは、それだけ、チャンスが多いとも言えます。
「親として、子どもにチャンスが多いほうが安心」(孫さん)という気持ちもあるようです。
外国にルーツがある家庭ならではの悩みとして、語学があります。
孫さんの場合、数年前に一時帰国し、次男は小学校4年生の時に再来日したのです。
「再来日した次男は最初、日本語が分からず成績がよくありませんでした」
その後、塾にも入り、成績がぐんぐん伸びましたそうですが、一番よかったのは「本を読むこと」だったそうです。
方さんは「できれば中国語を娘に教えたい」と話しました。
娘は3歳で、家では中国語をよくしゃべりますが、保育園での時間が長いので、日本語のほうが上達しているそうです。
王さんは夫が日本人で、家で使うのは日本語。
「娘に中国語で話しかけても、日本語で返事されます。家庭で中国語を教えるのは難しいと感じています」
記者の場合、子どもが生まれてから家で中国語を話すことを徹底したので、子どもが中国語を話すことは問題ありません。しかし読み書きになると、親が教えることに限界も感じます。
中国語への不安に対応するため、最近では「出前」の「中国語教室」が増えています。
「出前」の「中国語教室」では、近所同士の華人がお金を出し合い公民館やマンションの会議室を借り、中国語の先生を呼んで、子どもたちに授業をします。
「親としては、中国語を覚えさせたいのですが、教室が開けるのは1週間にせいぜい1回か2回くらい。小学校に入ったら、子どもたちは日本語のレベルがどんどん上がるのに、中国語は話せなくなってしまいます……」(記者)
「中国語の先生を確保したり、教えるレベルを確認したりするのが難しい」(王さん)
「日本は、中国人のための学校である中国人学校が圧倒的に足りないですね」(方さん)
気になったのは、自分から中国語をあまり話さない子どもがいることです。
「日本社会の雰囲気として、中国への評価はあまりよくないため、中国人だと認めたくない子どもが多いようです」(王さん)
「子どもに対しても、中国を蔑視するような言葉を使う人がいるため、親としてとても心配です」
新型コロナウイルスの影響で外出自粛となる前、中国人の母親たちが驚いたのは、スポーツが盛んなことです。
「週末になると、子どもたちが公園やグラウンドで走ったり、スポーツをしたりして、とても健やかな感じですね」(方さん)
「日本のほとんどの小学校、少なくとも東京では、プールが配備されていて、健康にいいですね。中国では、学費の高い私立の小学校でない限り、なかなかプールはないです」(王さん)
「子どもの礼儀が正しく、教養の高さが伝わります。なにより校舎が綺麗です」(方さん)
孫さんが驚いたのは、息子の同級生が孫さんの家に遊びにきた時のことです。
みんな飲み物やハンカチなどを持参してきます。初めて訪問する場合は、お土産までを持ってくる子がいるそうです。
中国の親、特に今、母親たちが子どもだった時代には、そこまで気にかけることはなかったそうです。
「身だしなみというか、礼儀というか、男子学生も自然にできていて、とても感心しました」
最後に「日本の学校のここが変」について聞きました。
孫さんは、PTAに積極的に参加し、日本人の母親との交流も多い方です。日本に長年生活してきたとは言え、いざ「深い」交流が始まると、慣れない、あるいは「変なところ」に気付くことがあるそうです。
ある日、次男の学校にインド人の子どもが入学してきました。インド人の両親は日本語がわからず、子どもも日本語が話せませんでした。すると、ある日本人の母親が「日本語ができなかったら、インター(インターナショナルスクール)に行きなさいよ」と言ったのです。
「そのお母さんは、私(孫さん)も外国人だと意識せずに話したと思いますが、自分の子どもがもし日本語が分からなかったら入学する資格もないのか、と思い黙り込んでしまいました」
また、日本人の母親は自分を低い位置に置くことが多いのも気になったそうです。
「ウチは散らかってて…」とか、「うちの子、全然やらなくって〜」「そうそう、うちもなのよ〜」などの会話がよくあるそうです。
「同じライングループに入ると、謙虚というか、お母さんたちがほかの人を『褒めて』、自分のことを『下げる』ことが多く見られます。あの謙譲語の使い方は、まねできません」(孫さん)
「異常な」ほどプライバシーに気を遣うことも「日本ならでは」と言います。
「学校でしか配らない小冊子でも、子どもの顔がわからない写真が使われてびっくりしました」(孫さん)
孫さんが次男に、友だちの受験校を聞くと「プライバシーだよ。知らない。聞けない。知っても教えられない」という回答が帰ってきたそうです。
「集合写真に子どもの顔を出さない親もいると聞きました」(方さん)
一方、王さんは「中国では子どもが誘拐されるケースもあるので、多少度が過ぎたと思っても、我慢はします」。
母親たちの話からは、日本と中国には、少なくない違いがあることが見えてきました。そして、その違いを実際に受け止めているのは学校に通う子どもたちです。
孫さんの次男は小学生高学年のため、差異の部分をしっかり感じとっているようです。「日本の学校では音楽やスポーツも重視するし、多くの新鮮なことに触れる機会が多いです。先生が何かを直接教えるというより、学生は自分たちが考えて問題解決に取り組むことも多いですね。(次男が)授業に出る漢詩を中国語で読んだり、中国語の意味を補足して説明し、中国の文化を紹介したりして、架け橋的な役割も実現している」そうです。
記者の長男も保育園時代から、クラスメートの日本人、ロシア人、マレーシア人のお友達と仲良く遊んでいることが多いです。親の戸惑いはあるものの、子どもたちが両国の架け橋になるよう、大人同士も交流を深めていきたいと思っています。
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