お金と仕事
相談員も「恐怖感じた」コロナウイルスの生活苦、開業医も収入激減
遅かれ早かれ「誰もが当事者」という意識を
「相談を受けていて恐怖を感じたほどの現状だ」。新型コロナウイルス感染拡大の影響で仕事や収入を突然奪われた人からの相談会を開催した弁護士はそう語った。全国の会場の電話は鳴り続け、寄せられた相談は2日間で5千件を超えた。個人事業主から正規・非正規の会社員、年金生活者、開業医まで、日々の糧を奪われた人々からの「うめき」のような訴えは、コロナによる未曽有の生活危機の現実を浮き彫りにした。「自己責任」と切り捨てられない、誰もが当事者になり得る今回の事態。悲痛な訴えから、今、必要なことを考える。(朝日新聞編集委員・清川卓史)
この「いのちとくらしを守るなんでも相談会」は、貧困・労働問題に取り組む団体でつくる実行委員会が4月18・19両日に開催した。法律家や労働組合関係者らのべ600人近い相談員が対応した。
実行委は4月23日に都内で記者会見し、大型連休中も通常通り行政などの支援窓口を開くことなどの緊急要望を国に伝えた。
相談の多くは、外出自粛や休業要請で突然収入を断たれ、暮らしが立ちゆかなくなったという内容だ。
最も多かったのは個人事業主・フリーランスの人からの相談だった。
理美容店、バー・スナック、ペンション、居酒屋、音楽教室、パソコン教室、道場、インストラクター、通訳――。職種は多岐にわたり、なかには開業医からの相談の声も。
雇用保険の失業給付や生活保護などの安全網も、この突然の生活危機に十分に機能していない面がある。
生活保護については、この緊急事態にも「水際作戦」と呼ばれる相談窓口での利用抑制やたらい回しが行われているという指摘もあった。
相談会の実行委として会見した猪股正弁護士(埼玉総合法律事務所)は、「数カ月のうちに多くの人が失業・廃業に追い込まれ、生活の基盤を失い、地域社会が崩壊して取り返しのつかない事態になるのではないか」と危機感を隠さなかった。
実行委は「緊急要望」として主に以下の内容について国に求めた。
・自治体や社会福祉協議会などの「相談崩壊」を防ぐための人員強化
・雇用保険の失業給付の「自己都合」退職における3カ月の給付制限期間の撤廃や給付日数上積み
・住宅ローンや税・社会保険料の支払い猶予
・行政が借り上げた空き室などの無償提供などによる住まいの確保
・生活保護への誤解・偏見の払拭(ふっしょく)と適用要件の緩和
当面の課題として5月上旬の連休中に、生活保護や困窮者支援などの窓口が一定期間閉ざされてしまうことを懸念。緊急対応として連休中も通常対応するよう求めている。
新型コロナウイルス感染拡大による経済危機は、インターネットカフェで暮らす潜在的なホームレス層の存在、非正規の仕事をかけ持ちするワーキングプアの苦境など、この国の現実を改めて眼前に突きつけた。
一方で、コロナ危機の最大の特徴は、その影響が個人事業主やフリーランス、正規雇用の社員ら、いわゆる「中間層」にまで及び、大打撃を与えていることだ。
想像もつかないほどの膨大な数の人々が生活危機のふちに立っている。
生活保護や住居確保給付金といった公的な「安全網」について、国は適用要件を緩和するなどの対応を打ち出す。
しかし、これまで個人の生活保障を原則「自己責任」「家族責任」としてきた流れは急には変えられず、公的な「安全網」は十分な機能をまだ果たせていない。
社会を支えてきた多数の人の暮らしが破綻するのを放置すれば、社会そのものが破壊されてしまう。いまは直接の影響を受けていないように見える職種や地域の人々も、玉突きのように厳しい苦境に追い込まれることは疑いがない。
他人事でいられる人はいない。遅かれ早かれ、誰もが生活危機の当事者になる。
雇用や住居確保、各種ローン猶予、生活保護の適用緩和など、あらゆる生活支援が必要なのは、もちろん追い詰められた人の命と暮らしを守るためだ。ただそれは、私たちが暮らす社会を守るために不可欠な、すべての人のための施策でもある。
新型コロナ関連の労働・生活相談ホットラインは、5月2日(土)、3日(日)にもある。主催は、支援団体や法律家、学識者らでつくる「生存のためのコロナ対策ネットワーク」。両日ともに午後1時~午後8時。電話番号は0120-333-774。
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