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教団での「虐待疑惑」親になった「元2世信者」の消えない不安
子どもが性犯罪の被害者になったとき、かけるべき言葉とは?
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子どもが性犯罪の被害者になったとき、かけるべき言葉とは?
宗教団体の元「2世信者」で、漫画家のたもさんには、悩みの種があります。小学生の息子が、インターネット経由で、見知らぬ大人と知り合わないかということです。過去に属した教団で起きたと疑われる、児童への性的虐待の隠蔽(いんぺい)。その情報に触れて以来、「わが子もトラブルに巻き込まれるのでは」と気が気ではありません。誰もが性犯罪の被害者になりうる時代、親はどう子どもと向き合えばよいのでしょうか? たもさんの描き下ろし作品から考えます。
「あっ、フレンド申請きた!」。漫画を描くたもさんの後ろで、息子のちはるが歓声をあげました。オンラインゲームをプレー中、別のユーザーからコンタクトがあったようです。
知らない人からメッセージが来るのでは……。心配するたもさんと対照的に、ちはるは「そういう設定にしていない」と冷静そのもの。ほっと胸をなで下ろします。
不安を抱くのには、理由があります。かつてメンバーだったキリスト教系の宗教団体が、組織内で起きた、児童への性的虐待を隠している、という海外の報道に触れたからです。団体に深く失望し、距離を置くきっかけにもなりました。
最近は、男の子も性暴力を受ける可能性がある。SNS上で知り合った人に、自分の写真を送るのは危ういーー。防犯に関する知識を学ぶ中で、たもさんは厳しい現実を知り、不安感を高めていきます。
実はたもさん自身、高校時代、痴漢に遭いました。
「隙があったんじゃない?」「もっと抵抗すればよかったのに」。本気で自分の身を案じてくれる家族をよそに、知人から投げつけられた心ない言葉。当時の苦い思い出は、今も忘れることができません。
もし、ちはるが性的なトラブルに巻き込まれたら、親としてどう振る舞うべきか。
教団のように事実をなかったことにしたり、被害について責め立てたりせず、「あなたは悪くない」と伝えよう。全力で、息子にぶつかっていこうーー。たもさんは、一人静かに決意するのでした。
性犯罪を漫画に描いた、たもさん。最も大きな動機として、「息子を被害者にも加害者にもさせたくない」という、強い思いを挙げます。
「私の母は、宗教団体の一員です。組織が信者の自由恋愛を禁じていたこともあり、子どもの頃は、行動を厳しく制限されました。今思えば、私が痴漢に遭ったのを期に、余計ガードが固くなってしまったのかもしれません」
極端な形ではあっても、娘の不安に寄り添った母。その気持ちは、他の家族も共有していました。父と弟が、犯人を取り押さえようと、竹刀を片手に家を飛び出したのです。世間体など気にしない、一心不乱な行動に、たもさんは強い信頼感を覚えたといいます。
「わが子を犯罪に遭わせないことと、ある程度の自由を与えることのバランスを考えるのは、難しいと思います。でも、起こりうる状況について事前に注意喚起をし、いつでも味方になる、という姿勢を取ることこそが大切なのではないでしょうか」
「世の中には、信じられないほど悪いことをする大人がいます。反面で、子どもたちを救いたいと、真剣に思っている大人も少なくない。そう伝えていきたいですね」
【執筆協力・NPO法人ピルコンのアドバイス】
SNSの利用がきっかけで、性被害に遭う子どもが増えています。特に深刻なのは、だまされたり脅されたりして、自分の裸体を撮影させられた上、メールなどで送るよう強要されるケースです。
児童ポルノを製造するため、幼い年齢の子どもたちを狙い、商業施設や公園のトイレに連れ込み、わいせつ行為の様子を撮影する事案もあります。
内閣府の「男女間における暴力に関する調査」(2017年度)によれば、無理やり性交などをされた経験があると答えたのは女性(1807人)の7.8%、男性(1569人)の1.5%でした。一方、「犯罪白書」(19年版)によると、17・18年の「強制性交等」の年間認知件数は、それぞれ1100件と1300件ほど。明るみに出ていない事案が多い現状がわかります。
「自分が何をされたのか理解できない」「親や家族に迷惑をかけたり、悲しませたりしたくない」。子どもが被害を受けた場合、そんな思いから事実を言い出せない、ということも珍しくないのです。
「あなたの体は、あなただけのもの。特に『プライベートゾーン』と呼ばれる水着で隠れる部分と口は、他人が勝手に触ったり、見たりしてはいけない場所だよ。逆に誰かが、あなたにそこを触らせようとしたり、 見せたりするのもよくない」
「勝手に触ってくる人がいたら『やめて』『イヤだ』と言って逃げよう。あなたは絶対に悪くない。もし触られそうになったり、そうされたりしたとき、そしてお友達が触られているところを見たら、親や信頼できる大人に相談してね」
子どもには日頃から、そのように伝えておくことが大切です。「スカートめくり」「ズボン下ろし」「カンチョー」といった遊びについても、「それはしてはいけないこと」と諭し、性加害の予防も含めて教育機会につなげていきましょう。
わが子が被害に遭ったとき、心が揺らぐのは親として当然のことです。しかし、落ち度があると責めることは「二次被害」と呼ばれ、事件によって負った心の傷を、更に深めてしまいかねません。
まずは冷静になり、子どもの気持ちを否定せずに受け止めましょう。そうすれば、本人の意思を尊重しながら、警察や相談機関と連携をとることができるでしょう。
~相談先などに関する情報~
性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの一覧(内閣府)
#8103 性犯罪被害者相談電話(全国統一)
ダイヤルすると、発信された地域を管轄する各都道府県警察の性犯罪被害相談電話窓口につながります(受付時間は各地域の窓口によって異なる)
性暴力被害者支援ガイド「大切なことを伝えたい」(性暴力救援センター・東京/SARC東京作成)
身近な人が性暴力にさらされたときの対処法をまとめた冊子
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